肝細胞癌診療において発癌予防,診断,治療,再発後の治療において大きな進歩が認められるが,それぞれの分野において未解決の課題もまた多く存在する.予防分野においては,背景肝疾患発癌抑止法,増加する非B非C型肝癌に対応するサーベイランス法の構築,診断分野ではより早期の診断を可能とするバイオマーカーの発見とそれを意義あるものとする画像診断の進歩,治療分野では薬物療法のさらなる奏効率の向上とアジュバント,ネオアジュバント治療を含む既存の治療法との最適な組み合わせの確立が求められている.また,肝不全例における肝機能の回復は,肝疾患診療全般における最大のunmet needsであるといえる.
近年の薬物治療の進歩により進行肝細胞癌に対する集学的治療の一環としての手術に関する議論が活発となっているが,切除の基準やいわゆる「コンバージョン」という概念に関するコンセンサスがないことが治療効果や治療戦略に関する建設的な議論の足枷となってきた.そこで日本肝癌研究会,日本肝胆膵外科学会は合同プロジェクトとして「いわゆるborderline resectable HCCに関するワーキンググループ」が立ち上げられ,2023年11月,Expert Consensus Statementとして肝細胞癌の腫瘍学的切除可能性分類が発表された.共通の基準をもとに,今後進行肝細胞癌に対する望ましい治療アプローチの検討が進むことが期待される.
肝癌の予後は,肝癌の進展,非代償化/肝不全,非肝関連疾患で規定される.肝癌の治療に際しては肝予備能を考慮した治療法の選択が重要であることは周知のことであるが,治療前の肝予備能の評価に基づき肝癌に対する適切な治療を施行し得たとしても,併存する慢性肝疾患の進行にともなう非代償化・肝不全リスクが存在する.ウイルス肝炎関連肝癌では,肝炎ウイルス制御による肝予備能改善により非代償化リスクの軽減が期待できるが,一方で近年増加傾向である非ウイルス性肝癌では,背景肝に対する確立された治療法はない.肝癌の,特に非ウイルス性肝癌の非代償化予防はアンメットニーズであるといえ,今後の治療法の開発が待たれる.
肝細胞癌に対する肝移植の保険適用は5-5-500基準内もしくはミラノ基準内であり,肝細胞癌治療アルゴリズムではChild-Pugh分類C症例に推奨されている.肝移植は良好な治療成績をあげているが,一定数の再発を認める.術前因子や病理学的因子を用いた再発予測の検討や,ダウンステージの有用性が報告されている.肝移植後再発症例の予後不良因子として移植後早期再発,AFP高値,根治治療不能が報告されており,mTOR阻害剤を用いた免疫抑制剤の調節,可能な場合における積極的外科治療や局所療法の介入,マルチキナーゼ阻害剤を中心とした薬物療法のシークエンス治療が,肝移植後再発の治療において重要となる.
進行肝細胞癌に対する薬物療法は,複合免疫療法の登場により大きな変革期を迎えている.アテゾリズマブ・ベバシズマブ併用療法およびデュルバルマブ・トレメリムマブ併用療法は,従来の標準治療であったソラフェニブと比較して全生存期間を有意に延長することが示された.しかし,複合免疫療法においても一定の割合で不応例が存在し,その抵抗性メカニズムとして,抗原認識の減少,T細胞の遊走・浸潤の阻害,エフェクター機能の抑制などが知られている.本稿では,複合免疫療法時代における進行肝細胞癌治療の新たな課題として浮上した免疫療法不応例について,その臨床的な特徴や機序,そして今後克服すべき課題について概説する.
62歳男性.Epstein-Barr virus関連胃癌による髄膜癌腫症に対し,全脳照射およびNivolumab併用化学療法を施行した.胃癌原発巣および転移巣の縮小と髄膜癌腫症にともなった嘔吐や意識混濁の改善が認められ,1年間増悪なく治療継続が可能であった.髄膜癌腫症の治療法は確立しておらず,予後不良だが,免疫チェックポイント阻害薬を軸とした複合免疫療法が新たな治療になり得ると思われた.
症例は84歳,女性.初発肝細胞癌のため紹介となり,腹腔鏡下肝部分切除術を施行された.再発に対し肝動脈化学塞栓療法を施行されるも不応で,アテゾリズマブ・ベバシズマブ療法を計8コース,アテゾリズマブ単独で計22コースを施行された.血液検査で著明な血小板低下を認め,二次性免疫性血小板減少性紫斑病と診断された.ステロイド治療や免疫グロブリン療法などの治療を施行したが血小板は上昇せず,頭蓋内出血で死亡した.
症例は55歳男性で,膵頭部癌のため膵頭十二指腸切除胆管空腸吻合後に化学療法歴があり,数日継続する高熱を訴えて受診.CTで肝膿瘍を認め,その部位は以前から指摘されている血管腫と一致した.肝膿瘍に対しPTADを施行し,膿瘍造影で胆管との交通を認めた.また,膿瘍培養からEdwardsiella tardaが検出された.肝血管腫の膿瘍化はまれであり,E. tardaが肝膿瘍から検出された報告はないため,報告した.
肝囊胞は,増大して圧迫症状や閉塞性黄疸などをきたし,症候性となることがある.内科的治療として囊胞穿刺排液,硬化療法があるが,再発率が高い.今回われわれは,15年以上の経過で徐々に増大して圧迫症状と閉塞性黄疸をきたした症候性巨大肝囊胞に対して,囊胞穿刺排液と囊胞内洗浄を併用する塩酸ミノサイクリンによる経皮的硬化療法を施行し,著明な囊胞縮小効果と症状改善を認めた症例を経験したので報告する.