過敏性腸症候群は,腹痛が便通異常に関連して続く病的状態である.過敏性腸症候群は現在の国際的診断基準のRome IVでは4(便秘,下痢,混合,分類不能)型に分類される.その病態は,脳腸相関を軸に解明が進んでおり,下部消化管運動亢進,内臓知覚過敏,不安・うつ・身体化の心理的異常がしばしば生じる.これらの更なる源流として,ストレス,ゲノム,腸内細菌,粘膜微小炎症,粘膜透過性亢進,脳の局所の形態変化をともなう機能的変容が追求されている.過敏性腸症候群の治療は,病態の理解と食生活・運動を中心とした生活習慣の改善の上に,消化管を標的臓器とする薬物療法,中枢薬理,心理療法という順番で実施することが推奨される.
過敏性腸症候群(IBS)の主要病態に内臓知覚過敏がある.内臓知覚調節メカニズムを解明し,内臓知覚過敏を改善してIBSの治療を目指すことは合理的である.われわれは,内臓知覚調節のオレキシンを中心とする中枢メカニズムとCRFを中心とする末梢メカニズムに関する研究を継続中である.神経ペプチド オレキシンは中枢神経系に作用して脳内ドパミン,アデノシンやカンナビノイド神経系を介して内臓知覚を鈍麻させること,CRFは末梢組織において,その特異的受容体であるCRF1とCRF2受容体活性化のバランスにより内臓知覚を調節することもわかってきた.オレキシンやCRFとその受容体は新たなIBS治療ターゲットになる.
過敏性腸症候群(IBS)患者の一部には,腸管粘膜局所に顕微鏡的な微弱炎症を有し,腸管免疫の持続的な賦活化を認める.その粘膜持続炎症がIBSの病態に密接に関与していると考えられるが,そこに存在する詳細なメカニズムに不明な点が多い.そこで今回,IBSで腸管粘膜の微弱炎症の持続がなぜおこるのか,粘膜炎症がどのようにして腸管知覚過敏/機能異常を生じるのか,粘膜炎症に対する抗炎症治療がPI-IBS治療となり得るのかに着目し,文献的考察を行った.今後は,新たな粘膜炎症に焦点を当てた検査法,治療法の確立を目指して,現行治療に難渋しているIBS患者へのbreakthroughとなることを期待したい.
過敏性腸症候群(IBS)においてはその病態生理として,精神的ストレスや炎症,腸内細菌叢の構成異常(dysbiosis),消化管形態異常があり,それによって消化管運動異常,内臓知覚過敏が惹起され,その表現型として,下痢や便秘といった便通異常,腹痛という症状を呈していると考えられる.近年,便秘型IBSに対しては新規の薬剤が導入され,腸内細菌を標的とする抗菌薬投与,低FODMAP食や糞便微生物移植といった新規の治療も開発されつつある.今後は,これらの治療法を本邦の現状に即して最適化していくことが必要である.
65歳男性,腎前性急性腎障害で入院歴あり.頻回の下痢と食欲不振があり,腎機能の増悪,低ナトリウム血症のため入院.大腸内視鏡検査で直腸に粘液分泌をともなう亜全周性の絨毛腺腫を認めた.絨毛腺腫による電解質喪失症候群(Electrolyte Depletion syndrome;EDS)と診断,腹会陰式直腸切除術を施行.病理組織学的に癌は認められず絨毛/管状腺腫と診断され,国内報告ではまれな症例であり報告する.
症例は60歳女性,貧血精査内視鏡検査でVater乳頭部腫瘍とその肛門側に粘膜下腫瘍を認めた.皮膚筋肉に多発する腫瘤やcafé au lait斑および乳頭部腫瘍生検より,神経線維腫症1型(NF1)に随伴する神経内分泌腫瘍(NET)と診断した.膵頭十二指腸切除術施行時,近位空腸漿膜に突出する結節が散在していた.病理上,乳頭部腫瘍はNET G2,乳頭肛門側腫瘍を含め他の腫瘍はいずれもGISTであった.本症例のような報告はまれである.
74歳男性.特発性腸間膜静脈硬化症(idiopathic mesenteric phlebosclerosis;IMP)を有した横行結腸癌と診断した.手術は拡大右半結腸切除術,D3郭清を施行した.IMPを合併した腫瘍の報告は本邦に自験例を含めて6例あるが,発生機序や関連性は不明である.病理組織学的に腫瘍周囲に特に硬化が強く,腫瘍とIMPに関連がある可能性が示唆された.
症例は82歳,女性.造影CTで膵尾部にリング状に濃染される腫瘤が多発した.腫瘤は造影EUSでは内部も造影された.EUS-FNAによる組織学的検査で膵神経内分泌腫瘍(膵NET)と診断し,手術を施行した.切除標本で,腫瘍の中心は脂肪滴を有する細胞が目立ち,線維化が著明であった.まれな組織像を示す膵NETであり,この特徴を造影CT・EUSの画像所見がよく反映していると考えられた.
肝硬変性心筋症は肝硬変に起因する慢性心機能障害である.肝硬変では末梢血管抵抗が低下するため心臓の収縮機能不全は目立たないことが多いが,われわれは重症の急性心不全という特異な発症様式を呈した,肝硬変性心筋症の60歳女性の症例を経験した.冠動脈疾患など既知の心疾患が否定され,心電図,心臓超音波検査,および心筋バイオマーカーなどの基準によって,肝硬変性心筋症と診断した.