1933年スエーデンの眼科医, Henrik Sjögren1)は乾性角結膜炎,耳下腺腫脹に慢性関節リウマチ(以下RAと略す)の合併することを発表した.その後,このような症候群をSjögren症候群と呼ばれるようになつた.しかし近年になり, RAばかりでなく強皮症,慢性甲状腺炎,皮膚筋炎, SLE,その他各種の自己免疫疾患の合併例が報告され,さらに, LE細胞,抗核抗体,抗甲状腺抗体,抗胃抗体,抗筋抗体等の血清自己抗体の存在も証明されるようになり,一症候群としての自己免疫疾患と考えられるようになつた.またLeventhalは末梢血のリンパ球のPHA添加によるblastoid cell transformationを行ない,本症ではその低下がみられたと報告して以来,細胞性免疫能の面からのアプローチもされつつある.そこでわれわれは,本症候群26例について,臨床的,免疫学的検討を行なつた.とくに臨床的には,他の自己免疫疾患の合併についての検討を行なつた.その結果,慢性甲状腺炎11例,強皮症6例, SLE3例, RA13例の合併を認めた.以上の事実からSjögren症候群は単なるRAの一亜型ではなく,独立したsicca syndromeがRAをはじめその他の自己免疫疾患を合併し易い症候群であると考える方がより妥当であると考える.免疫学的検討を行なつた結果では,高γグロブリン血症を示す例が多く, IgG, IgA, IgMの免疫グロブリン値すべて増加を示した.リウマトイド因子, LE細胞,抗核抗体,抗サイログロブリン抗体は高率に認められ,抗耳下腺抗体,抗筋抗体も陽性を示す例があつた.また,補体価は低値を示す症例も認められたが,多くの症例では正常値を示した.細胞性免疫にかんしては,ツベルクリン皮内テスト,末梢血リンパ球のPHA添加によるblastoid transformationを行なつた結果,ツベルクリン反応の陰性率は16例中14例で高い. PHA-blastoid transformationでは著明な低下を示す例はみられなかつたが,軽度の低下を認める例が有意に多いので,細胞性免疫能の低下を示唆するものと考えられる.以上の結果から,本症候群はその他の自己免疫疾患を合併しやすい疾患であり,また,各種血清自己抗体も多彩である点は,自己免疫疾患の中心的位置を占める疾患と考えられる.
抄録全体を表示