機能性消化管障害は多元的要因による病態で,多種多様の治療アプローチがあると考えられてきた.しかし消化管粘膜の微細炎症,腸内細菌に関する多彩な研究から,機能性消化管障害は腸内細菌の異常による病態として一元的に解釈することが可能となってきた.まだすべての証拠が揃ったわけではないが,機能性消化管障害を腸内細菌叢の異常による病態としてとらえると,一元的に,そして多彩な局面を呈する病態として評価することが可能となる.経験則から提示される多彩な薬物治療も,一元的病態の多彩な局面のそれぞれの場で奏功する機序の説明が可能となってくる.機能性消化管障害を多元的病態から一元的病態として考える時代は目前である.
機能性消化管障害,特に機能性ディスペプシアにおいては食物摂取がその発症に影響する.食物摂取によって消化器官から多くの分泌液や消化酵素などが分泌され,さらにその粉砕や食物との混合,さらに移送において消化管運動が誘発される.消化管ホルモンはこれらの消化吸収機能を促進する活性物質である.特に,今回取り上げたグレリン,コレシストキニン,ペプチドYYは食欲調節作用を有し,さらに胃や十二指腸など腸管運動の調節作用を有している.本稿においてはこれらの摂食ホルモンの生理作用と脳-腸相関を介する食欲と腸管運動の調節機序を示し,さらに機能性ディスペプシアとこれらの摂食ペプチドとの関連について論究した.
機能性消化管障害の1つである機能性ディスペプシア(functional dyspepsia;FD)は,現在Rome IV基準によって定義され,つらいと感じる食後のもたれ感や心窩部灼熱感といった慢性の上腹部症状があるにもかかわらず器質的疾患を認めない症候群である.その病態の1つとして胃酸の関与が指摘されており,非びらん性胃食道逆流症やFDにおける酸に対する知覚過敏がディスペプシア症状発現の原因となっていると考えられている.機能性消化管障害の病態は複雑で,胃酸分泌抑制薬の効果は限定的であるが,胃酸が関わっている病態に対して効率的に酸分泌抑制薬による治療を行っていくことが重要である.
本邦では消化管機能検査は一部の施設で行われているに過ぎず,消化器内科の専門医でも精通している医師は多くなかった.しかし,近年では消化管機能検査の進歩により,本邦でも消化管運動障害への関心が高まっており,消化管機能検査を行う施設も増加している.特に食道運動障害の診療に関しては,内視鏡的筋層切開術(POEM)が本邦で開発され,内視鏡治療を専門としている施設でも食道内圧検査が普及しつつある.さらに,胃食道逆流症の診断に関しては,食道内インピーダンス/pHモニタリングが薬事承認され,臨床で使用できるようになっている.ここでは消化管運動を中心に消化管機能検査について解説する.
機能性消化管疾患の画像検査では,静止画による間接的所見による画像検査と動画による直接所見による画像検査の2つのアプローチがある.間接的画像検査でCT検査は非常に有用であり,消化管の拡張所見の有無に加え,消化管内容物の鑑別ができるという点で有用な情報を提供してくれる.Gastroparesisや慢性偽性腸閉塞症,巨大結腸症などは上記2点に関して特徴的静止画像を呈するが,実際の消化管運動異常をみているわけではない点に注意を要する.小腸運動に関しては,シネMRIは小腸の運動を直接観察することができる非侵襲的画像検査として非常に有用であり,今後のさらなる改良が期待される.
2005年以降のHBV肝癌75人の通院状況,治療歴をHCV肝癌307人と比較検討した.HBV肝癌は,通院なし群40.0%,内科群21.3%,消化器科群22.7%,肝臓専門医群16.0%で,HCV肝癌に比べ通院なし群が1.9倍,肝臓専門医群が0.6倍であった.HBV感染の非認識率と非通院率は21.3%と33.3%で,HCV肝癌に比べ各々2倍であった.核酸アナログ製剤服用は肝臓専門医群で66.7%であったが,消化器科群と内科群では約6.0%で,いずれも耐性株が出現したままラミブジンが投与されていた.HBV肝癌は,“非認識”,“非通院”,“適切な治療を受けていない”という傾向が明らかであった.
症例は83歳男性.腹部膨満感で来院した.CTで胸腹水と腹膜・腸間膜脂肪織濃度上昇,腹腔鏡で腹膜に多発白色粒状結節,腹膜生検で非乾酪性肉芽腫を認めた.Gaシンチでは腹膜への集積と,サルコイドーシスに特異的なパンダサインを認め,腹膜サルコイドーシスと診断した.ステロイド治療が著効し,現在は少量ステロイドで寛解を維持している.腹膜サルコイドーシスはまれであるが,腹水の原因として鑑別すべき重要な疾患である.
症例は48歳女性.全身倦怠感と色素沈着を呈し,精査にて多発肝転移をともなう大腸原発神経内分泌癌(NEC)と診断した.化学療法中に色素沈着の増強,低K血症を認めCushing症候群を呈し,血漿ACTHが高値であった.化学療法は奏効せず急速な転帰を辿った.病理解剖で腫瘍組織は小型と中~大型細胞が混在したNECで,ACTH陽性であった.異所性ACTH症候群を呈した大腸NECであり,まれな症例と考え報告する.
症例は19歳男性.下痢,腹痛,発熱,CRP上昇を認め紹介入院.大腸と回腸に多発する縦走潰瘍を認め小腸大腸型クローン病と診断.インフリキシマブ投与後,下痢,腹痛は改善し潰瘍は瘢痕化したが,発熱,CRP高値は持続.プレドニゾロン併用により発熱,CRP値は改善し退院したが,漸減中に再燃し再入院となった.再入院時の腹部造影CTで新たに右腎動脈狭窄が疑われ,胸部造影CTにて高安動脈炎の合併が明らかになった.
症例は71歳男性.ペプシノゲン法陽性のため上部消化管内視鏡検査を行い,胃角部後壁に0-IIc病変を認め,生検で内分泌細胞癌の診断となった.幽門側胃切除術を施行し,病変は粘膜内ではtub2が主体で,粘膜下層から固有筋層ではsmall cell carcinomaへと移行しており,mixed adenoneuroendocrine carcinomaの診断となった.極めてまれな症例と考えられ,報告する.
症例は60歳代男性.腹痛を主訴に受診.膵体尾部に7cm大の充実性病変を認め,大動脈周囲リンパ節腫大をともなっていた.超音波内視鏡下穿刺吸引生検法にて扁平上皮癌が検出された.Nab-paclitaxel+gemcitabineを投与し有効であったが,4コースで増悪し,約7カ月で原癌死した.剖検を行い膵腺扁平上皮癌と確診した.化学療法を行った非切除膵腺扁平上皮癌はまれであり報告する.