虚血性心疾患は,冠動脈の狭窄ないしは閉塞により引き起こされる疾患であり,冠動脈造影が診断の中心的役割を担ってきた.しかし,冠動脈造影で描出される狭窄が必ずしも心筋虚血を引き起こすとは限らず,血行動態的な評価を追加してはじめて重症度を正しく判定できることも多い.また,通常の冠動脈造影では捉えきれない病態(冠攣縮,微小循環障害,INOCA(ischemia with non-obstructive coronary arteries)ならびにMINOCA(myocardial infarction with non-obstructive coronary arteries))が心筋虚血の原因であることもあり,幅広い視点を持って診断手順を踏むことが必要である.
冠動脈形成術の適応要件として,負荷時の心筋虚血が証明された病変であることが重要である.血行再建が適切に行われれば,心筋虚血の改善により,胸痛等症状の改善,心筋梗塞,死亡のリスク低下等の予後改善が期待できる.心筋虚血の証明によく用いられるモダリティに心筋シンチグラフィ,CT(computed tomography),MRI(magnetic resonance imaging)ならびに心エコー図等の非侵襲的画像検査があるが,各モダリティの診断精度と特徴の理解,それぞれの使い分けを理解することが肝要である.
急性冠症候群は,冠動脈プラークが破綻(破裂やびらん)することで冠動脈内に血栓が形成され,急速に心筋虚血を生じることが主たる病態である.破綻以外の原因としては,冠攣縮の他,頻度は少ないが,冠動脈内への塞栓,冠動脈解離等がある.症状が心筋虚血に起因する場合は,バイタルサインを確認すると共に12誘導心電図を記録し,ST上昇の有無を判断する.より有効な治療を行ううえで,より迅速且つ確実な初期診断が重要である.
高齢化の進む我が国では,出血リスクの高い患者への対応が求められる.2020年,日本循環器学会ガイドラインが改訂され,「冠動脈疾患患者における抗血栓療法」が発表された.ステント血栓症に対する抗血小板薬2剤併用療法(dual antiplatelet therapy:DAPT)期間の短縮やde-escalation,さらに,安定冠動脈疾患を合併した心房細動症例に対する抗凝固薬単剤療法等less is moreレジメンに抗血栓療法のコンセプトは転換してきている.
近年,慢性冠症候群という概念が提唱され,かつて安定狭心症と分類されていた概念が変化しつつある.急性冠症候群と相対する表現であるが,急性期治療のみでなく,慢性期にも的確な治療介入を行っていく必要がある.狭心症は,労作性狭心症・冠攣縮性狭心症・微小血管狭心症に分けられ,病態に応じて抗狭心症薬を使い分けることが重要である.β遮断薬,Ca拮抗薬,硝酸薬ならびにニコランジルにfocusを当て,それぞれの特徴について概説した.
ハイリスク患者に対するPCI(percutaneous coronary intervention)は,CHIP(complex and high-risk intervention in indicated patients)と呼ばれる.技術やデバイスの進歩に伴い,これまでは十分な治療ができなかった患者への治療を提供できることから,CHIPはインターベンション医の1つの専門分野として日米の学会でも注目されている.CHIPでは,より難易度の高いCTO(chronic total occlusion,慢性完全閉塞病変)も頻繁に治療が必要となるため,CTOの治療にも精通していることが求められる.また,米国では2008年にロボティックPCIの使用が開始され,本邦でも2019年から使用が始まっている.本稿では,CHIP患者に対する最新の治療,CTOに対する治療,また,ロボティックPCIの発展について,日米での知見を踏まえて解説する.
次世代の薬剤溶出性ステントの登場に伴い,経皮的冠動脈インターベンションの適応は広がる一方,冠動脈バイパス術(coronary artery bypass grafting:CABG)の適応となる症例は減少すると共に,多枝病変や多くの合併症を有する,重症例の占める割合が増している.本稿では,最新のガイドラインや臨床試験の結果を踏まえ,CABGの現状について概説する.
虚血性心疾患は,急性冠症候群(acute coronary syndrome:ACS)と慢性冠症候群(chronic coronary syndrome:CCS)に分類される.ACSは早期にprimary PCI(percutaneous coronary intervention)を施行することにより救命率が向上したが,全国各地で均一な医療提供体制は確立しておらず,脳卒中・循環器病対策基本法による各地域のPCI施設,PCI医師の整備が必要である.CCSは重症化予防のために生涯に亘ってリスク管理が必要であり,冠動脈の解剖学所見と心筋虚血所見に基づく適正な介入治療(生活習慣改善・薬物治療・冠血行再建)が求められる.
