介護保険の対象者は,介護だけでなく医療のニーズも同時に合わせ持ち,これは,医療経済的にも,疾患構造の分析からも明らかである.老年科医は,医療ニーズの手がかりとしての,「老年症候群」の診断と対処に精通している.介護現場で不足する医療知識は,老年症候群に対する知識と治療である.介護保険においては,生活機能の的確な判断と,機能の維持改善の道筋をつける必要があるが,科学的な視点によって,機能を分析,間題点の把握をする「高齢者総合的機能評価」の知識をもった老年科医の役割が重要性を増している.痴呆は単に,記憶力が減退するだけでなく,生活力の低下,異常精神症状,身体合併症の増加など,総合的機能評価を応用する格好の場面であり,老年科医師は評価,ケアプランの策定,ケア技術の開発に積極的に関与すべきである.終末期の問題も介護保険で重要性が増しているが,社会倫理的な側面にとどまらず,今日から役立つ終末期ケアの充実に老年科医はかかわるべきである.
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