腰痛疾患にはさまざまな疾患が含まれる.診断にあたっては,重篤な脊椎疾患の合併が疑われる,神経症状(下肢痛)を伴う,非特異的な腰痛(特に画像診断しても異常のないもの)の3つに大別される.重篤な脊椎疾患として腫瘍,炎症,骨折があり,神経症状を伴うものとして腰椎椎間板ヘルニア,腰部脊柱管狭窄症,非特異的な腰痛として筋性,姿勢性等が挙げられる.本稿では,それらの診断方法,治療法に関して述べる.
肩の疼痛は外来ではありふれている.本稿では肩の診察方法と特に頻度の高い,腱板炎,腱板断裂,滑液包炎,上腕二頭筋長頭腱炎,石灰化性腱炎を説明し,骨折,脱臼は含めない.肩の診断にエコーは極めて有用でリウマチ性多発筋痛症の分類クライテリアにも肩エコーが不可欠になりつつある.
急性腹症は救急外来で遭遇する頻度の高い主訴の一つである.性別や年齢によって鑑別疾患が異なる中,女性の場合は婦人科疾患を常に念頭に置いておかなければならない.本稿では急性腹症として来院しうる婦人科疾患の中で,特に緊急性が高い異所性妊娠・卵巣腫瘍茎捻転・卵巣出血に関して内科医が知っておきたい基本的知識と対応についてまとめた.
うつ病患者の多くはまず内科を受診するが,見逃しも多い.うつ病の診断は内科医にとっても必須である.うつ病の診断・治療のポイントを紹介し,精神科医への紹介の要点についても述べた.代表的な不安障害であるパニック障害は,しばしば過換気症候群と診断されるが,パニック障害の長期経過を考慮しない場当たり的対応につながるため注意すべきである.不眠症の診断は意外に難しく,うつ病を見逃さないことが肝要である.今後は出口を見据えた不眠症治療が求められる.
頻尿は,異常な排尿回数の増加により生活の質を低下させる症状である.しかしながらその原因はさまざまで,病態ごとに適切な対応が求められる.本稿では,一般医家の先生方に知っていただきたい頻尿の病態,評価方法,治療法等について,過活動膀胱や前立腺肥大症等のcommon diseaseを中心に説明する.
帯状疱疹は,病変部の瘢痕と神経痛・神経障害が問題となる.足白癬は,刺激性接触皮膚炎,二次感染,過剰な浸軟,爪白癬の合併等を見極めたい.アトピー性皮膚炎については新薬の登場でコントロールが劇的に改善している.顔面の湿疹・搔痒は安易にステロイド外用剤を処方せず刺激を避けさせる説明が大切である.手湿疹に似る疾患としては,疥癬と手白癬がある.
めまいは発症様式から,急性,発作性,慢性の3つに分類される.前庭神経炎は聴覚症状を伴わない急性めまいで発症する.突発性難聴は急性めまいを伴う場合がある.メニエール病では難聴や耳鳴を伴うめまい発作を繰り返す.良性発作性頭位めまい症は頭部運動によりめまいが誘発される.持続性知覚性姿勢誘発めまいは慢性めまいの中で最多で,立位や歩行,体動,視覚刺激で悪化する.心因性めまいの原因となる精神疾患の中では不安症が最多である.
目が赤くなる疾患では,まず結膜の出血か充血かを確実に判別し,結膜下出血であれば専門医の受診は必要なく,経過観察でよい.充血を引き起こす結膜炎は,細菌性かウイルス性かアレルギー性かによって治療が異なる.特に,アデノウイルス結膜炎は,感染力が強く,接触感染を起こすため,注意が必要である.充血に疼痛を伴う場合は,結膜炎以外の原因で目が赤くなっている可能性が高く,初期治療から眼科専門医に委ねた方が良い.
ワルファリン内服中の70歳台,男性.凝固障害を伴う急性腎障害(acute kidney injury:AKI)で入院となり,血液透析が開始された.血液培養からListeria monocytogenesが同定され,腎生検では感染関連腎炎と抗凝固薬関連腎症(anticoagulant-related nephropathy:ARN)の合併が示唆された.ワルファリン中止と抗菌薬治療で腎機能は徐々に改善し,第60病日に透析を離脱した.抗凝固療法中のAKIではARNを鑑別に挙げる必要がある.
