甲状腺機能亢進症治療中に,薬物性肝障害を伴い発症したインスリン自己免疫症候群(以下IAS)の1例を報告する.患者は77才,女性.甲状腺機能亢進症をmethimazole (MMI)で治療中,投与1カ月後より血中にインスリン抗体を認め, 1.5カ月後に1週間にわたり低血糖発作が頻発した. PEG法による総インスリン(TIRI)は680μU/ml,
125I-インスリン結合率(%B)は81%を示した. MMI中止後TIRI, %Bは速やかに低下したが, propylthiouracil (PTU)投与1カ月後より再び上昇, 2.5カ月後に低血糖様症状を呈した後, PTU中止に伴い再度低下した.
131I治療後もその低下傾向は変らず,従来の報告と異なりPTUもMM1と同様にIAS発症に関与した可能性が考えられた.インスリン抗体はIgG-K型に属し,各病期を通じ同様であつた.一方本例では, IAS発症と同時に抗甲状腺薬による肝内胆汁うつ滞型肝障害が出現し,全経過を通じインスリン抗体と肝機能の間には極めて平行した関係が認められた.又,抗甲状腺,抗肝,抗グルカゴンなど各種自己抗体に関する検査はmicrosome testを除きすべて陰性であつた.本例では甲状腺機能亢進症, IAS,薬物性肝障害と,いずれも免疫異常が考えられる三疾患の合併が特徴であり,経過よりみて甲状腺機能亢進症を背景として,抗甲状腺薬の投与が,肝障害をひきおこすと同時にIAS発症のきつかけになつたと考えられた.このことより今回のIASと薬物性肝障害の間には,何らかの類似した発症機序が存在するのではないかと想像された.
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