多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は造血器腫瘍の10~15%を占め,日本の2011年における推定罹患率は10万人中5.4人である.どの国においても年齢調整罹患率は経年で変化していないが,人口の高齢化とともにその罹患者,死亡者数は増加傾向にある.多発性骨髄腫は根治不能であるが,自家末梢血幹細胞移植やプロテアソーム阻害薬,免疫調整薬などの治療薬開発によって,その予後は2000年以降急速に改善しつつある.
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,単クローン性免疫グロブリンの産生と,特徴的な臓器障害(CRAB(高カルシウム血症(calcium),腎不全(renal),貧血(anemia),骨病変(bone)の4症状))が特徴である.しかし,その臨床像は極めて多彩であり,診断基準に関しては,これまで様々な診断基準が提唱されてきた.現在は,簡潔であり,世界各国のmyeloma expertsによって構成されたInternational Myeloma Working Group(IMWG)による基準が幅広く用いられている.2014年に診断基準が改訂され,新たなバイオマーカーが骨髄腫診断事象に追加された.
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,骨吸収の亢進にもかかわらず,骨形成が抑制されることにより,著明な溶骨性病変を来たす疾患である.骨病変の診断には単純X線のほか,CTやMRI,PET検査が有用である.ボルテゾミブは骨髄腫細胞に対する効果とともに,骨芽細胞を活性化し,骨形成を促進させる.ビスホスホネート製剤やRANKL抗体は破骨細胞を抑制し,骨吸収を低下させる.骨病変の管理や支持療法により,QOL(quality of life)の改善や治療成績の向上が期待される.
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)は,その経過中に2人に1人は腎障害(renal impairment:RI)を合併し,腎障害は予後不良因子である.その腎障害はいくつかの障害機序に分かれ,多彩な腎病理像を呈し,骨髄腫のみならず,MGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)の段階でも起こり得る.近年,MGUS合併の腎障害の中でM蛋白が強く腎病態に関与する疾患を新たにMGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)と提唱し,M蛋白への早期介入が検討され始めており,臓器予後を見据えた視点での評価や血液内科以外からのアプローチも期待される.
多発性骨髄腫の関連疾患としては,ALアミロイドーシス,POEMS(polyneuropathy,organomegaly,endocrinopathy,M Protein,skin changes)症候群,単クローン性免疫グロブリン沈着症(monoclonal immunoglobulin deposition disease:MIDD)などがある.骨髄腫とは別の疾患であり,骨髄腫よりも緩徐進行性のクローンで,診断も支持療法も異なる.ALアミロイドーシスは,異常形質細胞より産生される単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の軽鎖(L鎖)に由来するアミロイド蛋白が沈着し,臓器障害を来たす疾患である.臨床症状は,心・腎・肝・消化管・神経障害など沈着部位により多岐にわたる.
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の治療成績は,新規薬剤の導入により深い奏効が得られるようになったことや,再発難治例にも有効な治療薬が登場したことにより改善している.若年者の初回標準治療は,新規薬剤を組み込んだ寛解導入療法に続く自家移植併用大量化学療法である.この10年の骨髄腫の治療成績向上は,高齢者の標準治療の進歩によるところが大きい.再発難治例に対する新規薬剤の開発が進む中,今後,さらに標準治療が変化していくものと思われる.
多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の治療成績は新規薬剤の登場により劇的に向上したが,65歳以下の重篤な臓器障害のない症候性骨髄腫患者では,現在も自家末梢血幹細胞移植が治療の中心である.移植適応患者では診断時より寛解導入療法,幹細胞採取,自家移植,地固め・維持療法による一連の治療計画を立てる必要がある.同種移植は治癒の可能性があるものの,治療関連死亡率が高いため,ハイリスク症例や難治例を対象とした研究的治療に位置づけられる.
