本邦においては高齢化社会の影響もあり大腸癌の死亡者数は増加傾向であり,癌腫別では男性3位,女性1位となっている.新規の薬物治療や外科治療の進歩により大腸癌治療の成績は改善してきたが,進行再発大腸癌のそれはまだまだ満足できるものではない.本特集では他臓器浸潤癌・肝転移・腹膜播種・直腸癌の局所再発などの大腸癌の診療で比較的遭遇しやすい困難な状況について,それぞれの領域において第一線の先生方に最先端の診断と治療,並びに今後の展望について解説をお願いした.
遠隔転移を認めない局所浸潤大腸癌には他臓器一括切除術が推奨され,一括切除が完遂できれば,他臓器浸潤の認められない大腸癌と同程度の予後が期待できる.術前に他臓器に浸潤が疑われた癌のうち病理診断にて実際に浸潤が認められる症例は約半数であるが,術前画像診断や術中所見では浸潤を否定し難いため,疑われる場合には他臓器一括切除が必要である.腹腔鏡手術も考慮されるアプローチであるが,腹腔鏡での手術継続が困難と判断されたなら,術中偶発症をおこす前に開腹移行(戦略的開腹移行)するべきである.複雑な再建を必要とする症例では,専門医のいる高次の病院で手術を行うことが推奨される.術前治療(NAC,CRT)は1つの選択肢である.
大腸癌肝転移に対する外科治療はこの四半世紀で劇的に進歩した.1996年の報告に端を発するconversion surgeryといった概念での手術手技の工夫および治療戦略の改良,担癌宿主の高齢化に対する低侵襲化を企図した腹腔鏡やロボット支援下での切除技術の向上といった2領域の進歩には,特筆すべきものがある.ただし,依然として,これらのうちの大多数がガイドラインで十分推奨されるエビデンスレベルには達していない.肝転移治療のさらなる成績向上のためには,これらの手技や戦略のエビデンスの創出が急務である.
大腸癌腹膜播種は肝転移や肺転移と比較し予後不良な病態であるが,近年の全身化学療法の発展にともない治療成績は向上してきている.切除可能なP1,P2症例の治療方針に関しては,切除の有効性が本邦の多施設研究より報告されており,ガイドラインでも切除が推奨されている.P3症例に対しては本邦での標準治療は全身化学療法であり,ガイドラインで推奨される切除不能大腸癌に対する薬物療法を施行することが推奨される.海外では大腸癌腹膜播種および腹膜偽粘液腫の治療として,完全減量切除および腹腔内温熱化学療法が専門施設に集約され広く行われるようになり,その良好な成績が数多く報告されており,今後の治療成績の発展において注目される.
直腸癌骨盤内局所再発は,進行下部直腸癌の最も多い再発の1つである.重要臓器の再発ではないため直腸癌局所再発のみで死亡することはないが,長期間の闘病,神経浸潤などによる疼痛,局所の感染や出血など,QOL低下を招く.再発形式に則った治療戦略が重要であるが,いかに局所を確実に切除できるかがポイントとなる.化学放射線療法など集学的治療を用いた積極的な拡大手術により,切除断端に癌を露出させることなく腫瘍を周辺臓器とともに一塊として切除する.極めて侵襲の大きな手術であるため,多くの経験を積んだ専門施設での治療が望ましい.
8年間の免疫抑制・化学療法例のHBV再活性化発生状況を前向きに検討した.HBV既往感染1516例中,31例のHBV再活性化が発生した.毎年年間1~7例,8科の複数科に発生しており,リツキシマブ例から8例,抗悪性腫瘍剤例から10例,ステロイド例から10例,DAA例から3例の発生であった.累積HBV再活性化率は,1年1.2%,2年2.3%,3年3.4%であり,リツキシマブ使用例,ステロイド使用例,HBc抗体単独陽性例で有意に高い結果であった.免疫抑制・化学療法中のB型既往感染からのHBV再活性化発生状況を明らかにした.病院全体での厳重な注意,取り組みが必要であると思われた.
60歳代女性.主訴は検診胃X線異常.スキルス胃癌を疑ったが胃生検でGroup1で,貯留腹水および開腹手術での細胞診で当初ClassIIであったが,その後細胞転写法による免疫染色を行うことで初めて腹水中の癌細胞が確認された.未分化型進行胃癌・腹膜播種・リンパ行性転移が病理学的に認められた.腹水細胞診で臨床像と異なる結果が得られた際の免疫染色の有効性を示唆する症例である.
内視鏡的に小網梗塞を示唆する所見を認めた2症例を経験した.両症例ともに胃角部小彎側に粘膜下腫瘍様の隆起を認め,また症例1でのみ隆起部に限局する強い圧痛を認めた.小網梗塞と判断し,保存的加療で症状は徐々に消失した.小網梗塞は,時に腹膜刺激兆候をともなう腹痛を呈するものの,大半は保存的加療が可能な疾患であり,慎重かつ正確な診断が重要である.内視鏡所見が小網梗塞の診断の一助となる可能性があり,これを報告する.
40歳台後半の女性.Peutz-Jeghers症候群に合併した進行小腸癌に対し外科的切除を施行後,補助化学療法としてOxaliplatin+Capecitabine療法を開始した.吻合部および腹膜での再発を認め,BevacizumabやPanitumumabを併用するも腫瘍は増大した.高頻度マイクロサテライト不安定性を確認し,Pembrolizumabの投与を開始後,腫瘍は著明に縮小し,有害事象なく約20カ月間,腫瘍縮小を維持している.
77歳女性.既往歴に原発性アルドステロン症による二次性高血圧症.主訴は吐血.胃穹窿部に上部消化管内視鏡検査でびらんをともなう血管像を,腹部造影CT,血管造影検査で胃内腔に穿通した動脈瘤を認め,動脈硬化性腹腔内動脈閉塞により,側副血行路に形成された動脈瘤の胃内腔への穿通と考え,外科的加療となった.上部消化管出血に対しては本疾患を鑑別疾患に挙げ,慎重な画像診断と治療選択が重要と考える.
症例は小腸大腸型クローン病の女性で,10歳代で結腸多発狭窄に対して結腸全摘,回腸直腸吻合術,20歳代で直腸狭窄,複雑痔瘻,直腸膣瘻に対して直腸切断術,永久回腸人工肛門造設術を施行した.直腸切断術7年後に妊娠37週5日で2826gの健康男児を経膣分娩し,周産期にクローン病の再燃は認めなかった.直腸切断術後人工肛門造設状態での妊娠・出産を経験したクローン病症例の報告はまれである.