49才,男。頭痛,複視,右不全麻痺を主訴として入院.皮膚にcafé au lait色素沈着と小結節を認めた.入院中発作性の血圧上昇(280~170/160~110mmHg),頻脈(120~110/mIn),発汗などを伴つた,いわゆるadrenal sympathetic crisisを観察した.尿中catechol amineおよびvanillvl mandelic acid (VMA)の著増(adrenaline最高1,220μg/day, noradrenaline最高5,000μg/day, dopamine最高3,140μg/day, VMA 24mg/day). regitine試験陽性,マッサージ試験右陽性.脳血管写で,左中大脳動脈の閉塞所見を認めた.発作後うつ血乳頭が出現し,やせも著明となり,一般状態も悪化した.われわれは,本症例を神経線維腫症,脳腫瘍,褐色細胞腫と診断し,根治手術の適応はないと判断し, propranolol, phentolamine (Regitine), reserpine, dexamethasoneなどによる対症的治療で経過を観察していたが,肺炎を直接死因として,入院6カ月後に死亡した.剖検により,皮膚と胃に神経線維腫を,左大脳基底核部,左側頭葉,脳幹第4脳室周囲に星細胞腫(grade I)の浸潤,右副腎に褐色細胞腫をそれぞれ確認した.肺には,左肺下葉膿瘍形成を伴う高度の両肺気管支肺炎を認めた.神経線維腫症,脳腫瘍,褐色細胞腫の3者合併例はまれで,本邦では,本例を含めて,報告例は2例に過ぎない.生前,本例に使用した薬物のうち,とくにdexamethasone l6mgの大量投与と本症例が示した臨床症状および尿中catecholamineの著増との間に,密接な因果関係が認められたので,その発現機序について,二,三の考察を加えた.
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