肝細胞癌に対する診断・治療は日本国内と海外では大きく異なる.背景肝疾患の分布やスクリーニング体制などの違いによるところが大きいと思われる.そのため,欧米のガイドラインを国内の実臨床にそのまま当てはめることは難しく,国内発のエビデンスの創出が望ましい.肝細胞癌診療のエビデンス構築におけるランダム化比較試験の重要性は変わりないが,コストや実現性の面から現実的には難しい場合も多い.代わりに,傾向スコアマッチングなどの統計手法の普及にともない,ビッグデータを用いた臨床研究による国内からのエビデンス創出が重要となってくると考えられる.
肝細胞癌のスクリーニングは腹部超音波検査と腫瘍マーカーの測定から始まる.各種画像検査で典型的所見を呈する場合は確定診断が可能であり,組織検査の必要はない.腫瘍マーカー(AFP,PIVKA-II,AFP-L3分画)の上昇を認めた場合は画像検査を追加する.新規腫瘍マーカーはいくつか報告があるものの,実臨床で使用されるには至っていない.肝特異的造影剤を使用したGd-EOB-DTPA造影MRIにより早期診断が可能となった.また,腫瘍マーカー,画像検査ともに存在診断のみならず悪性度・分化度の診断にも有用である.
肝細胞癌(肝癌)に対する肝動脈化学塞栓療法(TACE)は,切除不能肝癌患者に対して広く行われている治療法である.近年,新しいデバイスの導入やカテーテル性能の向上により,DEB-TACEやB-TACEといった新しい方法が施行可能となり,従来法との比較が始まっている.また,種々の薬物療法を併用してTACEの治療成績向上を目指す試みや,よりTACEに適した症例を選別する試みも始まっている.これらの試みはいまだ道半ばであるが,着実にエビデンスが積み上げられている.
肝細胞癌に対する外科的治療のエビデンスとして,ガイドライン(2013年版)における,手術(外科的治療)に関係するClinical Questionの中で,CQ21 腫瘍条件からみた肝切除の適応は?,CQ22 肝切除後の予後因子は何か?,CQ24 系統的切除は予後に寄与するか?,CQ31 肝細胞癌に対する肝移植の適応基準は何か?,について概説する.また,今後エビデンス構築が期待されるトピックスとして,腹腔鏡下肝切除の治療適応,BCLC Stage Bに対する外科的治療選択,Conversion Hepatectomyに関しても言及する.
2009年に分子標的薬ソラフェニブが登場して以来,肝細胞癌に対する化学療法は大きく変化した.遠隔転移,脈管浸潤に対する治療選択肢が増え,進行状態でもある程度長期生存が得られるようになったが,縮小効果が乏しいことや毒性などから,ソラフェニブにかわる新規分子標的薬の開発が進められている.しかしながら他のがん種にはない肝細胞癌特有の事情により開発は困難を極めている.そのような状況の中,最近,相次いで2つの分子標的薬の有効性が証明された.一方,近年注目を浴びている薬剤が抗PD-1抗体をはじめとする免疫チェックポイント阻害剤である.ユニークな作用機序により癌細胞を排除するこの薬剤は,現在,Phase IIIまで進んでいる薬剤もあり,その治療効果が期待されている.ただ,他がん種においてはその高額な薬剤費が社会問題になっており,適切なバイオマーカーの設定の必要性が高まっている.
大腸癌における所属リンパ節腫大と生存率との関連性を検討した.原発巣を切除しえた大腸癌で病理学的にpStage IIと診断した170例を対象とした.これを,術前画像または手術所見にて所属リンパ節転移ありとみなされたが,病理にて反応性リンパ節腫大と判断された反応性リンパ節腫大群と,それ以外のリンパ節非腫大群の2群に分類し,術後生存率の統計解析を行った.反応性リンパ節腫大は右側大腸癌における全生存率と疾患特異的生存率の独立した予後良好因子であり,全大腸癌においてもその傾向が認められた.左側大腸癌では有意な結果を認めなかった.所属リンパ節反応性腫大は免疫反応亢進を意味することが示唆された.
完全静脈栄養(TPN)を行った当科の炎症性腸疾患(IBD)137例を対象に,ブラッドアクセスとして従来型の中心静脈カテーテル(CVC)を選択した56例と,末梢挿入型中心静脈カテーテル(PICC)を選択した81例の臨床経過を,後ろ向きに調査した.穿刺時合併症はCVCで気胸を2例(3.6%)認めたが,PICCでは認めなかった.PICCはCVCに比し,目的達成抜去率が有意に高く,カテーテル関連血流感染(CRBSI)発生率が有意に低く,CRBSI発生までの期間も有意に長かった.本研究は単施設・後ろ向きの検討だが,IBD患者に対しPICCはCVCに比して安全性が高く,TPNをより計画的に完遂できる可能性が高い.
高齢者腹腔鏡下胆囊摘出術(LC)における術後合併症リスク因子を推定することを目的に,検討を行った.2005年1月から2015年12月までに当科で経験した80歳以上LC症例85例を対象とした.対象を「Clavien-Dindo分類Grade II以上の合併症あり」と「合併症なし」群に分け,術前,手術,胆囊炎因子それぞれに関して比較検討した.当科ではGrade II以上の術後合併症が12例(14.1%)に認められた.単変量解析ではすべての手術リスク評価法に有意差を認め,多変量解析において,POSSUM予測合併症率および中等症・重症胆囊炎が術後合併症の独立した予測リスク因子と推定された.
症例は76歳の男性.大腸がん検診の2次検診目的に下部消化管内視鏡を施行され,S状結腸に大腸癌(3型)を疑う病変を認めたが,生検では活動性の潰瘍と診断された.高次医療機関による追加精査で魚骨肉芽腫と診断され,魚骨は内視鏡的に除去可能であった.魚骨による大腸病変は非常にまれであるが,ときに潰瘍を形成し悪性疾患との鑑別を必要とする.腹部所見や魚骨の大腸壁への刺入状態により内視鏡的治療も選択の1つになりうる.
症例は80歳,男性.著明な貧血で紹介.腹部造影CT検査では原因となる出血病変を認めなかったが,内視鏡検査にて胃・十二指腸および大腸全域に多発する発赤調の扁平隆起性病変が確認された.病理組織検査では,第VIII因子関連抗原・CD31・CD34が陽性となる腫瘍細胞の増殖を認め,血管肉腫と診断した.消化管の血管肉腫はまれな病態であり,同様な病変を認めた場合は鑑別診断として考慮する必要がある.
45歳男性.初診時に,膵頭部に24mmのmacrocysticな囊胞性病変を認めた.6年間で隔壁の出現や隔壁肥厚をともない42mmまで増大し,悪性化も否定できず手術を施行し,組織学的にmicrocystic typeの漿液性囊胞腺腫と診断した.囊胞内部に囊胞内出血と,壁内出血をともなう厚い線維性組織からなる隔壁を認めた.経時的に多彩な形態変化を観察し得,膵漿液性囊胞腫瘍の自然史を探る上で貴重な症例と考えられた.