閉塞性睡眠時無呼吸は,睡眠障害国際分類における睡眠関連呼吸障害の1つであり,最も主要なものである.睡眠中における上気道の閉塞,狭窄がその病態であるが,解剖学的因子,上気道開大筋の反応性,呼吸の不安定性ならびに覚醒しやすさの4つの病態的特性の組み合わせにより生じている.現在,持続陽圧呼吸療法は第一選択であるが,各患者の病態的特性を評価,介入することで,個別化医療への可能性が示されるようになっている.
日常臨床で遭遇する睡眠時無呼吸症候群患者の大多数は閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)である. 本邦では,中等症以上の成人OSA有病者数(各国の人口から換算)が900万人も存在すると推測する報告が2019年発表されたが,治療の恩恵を受けているOSA患者数は50万人にも達していない.肥満や日中傾眠がなければ,他疾患発症の背景にOSAの存在があることを疑わないのではないかと思うが,本邦のOSA患者の4割は肥満ではなく,約半数は日中傾眠を感じていないのである.肥満・日中傾眠の有無にかかわらず,検査を行うべきである.OSAの基本症状は“いびき”である.「“いびき”をかくと言われませんか?無呼吸の検査をしてみませんか?」と問うことからOSA診療が始まる.
近年,睡眠時無呼吸症候群(sleep apnea syndrome:SAS)患者の増加により,SAS診断プロセスにおける睡眠検査の必要性が高くなってきている.本邦では,自宅で施行できる検査施設外睡眠検査(out of center sleep testing:OCST)をスクリーニングとして活用する機会が増えてきているが,OCSTの結果とSAS診断のゴールドスタンダードである睡眠ポリグラフ検査と結果が乖離することがある.そのため,自覚症状や合併症など患者背景も考慮し,OCSTの結果を総合的に評価することが重要である.
閉塞性睡眠時無呼吸は,脳心血管系疾患のリスクが高く,持続陽圧呼吸療法が標準的な治療法である.各種報告による治療効果を認めるためには,治療の継続と良好なアドヒアランスが重要であるが,治療継続率は5~8割程度,アドヒアランス良好な患者は4割程度と低い状態であり,40年以上の経過で進歩した機器の適切な使用と,アドヒアランス悪化に関連する各種問題への対応が必要である.
中等症以上(AHI(apnea-hypopnea index)≧15)の閉塞性睡眠時無呼吸(obstructive sleep apnea:OSA)に対する世界的標準治療は,持続陽圧呼吸(continuous positive airway pressure:CPAP)療法である.日常診療では,日本の保険診療基準である脳波を含む終夜睡眠ポリグラフ検査においてもAHI<20のためにCPAP療法の適応がない患者や,CPAP療法への十分な忍容性(acceptance)や継続性(adherence)が得られない患者が相当数存在する.このような患者では,多くの場合,CPAP療法以外の治療手段を選択せざるを得ない.本稿では,CPAP療法以外の治療手段として,口腔内装置,口蓋垂軟口蓋咽頭形成術,顎矯正手術(orthognathic surgery),肥満に合併したOSAに対する肥満手術ならびに植込み型舌下神経刺激療法(upper-airway stimulation system)に関して概説する.
睡眠時無呼吸症候群は,高血圧,虚血性心疾患ならびに心不全のリスクとなるだけでなく,これらの循環器疾患に高頻度に合併し,予後悪化と関連する.治療として陽圧呼吸療法が主体となるが,近年,陽圧呼吸療法による睡眠時無呼吸症候群治療に関する心血管イベントの抑制効果を検証した大規模臨床研究の結果が複数発表され,さまざまな議論を呼んでいる.本稿では,これらについて解説すると共に,我が国の日常診療における対応について述べる.
睡眠時無呼吸症候群による眠気が交通事故の原因になることは痛ましいニュースから知った人も少なくないであろう.本稿では,実際の交通事故事例と疫学調査を振り返り,交通事故につながる眠気,睡眠の問題について再考する.運輸業界におけるスクリーニングや運転適性の判定に関わる方々に知っておいてほしい法律知識についても概説する.
現状の在宅持続陽圧呼吸療法の社会保険適用には,CPAP(continuous positive airway pressure)療法とASV(adaptive servo ventilation)療法がある.在宅患者持続陽圧呼吸療法中CPAPについてのみ遠隔モニタリング加算が2018年より認められたが,施設基準,オンライン診療との関連において混乱もみられ,さまざまな疑義解釈もなされた.そして,2020年診療報酬改定に向けた中医協(中央社会保険医療協議会)の審議のなかで「情報通信機器を用いて行う遠隔モニタリングについて,有効性・安全性に係るエビデンス等を踏まえ,実施方法に係る要件を見直す」との決定がなされた.また,睡眠呼吸障害を含む睡眠障害は60種類を超え,病診連携が重要な領域である.
65歳,男性.13年前に肥厚性硬膜炎と慢性中耳炎を発症し,プレドニゾロン単剤で治療された.2年後,半月体形成性糸球体腎炎を発症し,多発血管炎性肉芽腫症と診断された.シクロホスファミドを併用した寛解導入療法が行われた.しかし,寛解維持療法は難渋し,肥厚性硬膜炎が再発した.これに対して,リツキシマブによる寛解導入療法と維持療法を行ったところ,長期間寛解を維持することができた.
症例は44歳の男性で,左上下肢の不随意運動を突然発症した.血糖280 mg/dl,HbA1c 15.7%と高値で,未治療の高血圧を認めた.MRI(magnetic resonance imaging)で右線条体にT1強調画像で高信号域と多発性の脳虚血病変・微小出血を認め,DAT–SPECT(dopamine transporter imaging with single photon emission computed tomography)で右線条体の集積低下を認めた.比較的若年で糖尿病性舞踏病(diabetic chorea)を発症した要因として,高血圧及び脳血管障害があると推察された.
非遺伝性小脳性運動失調症に対し用いられる皮質性小脳萎縮症(cortical cerebellar atrophy:CCA)という名称は,本来は神経病理学的診断名である.近年,ヨーロッパや本邦から,臨床的な新たな疾患概念とその診断基準が提唱された.しかし,これらの症例の病態は均一ではなく,多様な疾患が混在する可能性がある.具体的には,多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)早期例(小脳系のみの変性を示す臨床亜型),稀な遺伝性疾患,そして,自己免疫性疾患が考えられる.我々は,自己免疫性小脳性運動失調症に着目し,本邦の非遺伝性小脳性運動失調症患者の血清中に存在する,抗代謝型グルタミン酸受容体1型(metabotropic glutamate receptor type 1:mGluR1)抗体をはじめとする抗小脳抗体を検出し,新たな診断法の確立に取り組んでいる.新臨床診断基準の導入,抗小脳抗体の検出と対応抗原の同定は,非遺伝性小脳性運動失調症に対する治療アプローチにパラダイムシフトをもたらす可能性がある.
炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)の病態解明に基づく新薬開発により,IBD治療の進歩は著しい.特に抗TNF(tumor necrosis factor)-α抗体の出現は,IBD患者治療体系のパラダイムシフトをもたらした.それと共に,治療目標は,臨床症状の改善から内視鏡的粘膜治癒へと変化した.生物学的製剤のみならず,低分子化合物による治療も行われている.しかしながら,IBDと診断された全ての患者がこれら新規薬剤を必ずしも必要としない.臨床医は,IBD治療の基本が従来の治療法を最大限に活用することであることを今一度認識すべきである.