大腸がんは,遺伝子変異の段階的な蓄積により発生するという多段階発がん説がよく知られている.さらに染色体不安定性,マイクロサテライト不安定性,CpG island methylator phenotypeなどの分子異常に基づく大腸発がん理論が提唱されてきた.近年のオミクス解析技術の進歩により,がんゲノム・エピゲノムを網羅的に把握することが可能となり,従来の知見の整理とさらなる解明が進んでいる.また,トランスクリプトーム解析に基づくサブタイプ分類や,数理解析による大腸がん進化モデルの提唱など新たな展開も見られており,より精密ながんゲノム医療の実現に寄与することが期待されている.
近年の内視鏡イメージング技術の発展により,大腸病変の検出率および病理診断予測能力は飛躍的に向上した.しかし同時に,高精度の診断はエキスパート内視鏡医しか実現できないという,ジレンマも明らかになりつつある.このような内視鏡診断能の限界に対する革新的な解決策として注目をあびているのが,人工知能(AI)による内視鏡診断支援システムである.本稿では,ここ数年で急激に研究が活性化した内視鏡AIの世界的動向について概観するとともに,内視鏡AIを実臨床で使用する上で,必須とされる薬事承認の実施状況についても紹介する.
炎症性腸疾患の分野では,患者数や長期経過例の増加にともない,炎症性腸疾患関連腫瘍早期発見のためのサーベイランス(SL)は今後も課題であり続ける.直腸肛門部領域に好発する本邦のクローン病関連腫瘍では,SL法が未確立で,内視鏡や麻酔下生検などを工夫して組み合わせる必要があり,根本的には病理学的発生機序の解明が必要である.内視鏡的SLが普及した潰瘍性大腸炎でも,手技や病理など検討すべき課題が残されている.粘膜治癒などを目指した診療における客観的モニタリングとして内視鏡検査を施行する際にSLを行うことが理想であり,ハイリスク群を絞り込むバイオマーカーや,非専門医でも施行可能なSL内視鏡法の開発が課題である.
大腸小型ポリープに対する従来の大腸内視鏡的polypectomyは,後出血や腸管穿孔などの偶発症発症のリスクをともなうが,近年普及してきた高周波を用いず機械的に病変を切除するcold polypectomyにはこれらの偶発症がほとんど生じない.さらには,手技時間の短さに加え,コストの面においても優位性がある.しかし,従来法よりも浅い切除深度や病理組織学的評価の困難性などの問題から,早期癌は本手技の適応外と考えられている.正確な術前内視鏡診断と適切なデバイスの使用により,本手技が大腸小型ポリープに対する標準的切除法となる可能性があり,さらには,抗血栓薬内服継続症例に対するより安全な手技としても期待がかかる.
大腸癌化学療法は,Fluorouracilおよびイリノテカン,オキサリプラチンなどの殺細胞性抗がん剤に加え,血管新生阻害薬やEGFR抗体などの分子標的薬が導入され,またbiomarkerの探索などにより治療成績は著しく向上した.近年は免疫チェックポイント阻害剤の登場や,がんプレシジョン診療の時代に突入し,治療の多様化・個別化が一層進んでいる.本稿では大腸癌に対する標準的化学療法の概況について解説する.
日本の一般生活者の便秘に関するインターネット調査を実施した.51.5%が便秘を自覚し,その有意な因子は加齢,女性,糖尿病,痔疾患,脳血管疾患であった.便秘自覚者3000名の約1/3が便秘薬・下剤を服用し,43.8%は刺激性下剤を服用していた.入手方法は,医師処方37.2%,薬局購入67.5%であった.排便回数が週3回未満や硬便の割合はそれぞれ約1/3で,硬便,下痢便の人のQOLは有意に低下していた.便秘治療薬の1カ月間の支払い金額あるいは支払い可能金額は,約75%が1000円未満であった.日本人便秘自覚者の多くに十分な便秘治療が行われていないと思われ,適切な便秘診療の普及が望まれる.
52歳女性,心窩部痛,腹部不快感を主訴に救急外来を受診した.腹部骨盤造影CT検査で腹膜播種にともなう腸閉塞を認めた.骨盤内腫瘍も認めたが子宮筋腫の診断であり,腸閉塞に対する加療および原発巣の精査を行った.下部消化管内視鏡検査で虫垂孔に20mm大の粘膜下腫瘍様病変を認め,印環細胞癌の診断に至った.虫垂癌に対し化学療法を行ったが,治療開始12カ月後に永眠された.虫垂原発印環細胞癌はまれな疾患であり,報告する.
69歳女性.CT検査で膵尾部に径22mmの多血性腫瘤を認め,膵内分泌腫瘍を疑い手術を施行した.病理組織学的には,膵漿液性囊胞腺腫のsolid typeと診断された.本疾患は極めてまれで他の多血性膵腫瘍との鑑別が困難である.本症例は他疾患の経過観察のため9年前からCT検査が行われていた.後方視的に検討すると今回の腫瘍は5年前から存在しており,同腫瘍が緩徐に増大したものと考えられたため,報告する.
シリカと代替フロンHCFC-123を噴霧するガラス工場で,異時的に黄疸を主訴とし,勤務から1カ月以内に発症した2例の肝障害を認めた.症例1は経過中に再曝露による再燃を2回認め,混合型肝障害で,工場からのサンプルに対するDLSTは陽性であった.症例2は肝細胞障害型肝障害で,臨床経過と肝生検所見より薬剤性肝障害と診断した.2例はシリカと代替フロンHCFC-123吸入が関与した薬剤性肝障害と考える.
旧分類においてPanNEC G3とされていた細胞増殖能の高い膵神経内分泌腫瘍は,WHO2017新分類において高分化なPanNET G3と低分化なPanNEC G3に細分類されることとなった.これにともない,新たに出現したカテゴリーであるPanNET G3に対する化学療法について混乱が生じている.今回われわれは,PanNET G3に対し,白金製剤ベースの化学療法が奏功した症例を経験したため報告する.