喘息は吸入ステロイドを中心とした抗喘息薬の普及によりそのコントロールは良好となった.しかし,臨床において治療反応性が得られない難治性喘息が少なからず存在する.こういった症例ではまずは真の難治性喘息か否かを見極めることが重要であり,アドヒアランス,吸入手技,環境因子そして併存症の有無について再度検討する必要がある.このような諸要因を除外して難治性喘息と診断した場合に生物学的製剤の使用が考慮される.
サルコイドーシスは原因不明の全身性肉芽腫性疾患であり,ほぼ全ての臓器で病巣を形成し得るが,呼吸器病変の合併頻度が圧倒的に高いために,呼吸器科医が診療の中心となることが多い.診断手順がやや煩雑で,症状や臨床経過など症例毎の多様性も高く,診療に慣れた複数科の医師が連携して管理することが多い.病因論としてはアクネ菌説が有力である.現在の全身ステロイド中心に変わる治療法について,国際的に協力して新薬開発が進められることを期待したい.
IgG4関連疾患は,高IgG4血症と全身の様々な臓器へのIgG4陽性細胞浸潤と線維化を認める疾患である.疾患概念が確立されてから10年以上が経ち,2020年改訂IgG4関連疾患包括診断基準や2019ACR/EULAR分類基準が公表され,疾患の輪郭がさらに明確になった.また病態についても,獲得免疫や自然免疫の関与が解明されてきているが,長期経過や治療法についての課題なども多くある.日本発の本疾患について,今後の研究のさらなる発展を期待したい.
アレルギー性気管支肺アスペルギルス症の病態形成には,分生子として下気道まで吸引された真菌が気管支腔内で発芽・定着すること,それに対してI型・III型アレルギー反応が生じること,2型気道炎症と真菌との直接作用により生じた好酸球ETosisにより粘稠な粘液栓が形成されることが重要である.これらの病態をふまえた新しい診断基準を用いて早期診断・治療を行うことが不可逆的な気道の構造破壊を防ぐことにつながる.
リンパ脈管筋腫症(LAM)は肺の多発性囊胞のほか,腎臓などの血管筋脂肪腫,後腹膜腔などのリンパ脈管筋腫,乳糜漏(胸水,腹水)などの病変を伴うことがある全身性の腫瘍性疾患であり,進行すると呼吸不全を呈しうる指定難病である.これまでは有効な治療法に乏しかったが,mTOR阻害薬の登場により治療可能な疾患に状況が変わりつつある.LAMの病態や臨床像,mTOR阻害薬(シロリムス)による治療について概説する.
COVID-19の流行後に,喘息入院は減少しており,マスク装着等による呼吸器感染症の減少が関与している可能性がある.喘息やアレルギー性鼻炎患者は,COVID-19に罹患しにくい傾向があり,喘息患者での重症化リスクも高くない.喘息における2型炎症や,吸入ステロイド薬(ICS)は,ウイルス受容体であるACE2発現を低下させる.ICSや生物学的製剤は安全に使用可能であり,従来通りの治療を継続する.
肺炎マイコプラズマは市中肺炎の代表的な起炎菌であるが,細胞壁をもたず,細胞膜成分が宿主免疫応答に関与する.気管支やその周囲の間質に炎症を起こし,多様なHRCT像を呈する.宿主の免疫反応はIL-8などのケモカイン誘導やToll様受容体など自然免疫が大きく関与する.肺炎マイコプラズマと喘息との関連性を示す報告も多く,Th2炎症の免疫機構やサーファクタント分子との相互作用が示されている.
62歳男性.再生不良性貧血に対して赤血球・血小板輸血依存状態であった.発熱と倦怠感,急激な肝逸脱酵素上昇にて入院し,急性E型肝炎と診断された.その後の検査で感染経路は,入院42日前に行っていた血小板輸血であることが判明した.
81歳,女性.整形外科の術後に低酸素血症を指摘された.肝硬変があり,コントラスト心エコーの所見で肝肺症候群と診断した.73歳,女性.整形外科の術前検査中に低酸素血症を指摘された.肺血流シンチで右→左シャントがあり,卵円孔開存を確認した.共に呼吸困難はなく,ベッドサイドでの診察時に起坐位では酸素投与が必要であることに気づいたことが,Platypnea-Orthodeoxia Syndrome(POS)診断のきっかけとなった.
70歳代,男性.多量の腹水,腸管浮腫・狭窄に対して精査するも,原因の特定に至らなかった.経過中の画像検査で,腹腔内に蜂巣状被膜に覆われた囊性変化が出現したことから,被囊性腹膜硬化症と診断した.副腎皮質ステロイド50 mg/日で治療を開始し,症状の改善および腹水の減少に加え,腸管浮腫・狭窄ともに改善した.原因不明の腹水貯留を認めた場合,腹膜透析の有無に関わらず,被囊性腹膜硬化症の可能性も念頭におく必要がある.
71歳女性.頭痛や右同名半盲にて発症し,続いて亜急性に幻視,てんかん重積発作が出現した.脳MRIで左後頭葉・頭頂葉皮質は腫大し,血液中・髄液中抗GAD抗体陽性で,高血糖(BS 247 mg/dl,HbA1c 13.2%)を認めた.臨床経過および検査結果から抗GAD抗体関連脳炎と診断した.ステロイドパルスと経口プレドニゾロン,抗てんかん薬により症候が改善した.原因不明の脳炎に対しては血清および髄液中の抗GAD抗体の測定を実施することが望まれる.
MELASやMERRFなどミトコンドリア病の多くはミトコンドリアtRNA遺伝子の点変異で発症する.その発症機構としてはアンチコドン1文字目塩基におけるタウリン修飾の欠損によるコドンの解読障害が解明されている.高用量タウリン投与によりMELASモデル細胞のミトコンドリア機能が改善し,さらに医師主導治験でMELAS脳卒中様発作の再発抑制効果,タウリン修飾率の改善,安全性が示され,タウリン療法は2019年に保険適用が追加承認された.タウリンには抗酸化作用,細胞内Ca2+恒常性維持,アポトーシス抑制など多様な生理作用が知られているが,MELAS iPS細胞のメタボローム解析から過剰な酸化ストレス状態がタウリン添加により改善されることも示された.酸化ストレスはミトコンドリア病だけではなく,多くの生活習慣病や老化にも関わることから,タウリン療法は幅広い疾患への治療応用が期待されている.
ウイルスや細菌感染,免疫応答の異常などによる慢性炎症は,全身の臓器に様々なダメージをもたらす.消化管においては,機能が損なわれるだけでなく,発がんが重要な問題となる.Helicobacter pylori感染による胃がんは高齢者を中心に依然として大きなテーマであり,生活習慣の欧米化に伴ってか,食道がんや大腸がんの重要性が増している.その一方,消化管の慢性炎症,化生性変化,発がんのメカニズムに関する研究も着実に進歩している.例えば,臨床検体のオミックス解析で得られた情報を精緻に解析することで,慢性炎症から発がんに至る過程の意外な一面が明らかになってきた.本稿では,慢性炎症の段階で上皮細胞の遺伝子に生じている変化も含め,食道,胃,大腸の炎症と発がんに関する最近の知見のいくつかを紹介する.