症例は21才の男子で,母46才のとき, 8カ月の早産で出生し, 9才時,知能の遅れと21trisomyを発見され, 10才時,糖尿病が発症し,インスリンによる治療が開始された. 21才時,糖尿病性ケトアシドーシス,慢性腎不全のため当科に入院した.ケトアシドーシスを脱し,インスリン注射量,食事摂取量などがほぼ一定となつた時期に,著明な高血糖(300~600mg/dl)が5~10日の周期で繰り返しみられた.この高血糖期には徐脈(40/分),精神・身体の活動性の低下がみられた.そこで,この周期性高血糖の機序について検討した. (1) 19日間連続測定した,空腹時血糖,血漿グルカゴン,成長ホルモン,コーチゾルおよび脈拍の相互関係を検討した. 6日間隔の著明な高血糖がみられ,これに徐脈,グルカゴンおよび成長ホルモンの高値が伴つていた.すなわち,同じ日の血糖,グルカゴン,成長ホルモンの相互間には有意の正相関がみられ,また,ある日の血糖とその翌日の脈拍の間には有意の負相関がみられた. (2)全入院期間の脈拍を,パワースペクトル分析および最小自乗スペクトル分析の2方法で分析した.前者では6.67日のリズムが最も強力であり,後老では6.5日のリズムが最も高頻度にみられた.このように本例では,約7日の間隔の周期性高血糖があり,グルカゴンおよび成長ホルモンの高値,さらに徐脈がこれに周期していることが確認でぎた.本例にみられたこのような現象は内分泌に対する中枢支配を考慮せずには議論がでぎない.そこでこの点を主に考察を行なつた.
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