84歳,男性.カテーテル関連尿路感染症に対してセフェピムを投与したが,意識障害及び不随意運動が出現し,脳波検査で三相波類似の高振幅徐波を認めた.セフェピムを中止したところ,症状は軽快し,脳波所見も改善した.セフェピム脳症は主に腎機能低下患者で認められるが,血液脳関門が障害された状況でも起こることが報告されている.本例は,癌の脳転移により,血液脳関門が障害された状態であり,セフェピム脳症が起こりやすい状況であったと考えられた.
34歳,男性.入院2年前に神経性やせ症と診断された.血痰,胸部異常陰影のため,当院に入院した.左肺上葉に粗大な空洞性腫瘤,その周囲や右肺上葉に多発する空洞性結節を認め,喀痰培養検査でAspergillus fumigatusを検出し,慢性進行性肺アスペルギルス症(chronic progressive pulmonary aspergillosis:CPPA)と診断した.著しいるい痩及び低栄養状態にあり,低血糖や貧血を認めたが,支持療法を行いつつ,抗真菌薬による治療を行った.
脳細胞は,神経活動を維持するためにも老廃物を効率的に処理する必要性がある.しかし,中枢神経系には解剖学的に同定されたリンパ管は認められず,どのように老廃物を除去しているのかについては十分にはわかっていなかった.近年の研究で,脳脊髄液は,穿通枝動脈の血管周囲腔からアストロサイトが形成した勾配により細胞間隙内に移動し,その後,静脈周囲腔を伝って中枢神経外から排泄されることが明らかになった.この排泄機構は,gliaが介在したリンパ管システムとして,glymphatic systemと呼ばれる.このglymphatic systemは老廃物の処理にも関与する.さらに,glymphatic systemの機能不全がAlzheimer型認知症等の神経変性疾患の発症に深く関わっている可能性がある.glymphatic systemは脳小血管と密接に関連しており,脳血管機能の低下がglymphatic systemの機能低下を引き起こし,Alzheimer型認知症等の神経変性疾患の発症に関連する可能性がある.
喘息の標準治療は進歩したが,日常生活に支障を来たしている重症患者は未だに喘息全体の5%程度存在し,分子標的薬はその新たな治療選択肢である.IL(interleukin)-5は,炎症形成に重要な役割を担っている好酸球の強力な活性化因子である.現在,抗IgE抗体と抗IL-5抗体に加え,抗IL-5受容体α(IL-5Rα)抗体の臨床使用が可能になっている.抗IL-5抗体の開発過程では,対象患者を好酸球性喘息に限定しなかったため,当初,その有効性が示されず,好酸球の重要性が揺らいだ時期もあったが,好酸球性喘息に限定した試験では有効性が示され,2016年に臨床適用に至った.この過程で喘息病態の多様性が再認識され,分子標的治療においては,分子病態で患者を選択する重要性が示唆された.分子標的薬選択のバイオマーカーが十分確立していない点が課題として残っているが,抗IL-5療法の登場で重症喘息治療の選択肢は増え,また一歩,治療体系は進歩した.