低ナトリウム(Na)血症は,日常臨床において最も一般的な水電解質異常である.急性/中等度~重度症候性の低Na血症のみならず,慢性/軽度症候性の低Na血症であってもADL(activities of daily living)や生命予後の悪化にかかわることが知られており,低Na血症を早期に認識し対応する必要がある.低Na血症の診断においては欧州ガイドラインの診断アルゴリズムが有用であるが,ただ機械的に使うのではなく,病態を理解することが重要である.特に高齢者に代表される,低Na血症に至る要因を複数有する患者では,診断アルゴリズムのみでは鑑別診断がつかないことも経験する.本稿では診断アルゴリズムに加えて「よくある病態」「見逃してはいけない病態」についても概説していく.
高ナトリウム血症は体内総水分量(自由水量)の異常により生じ,その病態形成にはarginine vasopressinが関与している.集中治療領域では,高ナトリウム血症の発生頻度が近年上昇していること,脳死患者においては中枢性尿崩症による高ナトリウム血症の管理が重要であることが注目されている.
電解質領域はエビデンスレベルの高い領域ではないため,慣習的に対応しないためにも病態生理の把握は重要である.低カリウム(K)血症に関しては病歴に加え,代謝性アルカローシスの有無,尿電解質の解釈,必要に応じてレニン,アルドステロン等のホルモン検査を行い診断する.治療の原則は原疾患の治療であるが,緊急性のある場合は医原性高K血症に気を付けながらK補充も行う.
高カリウム(K)血症は日常診療でよく遭遇するが,時に致死的となることから迅速な病態の把握と対応が求められる.その病態はintakeの増加,outの減少,細胞内シフトの障害と分けると理解しやすく,特に前者2つは通常慢性腎臓病が背景にある.近年,心疾患や腎疾患に対するRAS(renin-angiotensin system)阻害薬の有効性の報告とともにその使用が増加しているが,副作用の高K血症を診る頻度が増えている.その一方で高K血症の新規治療薬も開発され,今後の診療は変わる可能性がある.
カルシウム(Ca)は骨組織を形成し,神経伝達や筋収縮,酵素活性等の生体の恒常性維持に深く関わることから,主に副甲状腺ホルモンと活性型ビタミンDによって厳密に調整されている.マグネシウム(Mg)は通常の生化学検査には含まれないことも多いが,Caと同様に生体の恒常性維持に深く関わり,他の電解質異常に合併することも多い.本稿では血清Ca・Mg値の異常について,その機序と症候,代表的な病態について概説する.
代謝性アルカローシスは,入院患者に多く,その存在が正確に診断されていない可能性が高い酸塩基平衡異常である.代謝性アルカローシスが,臨床的に問題となるためには,発症因子のみならず,腎臓からのHCO3-の排泄を低下させる維持因子の病態が必要である.維持因子には,細胞外液量減少,Cl-欠乏,K+欠乏,ミネラルコルチコイド作用の亢進・アルドステロン過剰が知られている.代謝性アルカローシスの病因・病態を正確に診断し,適切に治療するためには,これら代謝性アルカローシスの維持因子の病態の解明とその改善を図ることが必須である.
生体内に生じる酸の大半は二酸化炭素として肺から排出される.一方,不揮発酸は細胞内外の緩衝系で緩衝されるとともに,アンモニウムイオンや滴定酸として尿中に排泄される.代謝性アシドーシスは不揮発酸の産生増加,酸排泄障害,アルカリ喪失により生じ,アニオンギャップ等の指標に基づき鑑別される.集中治療領域や慢性腎臓病患者の代謝性アシドーシスは臨床アウトカムと関連し,その治療意義が明らかにされつつある.
・血液ガスを測定しなくてもNa―Clで酸塩基平衡異常が推測できる. ・Na―Cl<36 代謝性アシドーシス,Na―Cl>36 代謝性アルカローシスを疑う. ・Na―Cl≒36でも酸塩基平衡異常がある. ・重症疾患(乳酸アシドーシス,ケトアシドーシス,呼吸不全)では血液ガス測定を行う.