65歳,男性.気胸の既往があり,CT(computed tomography)にて多発薄壁囊胞を認めた.腎病変はなかったが,鼻部に常色小丘疹を認め,皮膚生検にて線維毛包腫であった.Folliculin遺伝子解析でexon 12における点突然変異を認め,Birt-Hogg-Dubé症候群と診断した.家系調査で母と娘にも気胸の既往があった.再発性気胸では,囊胞性疾患の検索が必要であり,本症例のような遺伝性疾患では遺伝カウンセリングが重要である.
54歳,女性.26歳時より,3カ月に1回程度の頻度で発作的に腹痛及び発熱を繰り返していた.精査を行うも原因不明であった.長男が家族性地中海熱(familial Mediterranean fever:FMF)の診断を受けたことを契機に,本人も28年越しにFMFと診断されるに至った.治療介入(コルヒチン内服)を行い,QOL(quality of life)は飛躍的に上昇した.本疾患の認知度が上がるにつれて,診断される症例数も増えている.周期的な発熱及び腹痛の鑑別疾患として,FMFを念頭に置くことは重要である.
36歳,男性.心窩部痛及び黒色便を主訴に受診した.血液検査にて,著明な白血球増多及び高Ca血症を認めた.血中副甲状腺ホルモン関連蛋白(parathyroid hormone-related protein:PTHrP)及びG-CSF(granulocyte-colony stimulating factor)の上昇あり.画像検査にて,胃体部癌及び転移性肝腫瘍を認めるも,転移性骨腫瘍は認められなかった.悪性体液性高Ca血症(humoral hypercalcemia of malignancy:HHM)を伴う進行胃癌と診断し,電解質補正及び全身化学療法を行うも奏効せず,第46病日に死亡した.病理解剖組織の免疫染色により,PTHrP/G-CSF産生胃癌と診断した.
IgG4(immunoglobulin G4)関連疾患は,血清IgG4高値に加え,著明なIgG4陽性形質細胞浸潤により,種々の臓器腫大と線維化を来たす全身性疾患であり,我が国でその疾患概念が確立された.2011年には診断基準が策定され,2014年には我が国の指定難病に指定されている.IgG4関連疾患の病態には,自己免疫や自然免疫の関与が考えられているが,現在のところ,明らかになっていない.最近,我々は,臨床症状と関連する自己抗体の存在を明らかにした.診断にはIgG4関連疾患包括診断基準が用いられるが,確定診断が得られない場合でも,臓器毎の診断基準により診断が可能である.最も重要なことは,悪性疾患や他の類似疾患を除外することである.IgG4関連疾患はステロイドが奏効するため,有症状例にはステロイド治療が標準治療法となっている.一方,海外では,B細胞特異的治療薬であるリツキシマブが使用されるようになってきた.
クローン性造血は,同一のゲノム異常を有する造血細胞集団からなる.ゲノム解析技術の革新的進歩によって,微小なクローン性造血が検出可能となり,非腫瘍性の血液疾患において,クローン性造血が証明できるようになった.続いて,造血器疾患を有さない健常者においてもクローン性造血が検出され,造血器疾患におけるクローン性造血との異同と連続性が議論されている.さらには,治療関連骨髄系腫瘍と関連する,先行原疾患初発時のクローン性造血に関しても,最新の知見が得られた.クローン性造血は,その拡大が血液腫瘍の発症と関わることは自明であるが,明らかな血液疾患を有さない場合にも微小なクローン性造血が認められ,非腫瘍性疾患にも認められることは,その鑑別診断が必須であることを意味する.最新の知見として,高頻度に健常者に認められるクローン性造血に伴う変異は,腫瘍化への関与がより少なく,非腫瘍性疾患にも頻繁に認められる点を含めて解説する.
心アミロイドーシスは,免疫グロブリン軽鎖に由来するALアミロイドーシスとトランスサイレチン(transthyretin:TTR)によるアミロイドーシスが主である.TTRによるアミロイドーシスは,遺伝子変異が原因の遺伝性TTRアミロイドーシスと遺伝子変異を認めない野生型TTRアミロイドーシスに分けられる.心アミロイドーシスは,従来,稀な疾患と考えられてきたが,特にTTRによるアミロイドーシスに対する検査法の進歩により,野生型TTR心アミロイドーシスは,心不全や大動脈弁狭窄症の患者に稀ならず存在することが明らかになった.さらに,TTRによるアミロイドーシスに対するTTR四量体安定化薬や核酸医薬等の疾患修飾療法の急速な進歩もあり,今まさに心アミロイドーシスの診療にパラダイムシフトが生じている.