1959年より1963年の5年間に,東邦大学阿部内科で観察した内頚および椎骨腦底動脈循環不全症45例につき,臨床症状の特徴を統計的に観察するとともに,その発生頻度を検討した.また,本症と本態性高血圧症,低血圧症,正常血圧者および若年性起立性低血圧の患者群について比較し,本症の発生機序について検討を加えた.その結果,本症の大多数は既往に高血圧を有し,発作時に血圧低下示したが,約70%は起立性低血圧を伴なつた高血圧症であつた. Mecholyl試験では交感神経緊張低下を示す点で他群と異なつており,体位変換によつて血中norepinephrineが増加せず,安静時の血中norepinephrineは本態性高血圧症と同じく高値を示した.また, norepinephrineの分泌異常と頚動脈洞反射異常による血圧下降とが平行することを実験的に確かめた.したがつて,頚動脈洞の反射異常も,本症の発生に関係深いものと考えられる.以上,本症では血圧下降と全身血圧の調節に関与している自律神経中樞,頚動脈洞, catecholamine分泌異常のあることを明らかにした.さらに,頭蓋内末梢血圧の指標として,眼底血圧を安静時および体位変換時に測定した結果,本症は高血圧症よりも眼底血圧が高く,体位変換による変動が著しいことを確かめ,本症では全身血圧の調節異常と同時に,頭蓋内末梢血圧の調節異常のあることを明らかにした.
抄録全体を表示