最近の10年間で,多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)に対する治療薬が続々開発され,初発症例のみならず,再発症例の治療成績の向上がみられるようになった.骨髄腫の新薬としては,プロテアソーム阻害薬,免疫調節薬以外に,ヒストン脱アセチル化酵素(histone deacetylase:HDAC)阻害薬,抗体薬,種々の分子標的薬などの有用性が臨床試験によって示されている.日本においてもいくつかの薬剤が新たに承認され,また,今後承認される予定であり,骨髄腫患者の予後はさらに改善していくと思われる.
手指膿瘍に起因し,集学的治療に反応せず急速な転帰をたどった劇症型溶血性連鎖球菌感染症(Streptococcal toxic shock syndrome:STSS)の1剖検例を経験した.STSSは小児,妊婦にも発症し得るが,多くは併存症がなく,免疫不全のない健常者に認められる.集中治療の発達した今日においても死亡率が3割近い重篤な疾患であり,さらに近年急速な増加傾向を示している.発症すれば進行が早く,予後も不良であるために,早期の診断,早期の集学的治療が必要である.
症例は46歳,女性.Epstein-Barr virus(EBV)陽性の再発性diffuse large B-cell lymphoma(DLBCL)の寛解後に自家末梢血幹細胞移植を施行.13カ月後,黄疸と肝脾腫が出現した.末梢血EBV DNAが陽性で,肝生検で門脈域や類洞にCD8+,EBV-encoded small RNA(EBER)+細胞の浸潤を認め,全身性EBV陽性T細胞lymphoproliferative disorder(LPD)と診断したが,脳出血で死亡した.剖検ではT細胞LPDの多臓器浸潤に加え,肺に多形性B細胞LPDを認めた.これらのEBV関連LPDは自家移植後においても留意すべき病態である.
82歳,男性.I型呼吸不全を認め,当科入院となった.肝硬変,肝細胞癌の既往があることから,慢性肝疾患に伴う肺内シャントの存在を疑った.肺血流シンチグラフィー,100%酸素吸入法によるシャント率測定,コントラスト心エコーにより肺内シャントの存在が証明された.呼吸不全の原因を肝肺症候群と診断し,在宅酸素療法を導入した.慢性肝疾患患者における呼吸不全の原因として,肝肺症候群を念頭に置く必要がある.
iPS(induced pluripotent stem)細胞の発見以来,再生医療への応用が期待されている.難治性重症心不全は心臓移植以外に根本治療がなく,新たな治療法の開発が待たれている.iPS細胞を用いた心臓の再生医療はこの10年で大きく進歩した.ゲノムを損傷せずに効率的に安全なiPS細胞を作出する技術,血清などの動物成分を含有しない培地でiPS細胞を大量増殖させる技術,効率的に心筋細胞を作出する技術,心筋細胞を純化精製する技術,効率的に心筋細胞を移植する技術やデバイスの開発などは大きく発展し,臨床応用直前の段階まで来ている.今後はこれらをフルに活用し,どのような症例に対していかに安全かつ有効な治療法になり得るかを検証し,育て上げていくかが問われている.
腎臓リハビリテーション(腎臓リハ)は,腎疾患や透析医療に基づく身体的・精神的影響を軽減させ,症状を調整し,生命予後を改善し,心理社会的および職業的な状況を改善することを目的として,運動療法,食事療法と水分管理,薬物療法,教育,精神・心理的サポートなどを行う,長期にわたる包括的なプログラムである.腎臓リハの中核的役割を担う運動療法は,透析患者の運動耐容能改善,protein energy wasting(PEW)改善,蛋白質異化抑制,QOL(quality fo life)改善などをもたらす.さらに,最近になって,保存期CKD(chronic kidney disease)患者が運動療法を行うことで腎機能(eGFR(estimated glomerular filtration rate))が改善するという報告が相次いでいる.腎臓リハにより,保存期CKD患者の腎機能改善や腎機能低下速度遅延が確実となれば,透析導入を先延ばしすることができ,多くのCKD患者にとって朗報となる可能性がある.2011年に日本腎臓リハビリテーション学会も設立され,CKD患者における腎臓リハのさらなる発展が期待される.