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小中 節子
2011 年 108 巻 5 号 p.
723-728
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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2010年7月17日(一部は1月17日施行)に,本人の書面による意思表示の存在がなくても脳死下臓器提供,親族への優先提供を可能とする改正法が施行された.移植システムを運用する日本臓器移植ネットワークは,普及啓発,臓器提供施設の院内体制整備支援を行うとともに,改正法を遵守した移植システム構築,移植コーディネーター研修を行い,改正法施行に備えた.改正法施行から39例の脳死下臓器提供が行われ,うち本人の書面意思表示を有さない家族の承諾による脳死下臓器提供は9割であった.今後,この医療が社会の理解を得て,一般医療として確立することを念頭に置いた,適切で効率的な臓器あっせん体制を検討する必要があると考える.
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中村 俊介, 有賀 徹
2011 年 108 巻 5 号 p.
729-734
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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臓器の移植に関する法律(臓器移植法)の改正によって,家族の判断などによって脳死となった患者から移植を目的とする臓器摘出が可能となり,また修正齢12週以上の小児の臓器提供も可能となった.関連する規則や指針も,それにともなって改正がなされ,以前より混乱の原因であった「臨床的に脳死と判断される場合」の文言が削除されるなど歓迎すべき改善点も見られたが,脳死下臓器提供施設の制限に関する問題やオプション提示といった以前より存在する問題の具体的な解決はなく,新たに被虐待児に関する問題も生じている.本稿では改正された点について概説し,問題点について,今後必要となる支援制度や院内での体制についての検討を行った.
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永野 浩昭, 丸橋 繁, 小林 省吾, 和田 浩志, 江口 英利, 種村 匡弘, 梅下 浩司, 土岐 祐一郎, 森 正樹
2011 年 108 巻 5 号 p.
735-742
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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末期肝疾患に対する根治手段である「肝臓移植」は,本邦においては,1997年に脳死臓器移植法が成立したにもかかわらず,生体部分肝移植がその主流を占めてきた.しかしながら,2008年5月の「イスタンブール宣言」などの国際的事情により,2009年7月に臓器移植法改正案が成立し,翌2010年7月からの施行後,現在までに約半年が経過した.この間の脳死肝移植症例数はたしかに増加したが,(1)国際的に見た提供者不足,(2)提供者不足による脳死肝移植・待機時間,(3)MELD基準導入など肝移植適応基準の改正,(4)肝移植実施施設における移植外科医の減少と労働環境整備,などの諸問題を依然として包括している.
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杉谷 篤, 吉田 淳一
2011 年 108 巻 5 号 p.
743-752
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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膵臓移植とは1型糖尿病患者を対象にして,血糖コントロールの正常化,2次性合併症の発生・進展阻止,救命・延命を目的として行い,欧米では1型糖尿病の根治療法として確立されている.発症間もない頃に膵単独移植が選択され,糖尿病性腎不全を併発すると膵腎同時移植,あるいは腎移植を先行したあとで腎移植後膵移植が選択される.2010年7月の臓器移植法改正後,39件の脳死下臓器提供があって36件は家族承諾による提供であった.レシピエントの内訳を見ると,心臓:28名,肺:29名,肝臓:40名,小腸:2名,膵臓あるいは膵腎同時:30名,腎臓:47名であった.今後,心停止献腎提供の増加,小児ドナーからの提供,摘出手技の修練・統一,ドナーとレシピエントの適応検討,膵島移植のあり方が課題であろう.
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仁尾 正記, 和田 基, 佐々木 英之, 風間 理郎, 西 功太郎, 福澤 太一, 田中 拡, 工藤 博典, 山木 聡史
2011 年 108 巻 5 号 p.
753-758
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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小腸移植は腸管不全に対する究極的な根治的治療法であるが,かつてその成績は不良であった.近年,免疫抑制療法の発達により,格段の成績向上がみられており,欧米では脳死ドナーからの小腸移植が重症腸管不全に対する標準的治療となりつつある.わが国の小腸移植は,いまだごく限られた施設で少数例が行われているのが現状であるが,その成績は欧米のそれに匹敵する.2010年の改正臓器移植法の実施にともない,脳死小腸移植症例に増加の兆しがみられている一方で,本邦における脳死小腸移植の普及には,移植適応の適切な評価,肝小腸移植へ向けてのシステム整備,社会保険制度の適用など,解決しなければならない問題も数多く残されている.
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石橋 陽子, 松薗 絵美, 合田 智宏, 横山 文明, 菅井 望, 関 英幸, 三浦 淳彦, 藤田 淳, 鈴木 潤一, 鈴木 昭, 深澤 雄 ...
2011 年 108 巻 5 号 p.
759-768
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
ジャーナル
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急性壊死性食道炎の4例を経験した.4例とも初発症状は吐血で,上部消化管内視鏡検査では特徴的な黒色食道を呈した.発症時の基礎疾患は,3例がケトアシドーシス,2例が糖尿病であった.3例は保存的に軽快し,死亡例を1例認めたが死因は急性壊死性食道炎によるものではなく,基礎疾患である敗血症が予後を規定した.急性壊死性食道炎はまれな疾患ではあるが,緊急内視鏡における鑑別診断として念頭に置くべきであると考える.
