2006年にわれわれは,粘膜病変を有さない5cm以下の胃粘膜下腫瘍に対して腹腔鏡内視鏡合同手術(LECS)を開発し,現在まで125例を超える症例に安全に適応してきた.2014年には胃局所切除の亜型としてLECSが保険収載され,国内外に普及しつつあり,将来の発展が期待される.近年はInverted LECS,Closed LECS,Clean Net,NEWS,など,悪性腫瘍に対するLECS関連手技が開発され,粘膜病変を有する粘膜下腫瘍やリンパ節転移のリスクがない早期胃癌に対して臨床応用されている.将来的には,胃癌に対してLECSとセンチネルリンパ節生検の併用にも期待がかかり,定型的胃切除を施行されていた患者が,センチネルリンパ節生検が陰性であれば,LECSで原発巣だけ切除し,胃癌の手術後患者のQOL維持につながる可能性もある.また,超高齢者の胃癌手術への応用へも有用な術式となり得る.
軟性内視鏡による管腔内治療の開発はESDの出現である程度の成熟期を迎えた.海外より提唱されたNOTESによって注目された内視鏡的全層切除は,ESDを生んだ本邦にてLECSという形で主に胃粘膜下腫瘍に対して安全に臨床応用されるに至った.LECSにおいて内視鏡医が担う重要な役割は正確な切除範囲の設定と内腔からの確実な病変切除であり,ESDで培ったテクニックを応用しつつ,LECS特有の内視鏡診断・治療技術を構築していく必要がある.LECSの適応をESD適応外上皮性腫瘍や他臓器病変にまで広げる試みも積極的になされており,内視鏡医が治療に介入する機会は今後ますます増えていくものと思われる.
胃粘膜下腫瘍の手術療法は,Hikiらの開発したLECS(laparoscopic endoscopic cooperative surgery)により必要最小限の胃部分切除を低侵襲手術として行うことが可能となった.主に5cm以下の管内発育型GIST(gastrointestinal stromal tumor)を標的病変とし,腹腔鏡外科医と内視鏡医が協調して手術を行う画期的な方法である.また,LECSの問題点である胃壁の開放による胃内容の流出や腹膜播種への危惧に対する術式も開発されてきている.本稿では外科医の立場よりLECSおよびその関連手技を解説する.
早期胃癌に対する腹腔鏡内視鏡合同手術の導入には,非上皮性腫瘍とは違い,腹膜播種が危惧される観点から胃壁の開放をしない術式が必要とされている.胃壁非開放式であるCLEAN-NETやNEWSは,早期胃癌に応用できる可能性のある手法として注目されている.当教室ではCLEAN-NETを,センチネルリンパ節診断に基づく縮小手術の胃局所切除手技として導入してきた.臨床統計学的に術前N0とされる対象に対してはESDの適応拡大が進んでおり,ESD適応外となる,さらに深達度の深い,あるいは未分化の早期胃癌に対する胃局所切除を,安全性を担保して進める上では,センチネルリンパ節転移診断が必須である.
腸管スピロヘータ症(HIS)55例(男性48例,女性7例)の診断や臨床経過に関するretrospective studyにより臨床的意義を検討した.多くが無症状で,大腸内視鏡下生検が契機となり,HE,PAS染色や抗TP抗体法で診断された.16例で除菌治療が行われmetronidazoleが有効であった.臨床的に特徴的所見はないが,内視鏡にて炎症所見を認めた場合や原因不明の慢性下痢などIBSが疑われる症例では本症を念頭に置くことが重要である.STDや免疫異常との関連も示唆される慢性感染症で,重症報告例もあることから有症状・内視鏡的有所見例や免疫異常の合併例では積極的治療も考慮すべきと考えられた.
症例は77歳男性.胃噴門部0-IIc病変にESDを施行,病理診断は深達度SMの分化型優位混在癌,垂直断端(±)のため追加外科切除を施行した.1年10カ月後,肝腫瘍を認め肝部分切除を施行,NECと診断された.ESD病変は病理再検討により,胃NECと診断した.Stage IAのR0手術であったが,肝転移再発をきたした.肝切後の補助療法はS-1投与が有効で,1年4カ月無再発生存中である.
症例は60歳代男性.上部消化管内視鏡検査で胃穹窿部に13mm大の胃神経内分泌腫瘍を認め,血清ガストリン値は3376pg/mlと高値であった.内視鏡を含む検査所見,また抗Helicobacter pylori抗体陽性より,A型胃炎,ガストリノーマは考えにくく,B型胃炎にともなうものと考えられた.高ガストリン血症をともない発生する胃神経内分泌腫瘍でB型胃炎を背景とするものはまれであり,さらなる症例の集積が望まれる.
35歳女性.発熱の精査目的で入院.多発肝細胞癌と診断し,肝動注化学療法を行った.一方,入院後,繰り返す低血糖発作を認め,血中insulin-like growth factor(IGF)-Iとインスリンが低値であった.Western immunoblot法では,血清中に大分子量IGF-IIの発現を確認でき,IGF-II産生性肝細胞癌による非ラ氏島細胞腫瘍由来低血糖と診断した.
症例は74歳男性.壁内囊胞をともなう胆囊底部壁肥厚を認め,胆囊腺筋腫症と診断した.3年の経過で壁肥厚部から胆囊内腔へ増生する乳頭状腫瘍が明らかとなり,胆囊摘出術を施行した.組織学的診断はintracystic papillary neoplasmであり,腫瘍進展をともなう拡張したRokitansky-Aschoff sinusが多数みられたが,腺筋腫症の合併は認めず,腫瘍進展による拡張と推察した.
65歳,女性.検診の腹部超音波検査で胆囊底部に隆起性病変を指摘された.腫瘍は,30mm大の有茎性病変であり,腹部造影CTで平衡相にかけて徐々に濃染する血流態度を呈し,MRIのT2強調像でhigh intensityを呈した.病理組織所見では,腫瘍大部分が粘液湖に浮遊する印環細胞様の低分化型腺癌細胞で構築され,胆囊低分化型粘液癌と診断した.