本邦の大腸腫瘍・癌に対する内視鏡診断・治療レベルは世界トップクラスであり,今後のさらなる海外での展開と一般化・精度管理が課題である.手術手技は,開腹手術から腹腔鏡手術,近年ではロボット支援手術が普及しつつあるが,ロボット支援による遠隔手術も模索されている.化学療法に関しては新規薬剤の開発と進歩がめざましく,バイオマーカーによる個別化治療の開発も積極的に行われている.一方で,本邦の大腸癌年齢調整死亡率の減少率は他の先進国と比べて不良である.腺腫などの前癌病変や早期癌を内視鏡治療で根治すれば,外科手術や高額な化学療法が不要になるとともに本邦の大腸癌死亡率は低下し,医療経済学的にも良い方向に進むことはほぼ確実で,検診の充実は最重要課題である.
日本における大腸癌死亡者数は増加の一途を辿っており,年齢調整死亡率も近年下げ止まりの状態である.この状況を打破するためには,国を挙げて検診の強化を図ることが急務である.現在,日本ではがん検診データの一元管理が難しい状況にあるが,組織型検診の実現に向けて,検診データベースの作成と全国がん登録との照合が可能なシステム構築を目指す議論を続けていく必要がある.また,現在進行中の全大腸内視鏡検査(TCS)の有効性評価研究の結果が待たれるが,免疫便潜血検査を軸とした検診を継続しながら,50歳代など特定の年齢層でTCSを組み入れる検診手法の導入に向けた準備を進めておくべきである.
大腸内視鏡検査は病変検出,質的診断,治療を同時に行える唯一無二の検査である.色素拡大内視鏡によるpit pattern分類を用いることで治療方針を決定できるが,画像強調観察の出現で,より診断ストラテジーが簡便になった.そして,超拡大内視鏡の出現により,腺腔構造に加えて核まで体腔内で診断できるようになった.治療に関しては大腸内視鏡的粘膜下層剥離術(endoscopic submucosal dissection;ESD)が手技のストラテジーの確立と治療デバイスの開発とともに全国的に安全に施行されるようになった.また,人工知能(artificial intelligence;AI)が臨床応用され,病変検出,質的診断などの診断支援を行っている.その潜在能力は未知数ではあるが,今後の内視鏡診療を大きく変化させる可能性を秘めている.
直腸癌術後に排便機能障害で苦しむ患者は少なくない.欧米で開発されたtotal neoadjuvant treatmentは,術前化学放射線療法に全身化学療法を加えた強力な術前治療である.極めて高い病理学的完全奏効率が得られるため,臨床的完全奏効症例に対して積極的に経過観察を行い,手術を回避する戦略が広まりつつある.一方,MSI-H/dMMR大腸癌においては,免疫治療の高い奏効率を背景に,術前免疫治療による非手術治療の可能性が模索されている.両治療戦略とも現行の本邦大腸癌治療ガイドラインには記載されていないが,近い将来実臨床でも選択肢の1つとなり得るため,概略を知っておくべきである.
大腸癌の薬物療法は,さまざまな標準的治療の変遷を経て,大いなる進歩を遂げた.大腸癌におけるドライバー遺伝子は,肺癌でよくみられるようなシンプルな一方向でのシグナル伝達ではなく,多くのシグナル伝達経路が存在し,多くのカスケードがある.つまり,ドライバー遺伝子異常を有する大腸癌の治療として,シグナル伝達阻害を有する薬剤の単剤療法では十分高い腫瘍縮小効果を発揮できないのである.このことは,BRAF遺伝子変異,HER2遺伝子増幅/HER2蛋白高発現など複数の薬剤開発の過程で明らかになった.大腸癌治療に限らず,わが国の薬剤開発は今,大きな岐路に立っている.従来の質の高さを堅持しつつ,若い世代の柔軟な発想や応用力・瞬発力,継続的な研究姿勢を必要とし,それを躊躇なく登用する社会の仕組みが重要と考える.
症例は59歳男性.食道癌Stage IVb(cT2N2M1)の診断で化学療法(5-FU+CDDP),放射線療法を開始した.開始第44病日に嘔気が,採血で肝胆道系酵素上昇が出現した.腹部CTにて腹部大動脈血栓症を認め,保存的加療にて血栓は消失した.その後化学療法を継続したが血栓の再発は認めなかった.本邦におけるCDDPにともなう大動脈血栓症の報告は過去8例のみであり,ここに報告する.
症例は64歳男性.肺腺癌,Stage IIIBと診断され,1次治療としてPembrolizumab(PEM)が開始された.8コース開始後から食思不振が進行し,その際の上部消化管内視鏡検査で胃食道炎を認めた.10日後の再検査では咽喉頭にも広範なびらんを認めたが,PEMの休薬とステロイドの投与で改善した.免疫チェックポイント阻害薬にともなう胃食道炎の報告は少なく,咽喉頭にも病変を認めた点で貴重な症例である.
症例は40歳,女性.過酸化水素水を誤飲後,腹部症状が出現したため救急受診した.腹部CT検査にて胃壁内と肝内門脈に気腫像を,上部消化管内視鏡にて胃全体に発赤,腫脹とびらんがみられた.過酸化水素水誤飲にともなう門脈ガス血症,上部消化管粘膜傷害と診断した.入院にて保存加療のみで改善し,入院5日目に退院となった.発症2カ月後の上部消化管内視鏡にて炎症所見は改善していた.
70歳代女性.前医で肝膿瘍の治療中に意識障害,項部硬直を認め紹介となった.肝膿瘍に髄膜炎,眼内炎を合併し,肝膿瘍の穿刺液の培養より過粘稠性Klebsiella pneumoniaeが検出され,侵襲性肝膿瘍症候群の診断となった.肝膿瘍は軽快したが,右眼球は摘出に至った.肝膿瘍に髄膜炎や眼内炎などの他臓器病変を合併する場合は,侵襲性肝膿瘍症候群を鑑別に挙げるべきである.