先天性胆道拡張症は,戸谷分類では5型に分類されてきた.最近作成された先天性胆道拡張症の診断基準と診療ガイドラインでは,いわゆる狭義の先天性胆道拡張症は,総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張し,全例に膵・胆管合流異常を合併する戸谷Ia型,Ic型およびIV-A型と定義された.膵・胆管合流異常は,長い共通管を有して膵管と胆管が十二指腸壁外で合流し,乳頭部括約筋の作用が膵胆管合流部に及ばないことより,膵液が胆道系に容易に逆流する(膵液胆道逆流現象).先天性胆道拡張症では,しばしば急性膵炎をおこし,さらに膵液と胆汁の混和液がうっ滞する胆囊や拡張胆管に高率に発癌するので,診断されれば肝外胆管切除が行われる.
日本膵・胆管合流異常研究会において『先天性胆道拡張症の診断基準2015』を作成し,いわゆる狭義の先天性胆道拡張症の診断基準を明らかにした.先天性胆道拡張症とは,総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常であり,必ず膵・胆管合流異常を合併するもので,肝内胆管の拡張をともなう例も含めると定義した.胆管拡張の診断は,患者の胆管径は超音波検査,MRCP,CTなど胆道に圧のかからない検査による総胆管の最大内径をもって,年齢別の胆管径の上限値を参考に拡張の有無を客観的に判断することが重要である.拡張形態は,先天性胆道拡張症の戸谷分類のIa型,Ic型,IV-A型に相当するものに限るものとした.
先天性胆道拡張症(congenital biliary dilatation;CBD)は,総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張する先天性の形成異常で,膵・胆管合流異常を合併し,胆汁と膵液の流出障害や相互逆流,胆道癌など肝,胆道および膵にさまざまな病態を引きおこす疾患であるが,診療ガイドラインはいまだ策定されていない.今回,CBD診療ガイドラインの作成にあたり,膵・胆管合流異常診療ガイドラインから,抜粋,一部改変し,clinical question作成,引用文献のレベル分類,ステートメントの推奨度決定を行い,科学的根拠に基づいたCBD診療ガイドラインを作成したので,ダイジェスト版として紹介する.
先天性胆道拡張症の診断基準2015では,総胆管を含む肝外胆管が限局性に拡張し膵・胆管合流異常を合併する戸谷Ia型,Ic型,IV-A型が狭義の先天性胆道拡張症と定義された.胆道拡張を腹部超音波検査などの侵襲性のないモダリティで拾い上げ,合流異常を造影MDCT,MRCP,ERCPなどを追加して適切に診断する.MDCTやMRCPは侵襲性が低いという利点があるが,主膵管や合流部の描出能はERCPに劣る.特に共通管が短い例は描出能が低下するためERCPを追加する必要がある.成人例においてはEUSやIDUSを行うことで膵・胆管合流異常の診断はより確実になる上に,胆道癌の除外や進展範囲診断にも寄与する.
先天性胆道拡張症に対する治療の歴史は内瘻術に始まった.しかし,術後の結石形成や胆道癌の合併という大きな問題が明らかとなり,膵液と胆汁の流出路を分離して胆管壁の化学的変化を防止するとともに,癌の発生母地である拡張胆管を可及的に切除して癌発生の可能性を低下させる,という分流手術が標準術式となった.ところが,分流手術後にも結石の発生や発癌が新たな問題となっている.これは先天性胆道拡張症が抱える発癌性という根本的な問題であるのか,それとも不完全な手術にともなうものであるのかを今後検証する必要があるが,現時点では膵内胆管を完全に切除し,肝管狭窄への対処を行うことが重要と考える.
症例は67歳,男性.主訴は吐血.切除不能進行食道癌に対し,化学療法を開始したが,その12カ月後に吐血を認めた.上部消化管内視鏡検査にて,食道癌から湧出性出血を認めた.保存的加療では止血が得られず,食道狭窄のために内視鏡的止血術も困難であった.通過障害の改善目的に食道ステントを留置したところ,圧迫止血により出血も制御された.食道ステント留置により食道癌の出血を制御した例はまれであり,報告する.
症例は65歳男性.左季肋部痛を自覚するも1カ月間放置し,来院当日は発熱と歩行困難を主訴にて当院受診.腹部造影CTより脾臓周囲に膿瘍を認め入院.透視下にて上部消化管内視鏡施行し胃潰瘍穿通による左横隔膜下膿瘍形成と診断,内視鏡下経胃的ドレナージにて治癒し得た.横隔膜下膿瘍の治療は経皮的もしくは手術的ドレナージが主であるが,本症例のように経胃的ドレナージも選択肢として考慮し得ることが示唆された.
73歳男性.2013年の上部消化管内視鏡検査(EGD)にて,胃体上部前壁に約6mm大の褪色調軽度陥凹性病変を認めた.HEおよび免疫染色の結果,胃底腺型胃癌と診断した.内視鏡的切除を行い,治癒切除と判断した.本例は,後の確認で2006年のEGD像において同一病変を疑う所見を捉えることができた.2013年までに内視鏡的な形態に明らかな変化は認めず,緩徐な発育を示す病変が疑われた.
症例は50歳代,女性.肝左葉を占める,肝内多発転移・門脈腫瘍塞栓をともなう混合型肝癌と診断された.肝細胞癌成分が有意と判断し,肝細胞癌に準じた化学療法を導入した.Sorafenib・CDDP肝動注療法では病勢と全身状態の悪化を認めたが,Low-dose FP(LFP)療法は奏効を認め,長期生存が得られている.今回LFP療法が,切除不能な混合型肝癌の治療の選択肢としても有効である可能性が示唆された.
症例は73歳の男性.肝細胞癌症例で,低血糖症状を頻発し,死亡して剖検を施行した.肝癌組織は,抗IGF-IIモノクローナル抗体による免疫組織染色陽性であった.Western immunoblot法にて,血清中に高分子型IGF-IIを検出した.高分子型IGF-II産生肝細胞癌による,non-islet cell tumor hypoglycemiaと診断した.
症例は73歳男性.上腹部痛を主訴に近医を受診し,肝胆道系酵素の上昇を指摘され紹介となった.精査により十二指腸乳頭部腺扁平上皮癌と診断し,亜全胃温存膵頭十二指腸切除術を施行した.腺扁平上皮癌は通常の乳頭部癌と比較して予後不良と報告されている.本症例も術後3カ月で多発肝転移を認め,9カ月で癌死された.十二指腸乳頭部腺扁平上皮癌はまれで予後不良な疾患であり,今後多施設における検討の必要性があると考えられた.