症例は57才の女で,頭痛,悪心,嘔吐,下肢の痙を主訴に入院した.理学的所見に異常なく,検査成績では血清ナトリウム118mEq/
l,血清カリウム4.1mEq/
l,血漿浸透圧238mOsmo1/kgに対して尿浸透圧は801mOsmol/kgと高張を保つていた.血漿ADHは20Pg/ml以上で,水負荷試験でも全く抑制を受けなかつた.腎,副腎機能は正常.さらにこれらの臨床所見は厳格な水制限1日1000m1以下により著明な改善を認め, SIADHの存在が示唆された.また,入院後次第に低カリウム血症,代謝性アルカローシスー血清K2.6mEq/
l, pH7.504, HCO
3-30.6mEq/
l-の出現を認めた.これに呼応して,尿中17-OHCS,血漿ACTH,血清コルチゾールはそれぞれ47.7mg/日, 480Pg/ml, 70.3μg/dlと高値で,最大32mgに及ぶdexamethasone投与抑制試験でも全く抑制されず,副腎皮質機能亢進症が明らかとなつた.左鎖骨上窩リンパ節生検により肺由来の燕麦細胞癌と診断され,さらに同リンパ節に高濃度のADH,ニューロヒジンおよびACTHの存在を確認した.このように本症例は,臨床的に明らかなSIADHおよび副腎皮質機能亢進を伴い, ADHおよびACTHの同時産生を認めた希有な肺癌の症例である.さらに本例では血中ニューロヒジンが高値を示し,本ベプチド測定が異所性ADH産生症の診断に有用なことが示唆された.
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