潰瘍性大腸炎患者は大腸癌のハイリスクであることが知られている.大腸内視鏡によるサーベイランスにより早期発見,死亡率の低下が間接的に示されており,現在多くのガイドラインでは全大腸炎型,左側大腸炎型を対象に,罹患8年目からサーベイランス内視鏡を開始することが推奨されている.至適サーベイランス間隔に関してはガイドラインごとに推奨が異なっていて,今後の課題である.癌の可能性が高いと考えられるdysplasiaに対する治療は大腸全摘であるが,最近内視鏡的切除の報告も散見される.現在,厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班においてレジストリ研究が行われており,その結果が期待される.
潰瘍性大腸炎の長期経過例において,慢性炎症を母地とした大腸癌(CAC)が発症することが知られている.CACを早期に発見するための大腸内視鏡によるサーベイランスは重要であり,その方法については,本邦において無作為比較試験が行われ,狙撃生検による有用性が確認された.色素散布や画像強調内視鏡は病変の検出率を向上させる可能性はあるが,高画質内視鏡においては色素内視鏡やNBIの通常光観察に対する優越性は確認されていない.実臨床では1つのツールに固執する必要はないため,サーベイランスにおいて可能な限り高画質内視鏡を用いて,状況に応じてNBIや色素散布を併用することが重要である.
潰瘍性大腸炎(UC)の慢性炎症を背景に発症するcolitis-associated cancer(CAC)は,長期間にわたる高度の炎症がリスクとなることが多くの疫学研究で示されている.またCACの発生と進行を促進する分子生物学的メカニズムは,主にマウスモデルを用いた研究により解明が進んできた.今後はさらに,CACに対する薬剤による予防(chemoprevention)についても,UC治療において念頭に置くべき課題と考えられ,炎症発癌のメカニズムを考慮したエビデンスの構築が期待される.
潰瘍性大腸炎におけるcolitis-associated cancer(炎症性発癌)早期病変は,通常の大腸に発生する腺腫や腺癌とは病理学的に異なる組織学的特徴,細胞増殖動態,p53免疫染色態度を示すものが多い.現在日本では,炎症性発癌早期病変の病理診断に際しては,①Riddellらのdysplasia分類,②日本の通常の病理診断分類,③厚労省分類,の3つの分類が用いられているが,いずれの分類も炎症性発癌早期病変の的確な病理診断には問題がある.同病変の病理学的特徴を十分把握した上で,再現性や標準化が担保される診断アルゴリズムの作成が必要である.
潰瘍性大腸炎(UC)に対する内科的治療法の進歩が著しい.これにともない手術数は減少傾向であるが,病悩期間は延長している.ここで問題となるのが,colitis-associated colorectal cancerである.UCの手術適応は難治例が多数を占めていたが,難治例の減少とともに癌/dysplasiaで手術となる症例の増加が明らかである.ただ,サーベイランス内視鏡検査の重要性の認識と技術の向上により,high-grade dysplasiaや早期癌で診断される症例が約80%に達しており,予後は比較的良好である.本稿では,UCに合併する発癌症例の臨床的特徴と外科的問題点について概説する.
67歳男性.1年前に潰瘍性大腸炎と診断された.プレドニゾロン,アザチオプリン内服にて寛解導入し,プレドニゾロンは漸減・中止し得た.アザチオプリンで寛解維持されていたが,発熱,倦怠感が出現し,胸部X線・尿中抗原検査などにてレジオネラ肺炎と診断した.レボフロキサシン開始後,速やかに症状は改善した.アザチオプリン内服にともない細胞性免疫が低下し,レジオネラ肺炎の発症リスクが高まったと考えられた.
69歳男性.30歳代から繰り返す腹痛で大腸憩室炎として加療され,軽快していた.再び腹痛を発症し加療されるも改善なく,精査・加療目的で当院へ紹介.診断基準の必須項目である38℃以上の高熱は認めないものの,繰り返す腹痛の原因として家族性地中海熱を疑い,代表的な遺伝子変異を認め,確定診断とした.コルヒチンの内服で3年以上再燃していない.38℃以上の発熱を認めず見過ごされている高齢症例の存在が示唆された.
症例は86歳,男性,一過性の意識消失,黒色便を主訴に救急搬送された.上部消化管内視鏡検査を施行し,検査中に嘔吐反射が強く,Mallory-Weiss症候群を併発した.内視鏡検査後に腹痛および血圧低下を認め,腹部造影CTにて新たに腹腔内出血を認めたため,右胃大網動脈の出血に対してヒストアクリルによる塞栓術にて止血した.内視鏡検査後に腹腔内出血をきたした報告は非常に少なく,文献的考察を含めて報告する.
症例は20歳女性.ステロイド依存性潰瘍性大腸炎(UC)の増悪で入院となった.寛解導入に顆粒球除去療法(GMA)を選択し,中心静脈カテーテルを留置して6日目に,カテーテル血栓および肺血栓塞栓症を発症した.直接作用型経口抗凝固薬(DOAC)を使用し,合併症なく治療しえた.UCに肺血栓塞栓症を合併した報告は散見されるが,経口薬のみで治療した報告は少なく,今後の選択に加える余地があると考えられた.
88歳男性.総胆管結石に対する胆管ステント留置の1年2カ月後にstent-stone complexを形成し,胆管炎を繰り返した.内視鏡的乳頭括約筋切開術後にステントを抜去し,残存した結石は鋳型状で治療に難渋したが,経口胆道鏡による電気水圧衝撃波結石破砕術により破砕し,完全に除石しえた.3カ月後に総胆管結石が再発し,可及的な除石と胆管ステント再留置を行った.以後,7カ月間無症状で経過している.
36歳女性.腹部超音波検診で,肝門部領域胆管周囲に60mm大の低エコー腫瘤を指摘された.腹部CT,MRCPで肝門部に腫瘤性病変を認めた.EUS-FNAを施行し,神経鞘腫の診断となった.病変の局在から肝十二指腸間膜より発生したと考えられた.切除希望なく,1年が経過しているが腫瘍に変化はない.EUS-FNAが診断および治療方針の決定に有用であった,肝十二指腸間膜神経鞘腫を経験したので報告した.