潰瘍性大腸炎とクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)は増加の一途を辿り,いまだ完治させることはできないが,有効な治療薬の開発は進んでいる.近年のIBD治療の大きな転機は抗TNF-α抗体の登場で,高い寛解率と維持率から治療史を変える薬剤となった.以降,サイトカインを標的とした抗体療法の開発が続いているが,一方で抗薬物抗体の出現による二次無効の問題も懸念されている.現在,慢性炎症の制御を目的としたリンパ球の遊走や侵入を抑える薬剤や,炎症性サイトカインの結合後に誘導される細胞内シグナルを標的とした薬剤も登場している.本稿では,新規に展開するIBD治療薬の現状を示し,治療の将来展望についても概説する.
大腸内視鏡は炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)のモニタリングのゴールドスタンダードとして確立している.近年,粘膜治癒(mucosal healing;MH)はIBDの治療目標とされており,内視鏡的評価の重要性は高まっている.本稿では,IBD治療におけるTreat to Targetを実践する上での大腸内視鏡検査の意義や課題を概説する.
多くのクローン病(CD)は小腸病変をともなうが,臨床症状とは乖離があるため画像診断によるモニタリングがよりよい診療に不可欠である.バルーン内視鏡(BAE)は直接に病変に到達でき,診断のみならず病状評価や術後の評価にも有用である.ただし活動性が高かったり,癒着などのために深部挿入が困難な場合がある.MR enterography(MRE)は被曝がなく,低侵襲に腸管病変のみならず管外病変も評価でき有用である.狭窄性病変の検出には限界があり,CTに比し複雑で長時間の撮像が必要である.スコアリングの簡略化や,拡散強調画像といった簡便な方法も検討されている.BAEとMREは予後予測にも有用である.その他,小腸癌はまれだがCDは危険因子であり注意を要する.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease;IBD)のモニタリングは,近年,特に重要視されている.なぜなら,内視鏡的寛解が確認できた場合,その後の良好なアウトカムが期待できるからである.本稿では,小腸カプセル内視鏡,大腸カプセル内視鏡を用いた炎症モニタリングにつき概説する.カプセル内視鏡による炎症モニタリングの対象は,小腸はクローン病,大腸は潰瘍性大腸炎が中心となる.両疾患に対するそれぞれの有効性が報告されているが,モニタリングの方法についてはまだ決まったものはなく,今後の検討が必要である.
炎症性腸疾患の診断や治療方針の決定において内視鏡はgold standardであるが,より非侵襲的なモニタリングの手法としてバイオマーカーが注目されている.便中カルプロテクチンは,炎症性腸疾患の診断,内視鏡的重症度との相関,治療効果判定,再燃予測など,さまざまな場面においてその有用性が報告されている.大腸癌スクリーニングに汎用されている便潜血反応検査も,特に潰瘍性大腸炎の内視鏡的活動性をもよく反映することが示されているほか,近年では血清leucine-rich glycoprotein(LRG),尿中プロスタグランジンE主要代謝産物(PGE-MUM)などの有用性も報告されている.
膵癌の浸潤・転移機構の解明を目指した研究を行っている.膵癌細胞の葉状仮足に局在し,浸潤・転移に関わるPODXLとSCGB1D2を同定した.PODXLとSCGB1D2が膵管内乳頭粘液性腫瘍および膵管内乳頭粘液性腺癌の血清診断マーカーとして有用であるかを検討する臨床試験を行った結果,PODXLは膵管内乳頭粘液性腫瘍の診断に対して,またPODXLとSCGB1D2は膵管内乳頭粘液性腺癌の診断に対して有用であることを示す結果を得た.血清のPODXLとSCGB1D2濃度を測定することにより,侵襲なく効率的に膵管内乳頭粘液性腫瘍を発見し,手術が必要となる膵管内乳頭粘液性腺癌の診断に有用であると考えられる.
症例は17歳男性.腹痛を主訴に受診し胃穿孔の診断で緊急手術を行った.術後14日で問題なく退院したが,退院2日後から発熱が持続,精査の結果伝染性単核球症の診断となった.保存的に軽快した後の上部消化管内視鏡検査で非特異的炎症像を認めた.生検でB-cellの浸潤は認めたものの,リンパ腫やピロリ菌感染は否定的であった.伝染性単核球症潜伏期間中に胃穿孔を生じたまれな1例と思われ,EBウイルスの関連を含め考察する.
症例は67歳男性.大腸内視鏡検査で直腸に5~6mmの粘膜下腫瘍を認め,1年後の再検査で9~10mmに増大傾向を示した.神経内分泌腫瘍(neuroendocrine tumor;NET)の疑いで,内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)を施行し,NETG1と高分化型腺癌の併存病変という非常にまれな腫瘍の診断に至った.
症例は38歳,男性.下痢と腹痛を主訴に受診した.造影CT検査で,回盲部の横行結腸への重積が疑われたが,虚血を疑う所見を認めなかった.注腸で重積を整復したところ,盲腸に腫瘤が疑われた.大腸内視鏡検査では辺縁不整なびらんと浮腫性変化を認めた.便培養検査で腸管出血性大腸菌O-26が検出され,腸重積は腸管出血性大腸菌感染が原因と考えられた.成人腸重積症では細菌性腸炎による重積の可能性も考慮する必要がある.
81歳男性.表在型食道癌ESDを施行,深達度T1b-SM1であったため慎重に経過観察,2カ月後に嗄声が出現,特発性声帯麻痺と診断された.10カ月後のCTで縦隔リンパ節の腫大を認めた.CT画像を再構築し,EUS像を十分に確認,EUS-FNAを施行し,病理学的に食道癌縦隔リンパ節転移と診断した.積極的かつ慎重なEUS-FNAにより,嗄声は食道癌リンパ節再発による反回神経麻痺と診断し得た貴重な1例である.
71歳男性.腹部CTで膵尾部に50mm大の乏血性腫瘤と転移を疑う肝腫瘤を指摘され,経皮的肝腫瘍生検で膵尾部癌,多発肝転移と診断した.治癒切除不能な膵癌としてGEMとnab-PTXの併用療法を開始したところ,5コース目投与後より視力低下を認め,囊胞様黄斑浮腫と診断した.nab-PTXの投与を中止したところ囊胞様黄斑浮腫は消退し,視力の改善を認めた.