ネフローゼ症候群の再発でシクロスポリンと低用量プレドニゾロンを内服中の90歳,女性.新型コロナウイルス感染症(coronavirus disease 2019:COVID-19)に罹患して入院し,中等症IIとして酸素投与とファビピラビル,ヒドロキシクロロキンの内服,ヘパリンの投与を開始した.糖尿病と慢性腎臓病も合併し重症化リスクが極めて高かったが,経過良好であった.低用量ステロイドとシクロスポリンがサイトカインやウイルスの複製を抑制することで重症化回避に寄与した可能性が示唆された.
86歳,男性.非機能性副腎腫瘍として長年フォローされてきた高齢患者での無症候性褐色細胞腫(pheochromocytoma)の1例.造影CT(computed tomography)や副腎腫瘍を直接圧迫しない手術では発作誘発されなかったが,腎盂癌の手術中後腹膜腔拡張剝離バルーンでの直接圧迫により褐色細胞腫の昇圧発作が誘発された.術前に圧迫することが想定されることの有無にかかわらず,また年齢や病歴を問わず,術前に再評価することの重要性が示唆された1症例である.
80歳,女性.Basedow病の診断で抗甲状腺薬が投与されていたが,食欲不振とTSH(thyroid stimulating hormone)上昇のため当院受診.不適切TSH分泌症候群(syndrome of inappropriate secretion of TSH:SITSH)とびまん性甲状腺腫を認めた.TRβ遺伝子解析の結果,甲状腺ホルモン不応症(resistance to thyroid hormone:RTH)と診断した.RTHは甲状腺ホルモンが高値となるためBasedow病と誤診されやすく,抗甲状腺薬投与により甲状腺機能低下症や甲状腺腫が増悪する.診断治療の際は本疾患を念頭に置く必要がある.
真菌は人間の生活環境中に普遍的に存在し,耐熱性のAspergillus属等は,宿主の状態に応じてアレルギーから感染症まで幅広い呼吸器疾患の原因となる.真菌を原因とするアレルギー性呼吸器疾患は,好中球性炎症やステロイド抵抗性の要素を有し,重症難治化しやすい.真菌感作重症喘息やアレルギー性気管支肺真菌症等が代表疾患であり,治療の中心はステロイドホルモンであるが,なかには抗真菌薬が有効な症例も存在する.これらのアレルギー性呼吸器疾患に対して,原因真菌の十分な検索を行わずに漫然と抗真菌薬を投与し続けることは抗真菌薬耐性の誘導にもつながるため慎むべきである.近年,好酸球性重症喘息に使用される抗体製剤は真菌を原因とするアレルギー性呼吸器疾患に対しても高い効果が期待される.今後は,抗真菌薬や抗体製剤をどのような症例に選択するかを判断するための臨床指標が求められる.薬物治療に加えて,環境整備による真菌曝露量の減少も重要な治療戦略となる.
好酸球性消化管疾患(eosinophilic gastrointestinal disorders:EGIDs)は消化器症状を認め,消化管に好酸球浸潤を来たす慢性アレルギー疾患で,好酸球性食道炎(eosinophilic esophagitis:EoE)と好酸球性胃腸炎(eosinophilic gastroenteritis:EGE)に大別される.EoEの病態は詳細に解明されつつあり,Th2免疫応答を主体として,さまざまなサイトカインや好酸球から放出される物質による炎症期とTGF(transforming growth factor)-β1やperiostin等が関与する線維化期に分けられる.EoEの治療はプロトンポンプ阻害薬や局所ステロイド療法が用いられる.EGEは重症例や難治例が多く,全身ステロイド治療を要する症例が多い.EGIDsに対する食物除去の有効性は報告されているが,成人での実施は困難なことが多い.欧米において病態からさまざまな生物学的製剤が開発されつつある.食道以外の臓器別の浸潤好酸球数の定義,本邦において保険適用薬剤がないこと,アレルゲン同定が困難なこと等が課題である.EGIDsの現況について総説した.