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木津 崇, 西田 勉, 筒井 秀作, 藥師神 崇行, 柄川 悟志, 宮崎 昌典, 渡部 健二, 望月 圭, 木曽 真一, 平松 直樹, 辻井 ...
2011 年 108 巻 5 号 p.
769-777
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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症例は30歳代,男性.突然の強い心窩部痛を主訴に前医を受診し,腹部CT検査にて胃背側を中心とする腹腔内に長径7cmの嚢胞性病変を認め当院紹介.超音波内視鏡で胃と筋層を共有していたことから消化管重複症を疑ったが,確定診断が困難で悪性疾患も否定できなかったため手術を施行した.病理組織検査で線毛円柱上皮,粘液漿液混合腺,平滑筋,軟骨組織を認め気管支原性嚢胞と確定診断した.気管支原性嚢胞は胸腔内や縦隔内に発生することが多いが,腹部領域に発生することはまれである.
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松井 佐織, 氣比 恵, 阿南 会美, 阿南 隆洋, 稲垣 恭和, 叶多 篤史, 吉永 寛, 渡辺 明彦, 菅原 淳, 向井 秀一, 豊川 ...
2011 年 108 巻 5 号 p.
778-786
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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症例は60歳代,男性.下痢・体重減少にて受診し,消化管全体の多発ポリープから,Cronkhite-Canada症候群と診断された.prednisolone(PSL)投与にてポリポーシスは改善した.大腸の多発腺腫と早期癌が疑われ,PSL治療後に計15病変に対して内視鏡的粘膜切除術を施行した.1病変はSM浸潤癌であり,追加切除となった.本疾患では多発するポリープの鑑別と治療方針決定が重要と考えられた.
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澤田 傑, 堀 道大, 渡辺 繁, 在原 文夫, 木村 尚哉, 白井 聡, 直江 史郎
2011 年 108 巻 5 号 p.
787-790
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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症例は78歳,女性.腟浸潤をともなった肛門管類基底細胞癌の診断で腹会陰式直腸切断術を施行,腟を合併切除した.術前術後,厳密な補助療法を施行しなかったが5年間無再発生存した.肛門管類基底細胞癌は比較的まれな疾患である.肛門管類基底細胞癌の術式や術前,術後の補助療法の決定には,今後さらなる症例の集積と十分な検討が必要であると思われた.
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廣野 玄, 窪田 智之, 船越 和博, 渡辺 卓也, 長谷川 勝彦, 曽我 憲二, 柴崎 浩一
2011 年 108 巻 5 号 p.
791-798
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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64歳男性.以前より寒冷凝集素症と診断され,冬季になると四肢末梢のチアノーゼやレイノー症状を自覚していた.これらの症状に加え,上腹部痛を繰り返すようになり来院.CTおよび腹部血管造影にて上腸間膜動脈閉塞症と診断され,寒冷凝集素症もその一因と考えられた.寒冷凝集素症は溶血性貧血の他,血球凝集による動脈閉塞症をきたすことがあり,腹痛を訴える場合には上腸間膜動脈閉塞症も念頭に置く必要があると考えられた.
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三長 孝輔, 萱原 隆久, 上田 佳秀, 小野 一雄, 瀬田 剛史, 浦井 俊二, 上野山 義人, 山下 幸孝, 千葉 勉
2011 年 108 巻 5 号 p.
799-804
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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症例は上腹部痛を主訴に受診された27歳の男性.肝障害,黄疸,著明な肝脾腫,軽度の食道静脈瘤を認めた.幼少時より日光過敏症があった.臨床所見,ポルフィリン体検索,皮膚生検により骨髄性プロトポルフィリン症と診断し,肝不全の進行に対し生体肝移植を施行した.摘出肝は肝硬変を呈した.骨髄性プロトポルフィリン症はまれな疾患であるが,急速に進行する肝不全を呈した1例を経験したので若干の文献的考察を加え報告する.
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久保 俊之, 阿久津 典之, 若杉 英樹, 志谷 真啓, 大橋 広和, 柏谷 琴映, 細川 雅代, 高木 秀安, 山本 博幸, 佐々木 茂, ...
2011 年 108 巻 5 号 p.
805-812
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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症例は64歳男性.左上腕痛にて発見された骨腫瘍に対し骨生検を施行し,病理診断は肝細胞癌であった.この時の全身検索では原発巣となる病変を認めなかったが,14カ月後の腹部CTにて径15mmの結節性病変が出現し,肝部分切除術を施行した.病理結果は中・低分化型肝細胞癌であった.骨腫瘍生検で肝細胞癌と診断され同時期に原発巣が不明であり,また異時性に肝細胞癌を認めた報告は極めてまれであり報告する.
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福井 忠久, 伊藤 由理子, 吉岡 孝志, 武田 弘明, 河田 純男
2011 年 108 巻 5 号 p.
813-818
発行日: 2011年
公開日: 2011/05/11
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重度肝障害をともない全身状態不良の肝転移を有する食道癌に対して,緩和的放射線療法に低用量ネダプラチンと5FUによる化学療法を併用し著効を示した症例を経験したので報告する.治療開始後,肝転移巣は著明に縮小し肝機能も軽快した.外来での化学療法に移行可能となり,その後も2次,3次治療を行い,結果として600日以上の延命効果を得ることができた.
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