NASHの新規診断・治療法確立のため,NASHの病態の解明が急務である.国内外におけるNASHへの関心は高まる一方であり,2014年にはわが国のガイドラインが発行された.私たちは早くからNASHに着目し,基礎的アプローチを中心にNASHに関する研究を行い,肝特異的Ptenノックアウトマウスは新規NASH動物モデルとして注目された.NASHの発症には遺伝的因子,肥満・糖尿病を背景とした脂肪毒性と生体ストレスが関与し,肝臓のみならず脂肪組織や腸管など肝外臓器も含む臓器間ネットワークが病態の形成に影響している.さらにオートファジー,アディポサイトカインなどのシグナル,自然免疫の変調など極めて多くの因子が関わっていることが明らかになってきている.
B型肝炎はHBVの増殖能とウイルスに対するヒトの免疫能のバランスにより,無症候性キャリアから肝がんまでさまざまな病期,病態が決定される.近年,核酸アナログ製剤や各種IFN治療法の開発により,ウイルス増殖を強力に抑え込み,炎症を抑えることは可能となってきたが,発がんを完全に防止するまでには至っていない.HBV治癒の最終目標である肝内のHBV DNAの完全排除は現時点では困難であることから,機能的治癒の目標としてHBsAgの陰性化を設定することにコンセンサスが形成されつつある.B型肝炎治療の進歩は,いいかえれば,ウイルスの増殖過程を明らかにして抑制し,生体側の反応をコントロールして排除する過程である.本稿ではB型肝炎治療の現状の進歩と今後の進展について述べてみたい.
ALT値が31IU/L以上でかつHBVDNA量が2000IU/mL(3.3logIU/mL)以上の2つの条件をともに満たせば治療対象として考え,そうでない場合には経過観察とするというのが,B型肝炎の治療対象に関する最新の考え方である.一方,肝硬変の場合には,ALT値の値に関係なくHBVDNA量が検出されるレベル,HBVDNA量が陽性の場合には治療対象として考える.
B型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法は,現在インターフェロン(IFN)療法と核酸アナログ製剤が主体となっている.特に核酸アナログ製剤の治療効果は高く,エンテカビル(ETV)承認後はや耐性ウイルスの出現は低率となり,アデホビル(ADV)やテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)承認後は,耐性ウイルスに対するレスキューもほとんどの症例で可能となった.また肝発癌をきたす症例は核酸アナログ投与により減少しつつある.しかしながら核酸アナログ製剤によるHBs抗原陰性化はいまだ低率である.さらに治療期間が10年以上の症例も増加しており,症例の高齢化や,腎機能や骨への影響といった新たな問題に直面してきている.
HBVが肝細胞に感染すると,核内にcccDNAが形成され,これが肝炎治癒後も残存する.このためHBs抗原陽性キャリアのみならず,HBs抗原陰性,HBc抗体ないしHBs抗体陽性の既往感染例でも,免疫抑制・化学療法後には血清HBV-DNA量が高値となり,肝炎を発症する場合がある.日本肝臓学会のガイドラインでは,免疫抑制・化学療法を実施する際には,HBs抗原陽性キャリアでは核酸アナログを予防投与し,既往感染例ではHBV-DNA測定によるモニタリングを行い,血清HBV-DNA量が20IU/mL以上になった場合に核酸アナログ投与を推奨している.しかし,厚生労働省研究班による全国調査では,B型急性肝不全の50%以上が医原病であり,ガイドライン非遵守例が根絶されていない.HBV再活性化に関する啓発活動を続ける必要がある.
B型肝炎に対する新規治療法の開発が進んでいる.直接的抗ウイルス薬としては,エントリー阻害薬,核酸医薬,コア/カプシド形成阻害薬などが開発途上にある.宿主を標的とした抗ウイルス薬としては,免疫賦活薬,サイクロフィリン阻害薬,アポトーシス促進薬などが開発途上にある.B型肝炎の治療目標はfunctional cure,すなわちHBs抗原の陰性化であるが,上記の薬剤をもってしてもこの目標を達成することは難しい.インターフェロンや核酸アナログとの併用療法がしばらくは現実的であるが,それでもなおHBs抗原陰性化の目標達成は容易でなく,今なお新しい概念に基づく治療法開発が切望されている.
症例は78歳,男性.心窩部痛精査の上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に半周性の2型腫瘍を認め,生検で神経内分泌細胞癌の診断となった.亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行し,病変は小細胞型,大細胞型の神経内分泌細胞癌が存在した.CDX-2,CD138は大細胞型でともに陽性,小細胞型でともに陰性で,異なる形質の神経内分泌細胞癌が混在した.神経内分泌細胞癌の発生機序を考察する上で示唆に富む症例と考え,報告する.
症例は86歳男性.突然の排便時出血と腹痛が出現し救急搬送された.肛門から腸管が約80mm脱出し,粘膜面に50mm大の1型腫瘍を認めた.脱出腸管の用手的整復に成功し,CTで腸重積の解除を確認した.その後の精査でS状結腸癌と診断し,待機的に腹腔鏡下根治術を施行した.腫瘍を先進部に腸重積し肛門外に脱出したS状結腸癌は比較的まれであり,これまでの本邦報告48例に加えて報告する.
80歳女性.腹部膨満と腹膜刺激症状あり.CTにて,S状結腸拡張,腸間膜捻転,free airとS状結腸壁内の気腫を認めた.緊急開腹術を施行し,S状結腸の腸壁囊状気腫症(PCI)と診断した.囊胞の被覆細胞は免疫組織学的にD2-40陽性で,内腔にはKP-1陽性の組織球や異物巨細胞の付着あり.本症例のPCIの病因としては,軸捻転との関係で有力な機械説が否定され,報告例の少ないリンパ管由来が推論された.
症例は55歳女性.心窩部痛を主訴に当院へ救急搬送され,腹部単純CT画像検査にて間膜軸性の胃軸捻転と診断した.直ちに経鼻胃管を挿入し,胃内減圧を図ったのち,ガストログラフィン上部消化管造影検査を行った.体位変換を繰り返すことで捻転は解除された.整復後再発を認めなかったが,再発を繰り返す可能性を考え,腹腔鏡下に胃固定術を行った.術後第3病日に退院し,以後再発なく経過している.
クローン病に合併した直腸会陰尿道瘻6例について検討した.全例直腸肛門病変を合併しており,直腸切断術を3例に,直腸空置を3例に行った.術直後の1例を除いて,いずれも尿道瘻による症状は改善し,尿路系に関する合併症も認めなかった.本症に対する治療法について今後の検討が必要であるが,直腸切断術あるいは直腸空置は尿道瘻を改善し,尿道の温存が可能で合併症もなく有用な治療法と考えられた.
症例は78歳女性.腹部超音波で胆囊壁肥厚を指摘され当科を受診した.造影超音波内視鏡で胆囊底部に不均一に早期濃染する14mm大の隆起性病変を認めた.開腹胆囊床切除術を施行すると組織学的に粘液産生性の腫瘍細胞の乳頭状増殖を認めた.乳頭構造が均一で細い線維性の茎を有し,intracholecystic papillary neoplasm of the gallbladderと診断した.