内科外来においてうつ病など高頻度に見られる病態と,統合失調症,ADHD,摂食障害など治療方針の違いから見逃せない疾患を中心に,潜在的な精神疾患の徴候・メンタルヘルスの問題に気づくための留意点について概説する.
「この患者は器質疾患なのか,それとも精神疾患なのか」と言う臨床上の問いは,多くの内科医が頭を悩ませるところである.器質疾患であるのに精神疾患であると判断してしまう診断エラーを回避するためには,精神疾患と器質疾患を適切に鑑別できる診断戦略が必要になる.本稿では,精神疾患のような症状であるにも関わらず器質疾患が原因となる疾患,精神疾患と器質疾患の見分け方のポイントについて解説を行う.
検査で異常がない症状は日常診療でよく遭遇するものの,その対応は従来の「診断して治療する」というモデルではうまくいかない.そこでは,患者の訴えを認め,適切な傾聴と問いかけによって患者とともに病の意味を見出し,患者が日常生活を継続するための創造的能力を支援する,解釈的医療が求められる.むやみな検査や紹介は患者の不安を増長し,患者が症状と向き合っていく障害となる可能性があるため,注意が必要である.
「対応困難な患者」について考える際には,医師側の要因,患者側の要因,環境・状況要因に分けて整理するとわかりやすい.臨床現場においてはこれらが絡み合うことで対応困難な状況が生じる.患者側の要因に目が向きがちであるが,医師側の要因とくに医師が患者に向ける陰性感情には留意が必要である.この状況にうまく対処するには,診察場面を客観視すべく俯瞰する意識を持つこと,自身の体調を整えておくことを心掛けたい.
うつ病と不安症は内科を受診することが多く,内科医が向精神薬を使用する場面もある.いずれの精神障害においても向精神薬の第一選択は抗うつ薬であり,その使い方と止め方を知ることが欠かせない.多くの抗うつ薬があるが,すべてを知る必要はなく,限られたものを熟知しておくべきである.さらに,抗うつ薬には効かせ方があり,それは当たり前のことではあるのだが,臨床現場での効果を引き出すために覚えておきたい知識である.
内科外来では,不眠症,不安障害,うつ状態・うつ病,適応障害といった働く世代のメンタル不調に主治医として関わることも少なくない.これらは休職につながることもあり,職場の産業医との連携について知っておくことは,患者の病だけでなく,生活全体を視野に入れて診療するためにも必要なことと言える.今回は,主治医としてどのように産業医と連携することが求められるのかについて,双方の視点を持つ筆者が解説する.
内科医は精神障害患者と接する機会が多く,メンタルヘルスケアのため精神科医との連携は不可欠である.直接的な交流や情報交換が難しくても精神科臨床と精神障害の特徴を把握して,患者紹介,情報提供,併診を心がけると良い連携につながる.内科の中で精神障害を扱うことも多い心療内科の立場から内科医と精神科医との連携について述べたい.
ナラティヴ(物語の共同著作)とは,患者と専門家の間で物語が循環され共同著作されることで,病いの経験に新たな意味や解釈が付与される場,空間,機会,プロセス,相互関係である.ナラティヴを臨床実践に導入することで,患者に向き合う専門家の姿勢が変わり,その結果,既存の専門分野では到底思いもつかないような,教科書やガイドラインや法律には決して載っていない,患者の幸福(最大限の倫理)を実現する選択肢が見えてくる.
74歳,男性.幼少期より体調不良時に黄疸を認め,息子も同様の家族歴があった.肺炎球菌性肺炎として入院・加療し感染症は改善した.精査の上,入院時に認めた黄疸の原因は溶血発作であり遺伝性球状赤血球症と診断した.併存した肝硬変については,除外診断により反復する溶血発作による二次性ヘモクロマトーシスが原因と考えた.的確な病歴聴取が遺伝性球状赤血球症の診断に重要である.
30歳,男性.溶血性貧血,血小板減少,直接Coombs試験陽性から当初Evans症候群と診断したがステロイドが奏効せず,発熱,動揺性精神神経症状,破砕赤血球の存在から血栓性血小板減少性紫斑病(thrombotic thrombocytopenic purpura:TTP)と臨床診断した.血漿交換が奏効し,再燃後はリツキシマブが著効した.血栓性血小板減少性紫斑病では稀に直接Coombs試験陽性となり鑑別診断に難渋するが,致死的な疾患であり速やかな臨床診断と治療開始が求められる.
64歳,女性.小腸イレウスで入院した翌日に急激な経過で呼吸筋麻痺に伴う2型呼吸不全を発症した.眼症候(眼瞼下垂,外眼筋麻痺,内眼筋麻痺),四肢の弛緩性筋力低下,自律神経障害も認めたが,意識障害や感覚障害はなかった.食餌性ボツリヌス症と診断し,抗毒素療法を施行し,3カ月後に完全に回復した.ボツリヌス症は非常に稀な疾患だが,上記のような臨床所見から鑑別に挙げ,保健所と連携して迅速に対応すべきである.
「成人におけるワクチンで予防できる疾患」にはインフルエンザ,肺炎球菌感染症,ヒトパピローマウイルス感染症,百日咳などが挙げられる.これらは長期間の疾患,入院,死亡を引き起こしている.実際,インフルエンザによって多くの入院や死亡が報告されている.肺炎球菌によって高齢者が入院を必要としたり,死亡することがある.ヒトパピローマウイルスによって男女で癌が発生し,子宮頸がんでは多くの女性が死亡している.これらの疾患ではワクチンを接種することによって被接種者を守ることができる.成人が百日咳に罹患しても軽症である.しかし,百日咳の成人が乳児に濃厚接触することによって,乳児が感染して重症化することがある.そのため,乳児を守ることを目的として,妊婦,医療従事者,赤ちゃんが生まれる家族にワクチンを接種する.これらの疾患はワクチンによって予防できるため,啓発を強化して接種率を高めることが大切である.
血友病に対する治療は,定期補充療法の導入によってインヒビターのない患者のQOLの向上は著しいものとなり,近年日本血栓止血学会によりガイドラインが整備され,治療手段の均てん化が進んでいる.しかしながら,凝固因子製剤の半減期は短く頻回の静脈注射が必要であり,患者にとって苦痛を伴うものであった.また輸注凝固第VIII因子,第IX因子に対する同種抗体(インヒビター)の発生は血友病の止血管理において大きな障壁となっており,免疫寛容導入療法(ITI)によるインヒビター抗体の消失により止血管理が大きく改善する効果がある.こうした状況は近年いくつかのブレークスルーにより大きく変容しつつある.より持続的な治療効果を発揮する半減期延長型製剤が登場し,患者のQOLの大きな改善につながっている.またバイスペシフィック抗体という新しい治療コンセプトによる新規治療薬が血友病Aにおいて登場し,さらに血友病患者の抗凝固因子活性を様々な方法で抑制するre-balancing治療が今後続々と登場する予想である.またインヒビターのない血友病患者に対する商業的遺伝子治療薬が2022年欧州で初めて承認された.このように血友病治療の手段の新規開発は大きなブームを迎えており,本稿では,これら新規薬剤を中心に標準的な血友病治療法と今後のパースペクティブについて解説する.