著明なホルモン産生の変動を示した,胸腺原発カルチノイドによる異所性ACTH症候群の1例を経験した.症例は, 27才の男子で,主訴は,色素沈着,〓瘡,多尿,浮腫で,一般検査で,低カリウム血症,耐糖能の異常,代謝性アルカローシスなどが認められ,内分泌機能検査では,血漿ACTH, β-MSH,コーチゾールおよび尿中17-OHCS, 17-KSの増加が認められた.気縦隔造影,胸腺静脈造影などにより,胸腺腫の存在が確認され,胸腺摘出術が施行された.腫瘍組織から, ACTH活性が証明され,異所性ACTH症候群であることが確認された.本症例の興味深い点は,第1に,ホルモン産生の著明な変動がみられたことと,第2に,組織学的にカルチノイドであつたことである.入院当初,異常高値であつた,血漿ACTH,尿中17-OHCSなどは一過性にほぼ正常化し,それとともに,色素沈着,〓瘡,多尿,浮腫などの臨床症状および低カリウム血症は,一時的な改善を示した.腫瘍による著明なホルモン産生の変動やperiodic hormonogenesisは,極めて希で, O'Neal, Baileyなど数例の報告があるのみである.胸腺原発カルチノイドは,わが国では3例の報告があるのみで,内分泌症状を示した最初の報告であると思われる.
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