29歳,男性.nuclear protein in testis(NUT)carcinomaの診断で手術・放射線療法を施行したが,約6カ月後に再発し,ビンクリスチン,ドキソルビシン,シクロホスファミド,イホスファミド,エトポシドによるVDC-IE療法を開始した.一時寛解相当の効果が得られたが,初診より1年8カ月後に死亡した.若年発症の原発不明未分化癌ではNUT carcinomaも鑑別に挙げる必要がある.
66歳,男性.倦怠感と全身浮腫,両側滲出性胸水を認めたが,血液検査や画像検査,胸水検査で特異的所見は認めなかった.局所麻酔下胸腔鏡検査の結果,胸膜に多発結節性病変があり,病理組織像で非乾酪性類上皮細胞肉芽腫を認めた.気管支鏡検査所見もサルコイドーシスに矛盾なく,サルコイドーシス(組織診断群)と診断した.滲出性胸水を伴う症例で一般的な検査で特異的所見がない場合,局所麻酔下胸腔鏡検査を検討することが重要である.
83歳,女性,水様便と食思不振を主訴に受診した.腹部CT(computed tomography)でびまん性胃壁肥厚,上部消化管内視鏡検査で白苔・びらんを伴う広範な潰瘍性病変を認め,胃壁,血液,便培養からYersinia enterocoliticaが検出されたことから同病原菌による胃蜂窩織炎と診断した.後に終末回腸の潰瘍性病変,胃悪性リンパ腫が判明し,起炎菌の侵入門戸として考えられた.本症例は抗菌剤による保存的治療により治癒が得られた.
80歳,男性.発熱を主訴に精査入院となり,血液検査,腎生検の結果から,顕微鏡的多発血管炎(microscopic polyangiitis:MPA)の診断に至った.入院時から,心電図で完全房室ブロックがあり,ペースメーカー留置を検討していた.しかし,MPAに対する寛解導入治療によって,完全房室ブロックは1度房室ブロックに改善した.小型血管炎ではそれに伴う心筋虚血によって完全房室ブロックが引き起こされ,治療によって改善する可能性を念頭に置く必要がある.
2005年から2030年までに後期高齢者人口が倍増し,同時に認知症や独居高齢者も激増していきながら多死時代にも突入する.さらに医療の高度化と同時に疾病構造も大きく変化し,疾患や障害を持ち合わせながら長期に療養する患者が増える時代に入っていく.今こそ地域完結型医療への進化が求められ,そこには医療機能の機能分化,そして医療・介護分野の円滑な多職種連携を基盤とする地域システムが必要である.多分野専門職のチームケアを導入することは,多くの解決策が見つかりやすくなり,さらに問題の見逃しがなくなりやすく,患者・家族中心のケアを実現できる利点がある.多職種・多機関での連携が円滑に行われ,必要な情報が迅速かつ適切に共有されることは,医療安全,ケアの効果的な提供,そして最終的には患者や家族の満足度向上等,さまざまな点で非常に効果的である.さらに,個々の従事者のモチベーションアップにもつながり,ケアの質向上にも連動していく好循環を生み出す.
脳梗塞急性期は時間との戦いであり,血管再開通までの時間が治療の成否を分けてきた.しかし,新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)パンデミック下の最優先事項は感染防御である.ときに時間を犠牲にしてでも医療従事者の安全を確保する.これは結果として多くの脳卒中患者を守ることにつながる.このコンセプトを明示した脳卒中急性期診療指針がProtected Code Stroke(PCS)である.2020年4月に発表された日本脳卒中学会版PCSでは,まずCOVID-19未判定例(英語のpatient under investigationに相当する造語)を定義し,PCSの要点として(1)確実な個人防護具の装着,(2)患者へサージカルマスクの装着,(3)必要最小限の人員での対応を示した.その後,施設毎の実情に即したPCSプロトコルが作成され,コロナ禍の脳卒中医療提供体制を維持・継続している.