循環器疾患に限らず,患者の問題を解決するうえで基本的な情報は患者の訴えと身体所見である.この重要性は,画像診断法が進歩した現在においても,いささかも色あせることはない.診断の精度のみならず,病歴聴取や丁寧な身体診察は,医師患者間のより一層の信頼関係を増すことにつながる重要な手法でもある.ここでは,弁膜症に限って身体所見について述べる.
弁膜症診断および重症度評価には心エコーが必須である.心室形態,弁形態,心機能の評価は手術治療のタイミングや手術法の決定の際に重要であり,従来は二次元心エコー法およびカラードプラ法で行われてきた.最近,機能評価の一環としてストレイン法が注目されており,また形態評価の一環として三次元心エコー法が広く行われるようになってきた.本稿では,これらの新しい技術の弁膜症への応用について述べる.
弁膜症は進行性の疾患である.したがって,外科的治療の適応ではない心臓弁膜症の内科的治療の目標は,弁の障害およびその障害による心機能障害の進展を予防し,外科的治療のタイミングまでADL(activities of daily living)や予後を改善することにある.慢性の各弁膜症において,確立した薬物治療はほとんどないといっても過言ではない.動物実験のデータや臨床データを整理して,各弁膜症の現時点での薬物治療の有用性と限界性について言及する.
大動脈弁疾患に対するこれまでの外科的治療は,主に人工弁を使用した大動脈弁置換術が選択されてきたが,近年では主に大動脈弁閉鎖不全症に対して大動脈弁形成術が選択されることが多くなってきている.
大動脈弁尖の条件によって,大動脈弁形成のテクニックが考えられ,大動脈弁逆流の原因によって適切なテクニックを選択し,形成術が行われている.解剖学的な異常(ニ尖弁,単尖弁など)や弁尖自体の異常(著しい逸脱,石灰化など)には自己心膜を使用した大動脈弁再建術についても良好な結果が報告されている.
経カテーテル的大動脈弁留置術(transcatheter aortic valve implantation:TAVI)は,外科的大動脈弁置換術(surgical aortic valve replacement:SAVR)が高リスクな患者群に対して,より低侵襲な治療として開発されてきた.2002年に第一例が施行されて以来,現在までに欧米を中心に世界中で20万例以上が治療されている.日本でもようやく保険償還され,実施施設が拡大しつつあり,初期成績は良好である.本稿ではこのTAVIの現状と今後の展望について概説したい.
2008年以来初の改訂となる2014年度版ACC/AHA(American College of Cardiology/American Heart Association)弁膜症ガイドラインが発表された.治療法の進歩により手術成績が向上したため,このガイドラインでは治療介入閾値の引き下げが行われ,これにより手術適応患者の範囲が拡大している.このガイドラインをもとに器質的MR・機能性MRに対する治療介入のタイミング,弁形成vs.弁置換:治療法の適応・問題点について詳述する.
僧帽弁疾患,特に僧帽弁閉鎖不全(mitral regurgitation:MR)に対する治療は,器質的僧帽弁閉鎖不全(degenerative mitral regurgitation:DMR)と機能的僧帽弁閉鎖不全(functional mitral regurgitation:FMR)に分けて考える.DMRでは外科医による弁形成術/置換術が基本である.FMRでは根本の原因である左室機能障害とリモデリングに対する治療が求められ,内科的治療が中心となる.近年,MitraClip®など血管内治療による僧帽弁閉鎖不全への介入が始まり,新デバイスの開発も進んでおり,今後はハートチームによる治療戦略決定が求められる.
活動期感染性心内膜炎(infective endocarditis:IE)に対する外科治療は,心不全や感染の制御,塞栓症の予防の観点から,適応,手術時期を判断し,感染組織の可及的切除により再感染を予防する.また,脳合併症を呈する場合には,梗塞後出血や新規発症のリスクを考慮に入れたうえで適切な手術時期を決定すべきである.大動脈弁位では弁周囲膿瘍が起こりやすく,周囲組織との解剖学的関係を十分理解し,郭清,再建を行う.僧帽弁位では弁形成の可能性を常に考慮すべきである.
感染性心内膜炎は,高齢化社会や心臓デバイス治療などの発展に伴い,高齢者での罹患例が増えている.罹患例では死亡率も高く,迅速な診断と適切な抗菌薬治療が重要である.また,引き続く心不全や塞栓症は重要な死因であり,リスクの高い例では早急な外科手術が必要になる.治療方針決定には,血液培養による原因菌の同定が最重要である.また,ハイリスク患者には,あらかじめ予防の重要性を説明しておく必要がある.
50歳代,女性.ANCA関連腎炎にて血液透析導入となり,導入3カ月後に血圧上昇,視力低下,悪心,嘔吐にて入院した.血液検査上,TMA(thrombotic microangiopathy,血栓性微小血管障害)様の所見を呈し,頭部MRIでは脳幹,大脳基底核に非対称性のT2強調画像,FLAIR像の高信号を認めた.降圧治療により症状は改善し,血液検査所見も正常化した.約2カ月後の頭部MRIでは高信号が一部消失しており,非典型的だが可逆的な画像所見から最終的にPRES(posterior reversible encephalopathy syndrome)と診断した.
症例は54歳,女性.検診での胸部X線検査において異常陰影を指摘され,精査目的で施行した胸部単純CTで30 mm大のすりガラス陰影(ground glass nodule:GGN)を認めた.肺腺癌が疑われたため,診断的治療目的に胸腔鏡下肺部分切除術を施行した.病理組織像で肺胞腔内にコレステリン結晶を含有する好酸性滲出物と泡沫状マクロファージを認め,最終的にリポイド肺炎と診断された.
口渇,多飲多尿と発熱で受診した74歳,男性.内分泌検査で中枢性尿崩症と診断したが,画像検査では下垂体腫大,両側肺門リンパ節腫大と肺野に腫瘤影を認めた.経気管支肺生検から組織学的にサルコイドーシスと診断した.ステロイド治療で肺病変の改善を認めたが,尿崩症は改善しなかった.本邦の他の報告でも自然治癒した1例を除き,発症後1カ月以内に治療を開始した症例以外では尿崩症の改善を認めず,早期治療開始が重要と考えられた.
肝膿瘍ドレナージ排液培養から結核感染と診断された69歳男性.持続性の下血を主訴として来院.内視鏡検査やCT検査でも原因が判明せず,2回目の造影CTで右肝動脈仮性動脈瘤からの出血が指摘された.臨床経過より肝膿瘍から炎症波及が原因の感染性動脈瘤と診断,IVRで止血に至った.出血源不明の消化管出血は肝・胆道系からの出血の可能性もあり,原因の1つとして動脈瘤の胆道への穿破も考えられる.
現在,腎・高血圧疾患の克服は医療にとって重要な課題であるにもかかわらず,その治療選択肢は十分とはいえない.私たちはこれまでに,食塩感受性高血圧症および慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)の発症進展メカニズムにおいてセリンプロテアーゼが非常に多彩で重要な役割を果たしていることを多くの基礎的検討から明らかにしてきた.そして,セリンプロテアーゼ阻害薬が実験動物モデルにおいて降圧効果ならびに腎障害進展抑制効果を発揮することも示してきた.本稿では,腎・高血圧疾患の病態におけるセリンプロテアーゼの関与について,私たちの研究成果を中心に紹介する.