体表面電位図は,心電図・ベクトル心電図に比して,体表面上に多数の誘導点を有するので,心臓の興奮伝播過程を推定するのに非常に有用である.従来からの等電位線図による興奮伝播過程に関する研究は数多く報告されているが,等時線図による検討は殆どなされていない.今回,体表面電位図から,各誘導点の心室興奮到達時間(VAT)を求め,これに基づくVAT等時線図(VAT isochrone map)を作成して,心室興奮伝播過程を体表面から推定する方法の有用性の検討を行なつた.対象は,健常成人50人,心室性期外収縮を有する患者150人,心室ペーシングを行なつている患者25人であつた. 87誘導点から同時記録された単極誘導心電図に基づく等電位線図を作成し,これのコンピューター処理によりVAT mapを得た.正常のVAT mapは,等時線配列のパターンから3型に分類され,その頻度はA型56%, B型16%, C型28%であつた.心室ペースメーカーのVAT mapでは,電気刺激部位から進展する心室興奮伝播過程がよく表現され,等電位線図所見ともよく一致した.先に我々が13個所(右室4,左室5,中隔4)に発生源を推定した心室性期外収縮のVAT mapでは,等時線の開始部位により,期外収縮の発生源が明らかに示され,またその粗密により,特殊伝導系による伝播,あるいは筋伝導による伝播等が推定された. VAT mapによる心室興奮伝播過程の推定は,等電位線図によるそれと,よく一致したが,前者は,一枚の図でより直接的に表現でき,極めて有用と考えられた.
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