機能性ディスペプシアや過敏性腸症候群,慢性便秘などの機能性消化管障害は,その患者数が極めて多いだけでなく,QOLを著しく低下させ,労働生産性にも影響を与える重要な疾患である.この疾患はストレスと深く関連し,複雑化する社会と深く結びついている.形態学を中心に発展してきたわが国の消化管診療が転換期を迎え,この疾患への関心が高まりつつある.その病態は確実に解明され,最近では消化管知覚過敏や運動機能異常の背景に粘膜微細炎症や透過性亢進,腸内細菌叢の変化が生じていることが明らかになりつつある.臨床的には新薬をはじめ,新しい治療法が次々と登場している.まさに機能性消化管障害診療は新時代を迎えているといえよう.
機能性消化管障害は21世紀の消化器病学が取り組むべき問題の1つである.有症状者は全世界人口の40.7%に及び,高頻度である.その病態の中心に脳と腸の双方向の信号授受である脳腸相関がある.脳腸相関は,過敏性腸症候群におけるストレス応答,内臓知覚過敏,中枢性感作病態として顕著に発現する.その源流を構成する要因として腸内細菌とそれによる感染性腸炎,消化管微小炎症が重要である.治療介入による脳腸相関の調整は可能であり,消化管の機能調整を介する,あるいは中枢に作用する薬物・非薬物による中枢機能の変容が実証されている.脳科学,ゲノム・プロテオーム・マイクロビオーム科学の進歩とあいまった脳腸相関研究の進展が期待される.
機能性消化管障害(Functional Gastrointestinal Disorders:FGIDs)の成因には,多かれ少なかれ,腸内環境が影響することが考えられる.腸内環境は,腸内細菌叢とその代謝物,毎日摂取されるさまざまな食事成分とその代謝物,消化管から分泌される酸,消化酵素,胆汁酸などで構成される極めて動的な複雑系である.腸内環境の変化により,消化管粘膜には,微小循環障害や微小炎症(low grade inflammation)がおこり,結果,消化管壁の透過性亢進をきたすとされる.この病態はleaky gutと呼ばれるが,これにより消化管の知覚過敏が招来されて,FGIDsが発症するとも考えられる.本稿では,FGIDsの病因に連なる腸内環境の変化をもたらす各因子について概説する.
機能性ディスペプシア(FD)をはじめとした機能性消化管障害(FGIDs)には多くの共通する病態が存在し,症状を主体とする診断のため,症状の移行,消褪,疾患のオーバーラップが認められることが多い.FDは時間の経過により半数以上の症例で軽快あるいは治癒し,一部の症例では他のFGIDsへの移行や,再燃する場合もある.FDと胃食道逆流症(GERD),特に非びらん性GERDとのオーバーラップ率は20~60%と比較的高く,共通の病態として胃酸の関与が考えられている.また,FDと過敏性腸症候群(IBS)のオーバーラップ率もFD患者の30~60%と高くなっている.FDと慢性便秘との関係についての詳細な検討はないが,オーバーラップ率はおおむね10~20%程度と考えられている.
生活習慣指導や食事療法が機能性ディスペプシア(FD)の治療として有用かどうかは十分に検討されていないため,まだ不明である.FDに対して酸分泌抑制薬は有用であるが,その効果は酸分泌抑制以外の作用によってもたらされているのかもしれない.消化管運動機能改善薬はアコチアミド以外には十分なエビデンスがない.抗うつ薬・抗不安薬の中では三環系抗うつ薬とタンドスピロンの有用性が示されている.ミルタザピンは治療薬の候補に挙がっている.漢方薬の中では六君子湯の有用性が示されている.抗炎症治療やプロバイオティクスが治療薬として検討され始めた.鍼療法,心理療法に関しては一般的に行うことが困難であり,十分な研究が行われていない.
当院で診断したGIST 54例のうち,急性大量出血で動脈塞栓術(TAE)を要したE群6例と他のNE群48例を比較した.CT内部性状や悪性度リスクに差はなかったが,E群の方がCRP値は低く,腫瘍径は小さくとも潰瘍形成し,CTで高度造影例が多かった.更に,潜在性消化管出血を含め出血徴候を認めたH群24例と他のNH群30例を比較した.慢性出血例をともなうH群はNH群よりCRP値が高く,CT内部不均一で潰瘍をともない,腫瘍径が大きく高悪性度リスク例が多かった.生検した29例中6例が出血し,1例はTAEを要した.急性出血例は慢性出血例と異なり悪性度の相関は乏しく,造影効果の高い潰瘍形成GISTは小型で低悪性度でも,生検出血や大量出血に注意が必要と思われた.
大阪府下の当院の地域連携医療機関のうち診療所484施設を対象に,医療関係者に対するB型肝炎(HB)ワクチン接種,HBs抗体検査の実施状況に関するアンケート調査を行った.「医療者のためのワクチンガイドライン」の認知率は30.1%,HBワクチン接種の実施率は38.9%,HBs抗体検査の実施率は38.9%であった.針刺し事故は42.5%の医療機関で経験があったが,対応が不十分な医療機関があった.HBワクチン接種,HBs抗体検査の実施率が低いことは,B型肝炎感染対策に関するガイドラインの認識不足によるものと思われ,地域医療機関に対して,B型肝炎感染対策に関する情報提供や啓発活動を行うことにより,診療所における感染対策の状況を改善する可能性がある.
症例は76歳女性.原因不明の食後意識消失発作を繰り返していた.胸腹部造影CT検査で左心房・下大静脈を圧排する食道裂孔ヘルニアを認め,上部消化管X線検査時の発泡剤服用でヘルニア腔の拡張とともに意識レベル低下をきたした.以上から,食道裂孔ヘルニアに起因した嚥下性失神と診断した.肝胆道系酵素の上昇は下大静脈圧排によるうっ血肝が原因であった.食後の意識消失発作を認める場合では本症を念頭に置く必要がある.
症例は50歳男性.黒色便を主訴に受診.上部内視鏡と造影CTにて十二指腸gastrointestinal stromal tumor(GIST)の多発肝転移と診断.イマチニブ400mgの投与を開始した.イマチニブ投与開始から2年9カ月目に上腹部痛出現.造影CTにてGIST肝転移破裂と診断し,肝動脈塞栓療法にて止血を行った.GISTの肝転移破裂の症例はまれであり,文献的考察を加えて報告する.
症例は75歳男性,約20年間,膵尾部の分枝型膵管内乳頭粘液性腫瘍で経過をみられていた.精査の結果,5mm以上の造影効果を有する壁在結節,すなわちhigh-risk stigmataを認めたため,膵体尾部切除を施行.病理診断にて膵管内乳頭粘液性腫瘍に隣接する膵神経内分泌腫瘍G1を認めた.両腫瘍の併存例は非常にまれで,病理学的組織像においても発生機序に関する興味深い所見を認めたため報告する.