本邦は世界で2番目に潰瘍性大腸炎患者数が多い.本邦の急速な人口の高齢化を反映し潰瘍性大腸炎における高齢患者数が増加しているが,同時に高齢期になって初めて発症する患者数も増加傾向にある.高齢期発症患者は必ずしも軽症とは限らず時には重症化,難治化することが少なくない.高齢者患者に対する治療を非高齢者患者と同等に取り扱うことに懸念が生じ,高齢者患者に特化した解決が求められる治療上の各種課題に対する指針作りが必要とされた.厚生労働科学研究費補助金難治性疾患等政策研究事業の「難治性炎症性腸管障害に関する調査研究」で作成された高齢者潰瘍性大腸炎症例に対する治療指針は,臨床上に必要な内容が網羅されている.
潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病に代表される炎症性腸疾患(IBD)は増加の一途を辿り,わが国のUC患者数は米国に次ぐ世界2位となっている.さらに,わが国では人口の高齢化が顕著で,若年発症のUC患者が高齢化した高齢患者の割合が増加したが,高齢になり初めてUCを発症する患者も増加し,新たな課題となっている.また,UCでは免疫を抑制する加療を行う場合があるが,高齢者UC治療においては,高齢者特有の生理・免疫機能の低下について理解し,既往歴や併存症などを加味して検討する必要がある.そこで本稿では,「高齢化したUC」と「高齢発症のUC」について,疫学,疾患経過,併存症などについて概説する.
近年,高齢潰瘍性大腸炎(UC)患者数が増加しており,特に若年発症して長期経過を追っている高齢UC症例と異なり,高齢になって新規に発症したUCは治療に難渋する症例が少なくない.また年齢だけで高齢者の全身状態を判断することはできず,症例によって脆弱性やリスクが異なるため,注意が必要である.現在使用できる治療薬はいずれも高齢者を対象とした試験を経ず保険収載されており,リアルワールドデータを基に有効性,安全性の判断をせざるを得ない.高齢者特有の併存疾患の管理,ポリファーマシーと相互作用,認知症,身体機能低下,易感染状態などのリスクを考慮し,重篤な状態になる前に常に早期介入を心掛ける必要がある.
潰瘍性大腸炎(UC)に対する内科的治療の進歩により手術を回避しながら長期に治療を継続できる症例が増加しており,高齢で手術を受けるUC患者が増えているが,高齢者は若年者と比較して一般に身体・臓器機能が低下しており,併存疾患があり手術リスクが高い.UCの病勢コントロールが困難で手術を行う場合は,周術期のみならず術後も見据えて若年者の場合より早期に手術を考慮することが重要である.また経過で癌やhigh grade dysplasiaの診断が得られた場合は患者の全身状態,ADL,肛門機能のほか,病型,疾患活動性などを総合的に考慮して,十分なinformed consentのもと症例ごとに適切な術式を選択する必要がある.
高齢潰瘍性大腸炎(UC)患者は,若年UC患者と比べて重症または劇症で緊急手術となる頻度が高い.時代とともに高齢UC患者の術後合併症の発生率は改善しているものの,緊急手術を要する高齢UC患者の死亡率は高く,特に肺炎をはじめとする感染症を合併することが多い.UCでは深部静脈血栓症や肺血栓症の発生率も高いため留意が必要である.内科と外科との連携を密にして術前評価を行うとともに,手術のタイミングを逸しないようにする必要がある.高齢UC患者における術後の排便機能は若年UC患者と比べて低下する可能性があるが,高齢でも肛門機能やADLが保たれている症例もいるため,全身状態を総合的に評価し適正な術式を選択することが重要である.
30歳代女性.壊疽性膿皮症をともなう潰瘍性大腸炎の治療目的に転院後,CTで肺・腎臓に多発する膿瘍を認めた.抗菌薬を開始したが改善せず,腎膿瘍穿刺では培養は陰性であった.壊疽性膿皮症にともなう無菌性膿瘍を疑い,顆粒球除去療法,PSL増量,IFX投与を行ったところ多発性膿瘍の改善を認め,壊疽性膿皮症および潰瘍性大腸炎も軽快を認めた.潰瘍性大腸炎の経過中に膿瘍病変を認めた場合,無菌性膿瘍を考慮すべきである.
症例は49歳,女性.慢性下痢の精査目的にて受診された.大腸内視鏡検査で結腸に血管透見低下と浮腫を認め,S状結腸と直腸で白色顆粒状粘膜とひび割れ様所見を確認した.生検病理組織で上皮内へのリンパ球浸潤を認め,lymphocytic colitis(LC)と診断した.原因として長期内服していた薬剤が疑われ,休薬によって症状は消失した.症状出現の4年前に薬剤の配合剤が変更されており,要因となったと考えた.
潰瘍性大腸炎(UC)治療における重症感染症の危険性を示唆する症例を経験したので,文献的考察を加えて報告する.症例は26歳男性.2018年UCの診断.2019年に重症再燃でステロイド,タクロリムス,インフリキシマブ,トファシチニブを投与したが軽快せず,結腸亜全摘術を施行した.術後カテーテルによる感染性血栓形成から敗血症性肺塞栓症を合併し,さらに多発空洞病変をともなう広範な肺化膿症に進展し,治療に難渋した.
症例は23歳女性.発熱と心窩部痛のため受診し,造影CT検査を施行したところ肝外側区域に40mm大の腫瘤を認めた.血液検査で炎症反応上昇を認めたため,肝膿瘍として抗菌薬を開始後に速やかに臨床所見は改善した.1年後に同様の症状が出現,腫瘤は50mm大に増大しており,経皮的肝生検にてfibrolamellar hepatocellular carcinomaの診断に至った.
50歳代女性.遠隔転移を有する十二指腸乳頭部癌に対し,2nd lineのS-1療法中に失行と繰り返す転倒を認めた.頭部単純CTおよび頭部単純MRIでは頭蓋内に占拠性病変は認めなかったが,ガドリニウム造影MRIと髄液検査から髄膜癌腫症と診断した.意識レベルの低下のため積極的治療は行えなかったが,十二指腸乳頭部癌を原発とする髄膜癌腫症の報告例はなく,まれな疾患を経験した.