C型肝炎ウイルスは,それまで非A非B型肝炎として輸血などにより感染が成立するウイルスとしてその存在が想定されていたが,1989年にカイロン社のMichael Houghtonらにより,hepatitis C virusとしてウイルスの核酸の断片のクローニングによる発見が報告された.1991年ごろからインターフェロンによるウイルスの完全な排除が報告されるようになった.その後direct acting antivirals(DAAs)の開発が進み,最近は8~12週間でほとんどの症例でウイルスが排除されるようになった.今後は未治療症例の顕在化と治療の導入,ウイルス排除後の発癌が課題として残されている.
「肝硬変診療ガイドライン」第1版では肝硬変に対する栄養療法のフローチャートが,第2版では腹水治療のフローチャートが示された.第3版の「肝硬変診療ガイドライン2020」では,acute-on-chronic liver failureやサルコペニア,肝肺症候群,門脈圧亢進症にともなう肺動脈性肺高血圧症など新たな疾患・概念が取り上げられ,肝腎症候群や肝性脳症,腹水の国際的な診断基準・分類が積極的に導入された.それにともない,栄養療法と腹水治療のフローチャートも改変された.さらに,肝硬変合併症に対する新規薬剤・治療法の登場により推奨・回答の文章も修正された.改変内容を中心に概説する.
2015年の肝硬変診療ガイドライン改訂以降,肝硬変および合併症の病態の解明が進み,新規治療法が認可されるなど肝硬変診療が大きく変遷した.肝硬変の病態に腸内細菌叢のdysbiosisや腸管透過性の亢進が深く関連していることや,サルコペニアが予後不良因子であることが明らかにされ,肝性脳症では潜在性肝性脳症がQOLや予後に影響することが明らかにされつつある.診断基準や分類では,Acute-on-Chronic Liver Failureの診断基準が作成され,肝腎症候群の分類は1型・2型からHRS-AKIとnon-AKI-HRSあるいはNAKI-HRSに変更された.今回の改訂ガイドラインではこれら新たな概念が反映されている.また,ガイドライン改訂作業を通して,いまだに解明されていない点が多く,今後の検討課題が山積していることも明らかになった.
肝硬変においてはエネルギー低栄養,蛋白低栄養,サルコペニアが高頻度にみられ,これらは生存率を低下させる.栄養状態を評価するとともに,日本肝臓学会が提唱するサルコペニア判定基準に基づき筋量,筋力を評価し,栄養食事指導を行う.肝硬変においては夜間の飢餓状態が高頻度にみられるため,分割食,就寝前軽食が推奨され,また不足している分岐鎖アミノ酸を含有食品・製剤などにより補充する治療介入が重要である.肝硬変の成因の約50%はウイルス性肝炎である.B型肝硬変に対する核酸アナログ治療,C型肝硬変に対するDAA治療は,肝線維化を改善し,肝機能の増悪や非代償化を阻止し,肝発癌を抑制して生命予後を改善する.
肝硬変の診療にあたっては門脈圧亢進症,腹水,肝性脳症など多彩な合併症の適切な管理が生命予後の改善に直結する.わが国では腹水や肝性脳症に対する新規薬剤が使用可能となり治療選択肢が広がることで,肝硬変の合併症に対する治療戦略に大きな変化がみられている.一方で,肝硬変の合併症は多岐にわたり,サルコペニアや門脈肺高血圧症などのさらなる病態解明や治療法の開発が望まれる.本稿では肝硬変の合併症対策についてのクリニカルクエスチョンに対する回答として,新ガイドラインの考え方と今後の課題について概説する.
肝硬変診療ガイドライン2020では,11項目のfuture research questionが挙げられており,これらが特に重点的な今後の課題である.非ウイルス性肝硬変の治療では,アルコール性では減酒によるハームリダクションという概念が提唱されている.非アルコール性では,現時点では肝硬変の線維化を改善する薬物療法はなく,今後のさらなる新薬の開発が期待される.加えてトルバプタンやアルブミンの最適な使用法や,新たに追加されたacute-on-chronic liver failure(ACLF),肝肺症候群と門脈圧亢進に関連した肺動脈性肺高血圧症の項目の病態について記述する.
市中病院における初発肝細胞癌91例を対象とし,肝細胞癌サーベイランスの実態を調査し,問題点を整理した.非サーベイランス群は53例(58.2%)で,非ウイルス性肝炎の割合が高く(p<0.001),Barcelona Clinic Liver Cancer stageは進行し(p=0.013),累積生存率が低かった(p=0.013).うち,肝障害を指摘されたことがあるにもかかわらず肝画像検査が未施行であると認識している患者は20例(37.7%)存在し,そのうちの11例(55.0%)に消化器以外の疾病に対するかかりつけ医がいた.地域医療連携クリニカルパスを導入するなど,消化器内科への患者紹介を円滑にする仕組み作りが必要と考える.
2003年から2017年に膵頭十二指腸切除術を行った438例を対象とし,膵頭十二指腸切除術後の消化管吻合部潰瘍発症のリスク因子と対策を検討した.吻合部潰瘍発症を29例で認め,そのリスク因子を術式,術後耐糖能障害,H2受容体拮抗薬,プロトンポンプ阻害薬(PPI)の内服の有無を独立変数として選択し,多変量解析を行った結果,PPIの内服のみが有意差を認めた(P<0.001,オッズ比:0.15).吻合部潰瘍発症時に16例で抗潰瘍薬内服が中断されており,その理由はかかりつけ医の判断が8例,患者の自己判断が3例であった.吻合部潰瘍の危険性の周知と外来受診時の内服状況の確認の徹底が必要と思われた.
22歳女性.下痢,血便の症状があり,内視鏡検査では多発する食道潰瘍,びらん性胃炎,直腸~S状結腸には多発潰瘍を認め,生検から非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.しかし各種検査から,Crohn病の診断基準は満たさず,多発血管炎性肉芽腫症の診断となった.両者には各々にTh1/Th17細胞の関与が示唆され,Crohn病に類似した消化管症状を呈した多発血管炎性肉芽腫症の1例を経験したので報告する.
全身性強皮症に合併した食道潰瘍穿孔による食道-胸腔瘻に対して,ポリグリコール酸(PGA)シート・フィブリン糊の充填および被覆を行った.ガイドワイヤーを用いてPGAシートを挿入することで安全かつスムーズな充填および被覆が可能であり,消化管穿孔や難治性瘻孔に対する低侵襲な閉鎖術として有用と考えられる.
76歳女性.糖尿病増悪精査で膵癌・肺転移と診断し,ゲムシタビン+ナブパクリタキセル併用化学療法を導入.14日後に右三叉神経第I枝領域に帯状疱疹を発症したが,抗ウイルス薬を使用し皮疹は消褪傾向であった.21日後,右眼瞼下垂・眼球運動障害が出現.帯状疱疹にともなう動眼神経麻痺と判断し,ステロイドパルス療法を施行した.徐々に改善したため,化学療法を継続しながら,62日後に動眼神経麻痺はほぼ完全に回復した.
従来,アルコール依存症に対する薬物療法として国内で承認されていた薬剤はジスルフィラム,アカンプロサートといった断酒薬のみであったが,2019年より飲酒量低減薬としてナルメフェンが使用可能となった.ナルメフェンは飲酒前に服用することで多量飲酒日数減少,総飲酒量の低減に効果があるとされている.今回,肝硬変をともなうアルコール依存症に対してナルメフェンを投与し飲酒量低減を試みた4症例を経験したので報告する.