高齢者の在宅医療は,導入期,安定期,急性期,回復期,終末期の5つに分類され,各期に求められる医療は異なる.要介護高齢者の特性に鑑み,かかりつけ医として幅広い診療を提供する.高齢者総合的機能評価により概ねの予後を予測し,今後の急性疾患の発症や機能低下あるいは機能の回復を予測し,事前に対応を協議する.多職種と連携し,その人らしい生活や人生を可能な限り最期まで継続できるよう支援する.
認知症診療はcommon diseaseであるが,現状の認知症診療は抗認知症薬処方にかたよっている.認知症の見立てとしては,まず認知機能障害と生活障害に注目して認知症の状態を評価する.次に,せん妄をはじめとした改善可能な認知機能障害を評価した上で,病型について検討する.適切な病型の診断なく抗認知症薬の処方を行うことはあり得ない.BPSDへの対応としては,チャレンジング行動という視点を持つ.認知症とは暮らしの障害であり,在宅医療では認知症診療を行うための情報が集めやすい.
精神疾患を有する患者さんの診療を行う際には,患者さんに特有の心理を理解し,生じうる疾患を鑑別しながら症状に対応する.対応すべき症状として,せん妄と不眠は重要で,いずれも生活習慣への介入も有用である.また,薬物療法を行う際には必要十分かつ最小限の処方が重要である.多職種と連携して患者さんの生活の場へ訪問し,そこで生じる心理を理解しながら助言や薬剤調整を行えることは,在宅診療の強みであると考えられる.
在宅医療に関わる専門職への教育面の課題が指摘されている.在宅医療の質向上のためには,各地の教育施設が地域と協力し,在宅医療に従事する医師を育成することが期待される.本稿では,総合診療と老年医学の視点から,在宅医療に関する医師の生涯教育,フレイルとサルコペニア治療としての栄養管理,転倒や虐待への介入など,在宅医療に関連する諸問題の見方・対応策のポイントをまとめてみたい.
在宅診療では褥瘡や糖尿病性足潰瘍などの難治性創傷が問題となる.創傷を難治化させる原因として疾病,加齢,栄養不良などの全身的な問題と局所的要因がある.局所的要因のポイントをシンボル化して銘記しやすくするためTIMEコンセプトが提唱されている.また最近,局所管理の方法論としてwound hygiene(創傷衛生)という指針が提案された.これらは日々の難治性創傷のケアに有用な概念・指針である.
口腔の健康は,全身の健康と関連があり,在宅医療においても一層の医科歯科連携が求められている.アップデートされている肺炎予防,治療のための口腔ケア,不要な禁食を防ぐための在宅における摂食嚥下リハビリテーションに加えて,オンライン診療,マウスピース型人工喉頭,ICTによる卒後研修プログラム,フレンチシェフと3Dフードプリンターなど我々が取り組む最新トピックも紹介する.
薬剤師による在宅訪問に調剤報酬がついたのは1994年.現在薬剤師は在宅医療を支える専門職として約半数の薬局が在宅訪問に携わっている状況にあるが,他の専門職にも一般市民にもその業務に関してあまり知られていない.薬剤師が在宅医療へ介入することにより,薬剤の安定供給はもちろん,服薬アドヒアランスの改善や薬剤の効果,副作用のチェック等により,住み慣れた環境での療養生活により安心をもたらすことができる.薬剤師を訪問診療にご活用いただきたい.
85歳男性.緩徐進行1型糖尿病による数カ月にわたる血糖コントロール悪化の経過中に突如右上肢に不随意運動が出現し,CT所見とあわせて当初出血性脳梗塞が疑われたが,最終的に特徴的なMRI画像所見より糖尿病性舞踏病と診断した.不随意運動は一旦自然改善したが,血糖コントロール是正後に再燃した.高齢糖尿病患者の血糖コントロール悪化時に突然発症する不随意運動では糖尿病性舞踏病を念頭に置く必要がある.
42歳,男性.19歳時に原因不明の低カリウム血症と脱力発作を発症,後に低カリウム性周期性四肢麻痺と診断された.今回,下肢脱力のため救急搬送された際,血清カリウム1.8 mEq/lであった.点滴補正中に心室細動を繰り返し,大量のカリウム投与を要した.洞調律に復帰した後は一転して高カリウム血症となり,利尿薬で対応した.低カリウム性周期性四肢麻痺の発作時は高用量のカリウムを要する一方,補正後は高カリウム血症となる可能性があり,慎重なモニタリングが必要である.
80歳,男性,肺扁平上皮癌に対して化学放射線療法を行った後,デュルバルマブでの維持療法を導入したが,放射線肺臓炎が出現したため中止した.経過観察中に直接ビリルビンの著増を認めた.腫瘍性病変,結石,ウィルス感染,自己免疫疾患は否定的であった.肝生検では小葉間胆管の萎縮や消失を認め,胆管消失症候群と診断した.免疫チェックポイント阻害剤を使用した患者に肝機能障害を認めた場合は本病態に留意すべきである.
48歳,男性.多発性骨髄腫の経過中に重篤なネフローゼ症候群を併発し,腎生検でAHL(immunoglobulin heavy-and-light-chain)アミロイドーシスと診断した.自己末梢血幹細胞移植併用大量化学療法を施行し,骨髄腫は最良部分奏効が得られ,ネフローゼは緩徐に改善した.敗血症併発後血液透析導入となったが,1年半経過後も生存している.AHLアミロイドーシスは極めて稀な疾患であり,治療のエビデンスに乏しいが,ALアミロイドーシスと同様の治療が有効な可能性がある.
リンパ節転移,遠隔転移のない10 mm以下の甲状腺乳頭癌を低リスク微小乳頭癌と呼び,頸部の超音波などの検査の機会の増加からこの微小癌の発見が増加している.さらに検査機会の増加は,その他の甲状腺結節の発見も増加させ,それらに対する細胞診の適応基準が世界的に公表されている.微小癌の過剰診断の解決の方法として,診断時に手術を行わず経過観察する積極的経過観察という新しい取扱い方法が提唱された.その成績から低リスク微小乳頭癌は,大部分の症例はほとんど進行せず,たとえ進行しても手術をすれば,経過観察せず即手術を行った場合と比べ予後が変わらないことから,積極的経過観察は手術が必要な症例を見極める手段とも考えられた.甲状腺微小癌の積極的経過観察という取扱い方法は,現時点では,適切な診療体制の下で行えば,安全で妥当な管理方針であるが,癌を経過観察するということであり,いくつかの留意すべき点がある.
脊椎関節炎は体軸関節炎を伴い,HLA-B27との関連が示されている疾患の総称である.脊椎関節炎患者は体軸性と末梢性に大別され,どの疾患でも一定割合の患者は体軸性に分類されるが,その割合は疾患により異なる.体軸性脊椎関節炎は仙腸関節のX線所見によって強直性脊椎炎と新しい疾患概念である「X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎」に区分され,後者に関しては我が国で診断ガイダンスが策定・公表されている.脊椎関節炎は分子標的薬の有効性が比較的良好な疾患群であり,従って適切な診断が何よりも大切である.