食道早期癌の最初の報告から50年,食道表在癌の診断・治療は大きな変遷を遂げた.自覚症状がなく,凹凸の目立たない病変を発見するために内視鏡検査が行われ,ヨード染色を併用することで,拾い上げ診断率は向上した.次いで,narrow band imaging(NBI)の開発により,被検者に負担をかけることなく,病変の発見が可能になった.発見された病変は,拡大内視鏡観察なども含め深達度診断を行い,食道粘膜癌には内視鏡治療を行っているが,臓器が温存できる非侵襲的な内視鏡治療は,徐々に適応が拡大されている.一方,食道と同じ扁平上皮で覆われた頭頸部領域も,食道と同じ道を歩んでおり,NBI観察にて発見された病変の検討から表在癌の定義もでき,現在多くの症例に内視鏡治療が行われている.
食道表在癌に対するESDは,広範な病変でも一括切除が可能な内視鏡治療として,現在では標準的な治療として普及している.また,ESDは,SM癌に対するESD+化学放射線療法(CRT)やCRT後サルベージESDなど,集学的治療の1つとして活躍の場を広げている.わが国で開発されたESDは,海外でも普及が進み,Barrett食道癌の治療成績も報告が増えている.食道ESDは技術的難易度が高いとされてきたが,糸付きクリップ牽引法など技術補助デバイスの開発により改善し,適応拡大において最も大きな課題であったESD後の食道狭窄は,ステロイド投与などの予防法の開発や再生医療の応用で克服されつつある.食道癌に対するESDの論文報告を中心に概説し,今後の課題について考察した.
近年のハイビジョン内視鏡やNBIシステム,拡大内視鏡の進歩により,頭頸部領域においても多くの表在癌が発見されるようになった.われわれはELPS(endoscopic laryngo-pharyngeal surgery)を開発し施行している.ELPSは彎曲型喉頭鏡にて喉頭展開し,経口的に鉗子や電気メスを挿入して,内視鏡補助下に上皮下層剥離を施行する.適応は,術前検査にてリンパ節転移のない内視鏡的壁深達度上皮下層浸潤癌までの表在癌としている.ELPSは短時間で安全かつ確実に広範囲の一括切除が可能である.また,病変の深達度によって切除深度の調節が可能であり,状況によっては筋層を含む切除も可能である.喉頭蓋,披裂,舌根部などのESDでは切除困難部位も,安全に切除可能である.
NBI(narrow band imaging)の出現は,頭頸部における表在性扁平上皮癌の発見と発生および嚥下という重要な生理機能を温存することを可能にする大きな治療革新をおこした.縮小切除が施行された患者の経過が明らかになっていくにつれて,頭頸部表在癌に対して解決すべき課題が突きつけられるようになった.その1つは,リンパ節郭清といった追加治療の可否を病理組織像から予測可能か否かである.頭頸部では,粘膜筋板がないために壁深達度の概念はT因子に含まれておらず,広い上皮下層を細分類してリンパ節転移に関するリスクを食道表在癌のように層別に段階的に提示することができない.本稿では食道表在癌と頭頸部表在癌を対比しつつ,今後の課題を解説する.
本邦の食道扁平上皮癌では食道・頭頸部・胃に多発重複発癌するfield cancerizationが特徴的である.飲酒・喫煙・野菜果物不足に加え,エタノールとアセトアルデヒドへの曝露が増えるADH1B低活性型とALDH2欠損型の組合せでリスクが増加する.ALDH2欠損を判別する簡易フラッシング質問紙法によるフラッシャーやその関連所見のMCV増大,メラノーシスは高危険群の特定に役立つ.食道多発ヨード不染帯やフラッシングを用いた評価法は食道・頭頸部癌の治療後の食道・頭頸部2次癌の予測因子になり,高リスクの食道癌患者では禁酒・減酒の2次癌予防効果が報告されてきた.重複胃癌の背景因子も解明されつつある.
症例は78歳,女性.胆囊癌肝門部浸潤にともなう悪性胆道狭窄に対し,内視鏡的に胆管メタリックステントを左右肝管に留置し化学療法を施行した.ステント留置3カ月後に胆道出血から大量吐血をきたしショックとなった.緊急腹部血管造影で,仮性動脈瘤破裂による肝動脈胆管穿破と診断し,金属コイルによる肝動脈閉塞術を施行し良好な止血が得られた.約3カ月後に永眠するまで,再出血を認めなかった.
58歳男性.総胆管結石による急性閉塞性化膿性胆管炎を発症.抗血栓薬2剤内服中のため初回は胆管ステント留置のみとし,1剤休薬後7日目にEST,採石を行った.処置12時間後に一過性意識消失,貧血の進行,60時間後に右季肋部痛,吃逆を認め,画像所見より肝被膜下血腫と診断し,動脈塞栓術により止血しえた.ERCP時のガイドワイヤー硬性部による血管損傷に起因し,発症したと考えられた.
症例は42歳男性.直腸転移をともなう切除不能進行胆囊癌(T3aN1M1,Stage IVB)と診断され,人工肛門造設術の後,Gemcitabine,Cisplatin併用化学療法(GC療法)を開始した.画像上PRおよび腫瘍マーカー減少を認め,9クール施行後に拡大胆囊摘出術,胆道再建術,直腸切除術を施行した.術後再発を認めたが化学療法で再発病変は消失,術後3年6カ月の現在再々発なく経過している.
51歳,ブラジル人女性.多発性骨髄腫の膵頭部髄外性病変により膵管狭窄と閉塞性黄疸をきたし,主膵管と総胆管にプラスチックステントを留置した.その後,急激に増大した新規の膵体部髄外性病変により閉塞性膵炎をきたした.膵管ステントを再留置し膵炎は改善,放射線照射により髄外性膵病変は縮小を認めたが,原病の進行により約1カ月後に死亡した.髄外性膵病変により閉塞性膵炎をきたした多発性骨髄腫の症例はまれであり,報告する.