30歳,男性.全身の筋痛と急速に進行する近位筋優位の筋力低下と共に,上下肢の著明な浮腫を認めた.筋病理よりacute edematous dermatomyositis(急性浮腫性皮膚筋炎)と診断し,ステロイドパルス療法をしたが,効果なく,寝たきり状態となった.CK(creatine kinase)も170,000 U/lと異常高値を呈した.その後,血液浄化療法を含む積極的加療により,症状は速やかに改善し,浮腫主体の筋炎症例での積極的加療の有効性が示唆された.
可逆性後頭葉白質脳症(posterior reversible encephalopathy syndrome:PRES),血栓性微小血管障害症(thrombotic microangiopathy:TMA)ならびに腎機能障害で発症した高血圧緊急症に対し,降圧薬で加療を行った.血圧の改善と共にPRES及びTMAは改善を認めたが,腎機能は増悪した.腎機能障害増悪の要因を明らかにするために腎生検を行い,悪性腎硬化症及び尿細管間質性腎炎(tubulointerstitial nephritis:TIN)を認めた.TINに対してステロイドを開始し,腎機能が改善したことから,病態の把握に腎生検が有用であった.
53歳,男性.非定型慢性骨髄性白血病(atypical chronic myeloid leukemia:aCML)に対し化学療法開始後,播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation:DIC)に伴う致命的な肺胞出血を合併した.物理的な止血効果を得るために,気道圧開放換気(airway pressure release ventilation:APRV)による平均気道内圧を高めた呼吸器管理を行った.その結果,呼吸状態の維持を図りつつ原病の治療を進めることができ,DICが改善し,救命し得た症例を経験した.APRVは,凝固異常を伴った肺胞出血に対して有用な止血手段の1つと考えられた.
同一年で3例のジアフェニルスルホン(diaphenylsulfone:DDS)による薬剤性メトヘモグロビン(methemoglobin:MetHb)血症を経験した.3例とも皮膚科でDDSを処方されており,偶発的にSpO2低下を指摘され,動脈血液ガス分析でのSpO2とSaO2の乖離及びMetHb分画上昇で診断された.MetHb血症は軽症で,DDS中止のみで速やかに改善した.DDS内服中に呼吸不全と診断される症例には,薬剤性MetHb血症が潜んでいる可能性がある.
慢性膵炎は生活習慣病的要素を備えた疾患であり,2010年に「慢性膵炎の断酒・生活指導指針」(厚生労働省科学研究費補助金難治性疾患克服研究事業難治性膵疾患に関する調査研究班)が示された.2011年にリパーゼ力価の高いパンクレリパーゼ製剤が薬価収載され,2012年に内視鏡的膵管ステント留置術が,2013年に体外衝撃波膵石破砕術が保険収載される等,膵石治療や膵内外分泌機能不全の管理は進歩してきた.慢性膵炎は,多くが非可逆性であるため,より早期の診断と治療介入が望まれてきたが,膵線維化や膵石,膵内外分泌機能不全といった進行した病理像や臨床像に基づいて定義・診断されてきたため,その早期の臨床像は明らかでなかった.近年,mechanistic definitionという新しい定義が提案され,慢性膵炎を新たに捉え直す機運が高まっている.日本では,2009年に世界に先駆けて早期慢性膵炎の概念が取り入れられ,2019年には診断特異度の向上を念頭に診断基準が改訂された.慢性膵炎診療のさらなる質の向上が期待される.
高齢化に伴い,認知症の増加が加速し,2050年までには全世界の患者数が1億人を超えると試算されている.認知症は,進行すると長期の要介護状態となり,社会・経済・保健医療等さまざまな面での負担が増加する.世界の患者の半数以上は開発途上国に集中しており,認知症による社会負担を軽減することが喫緊の課題となっている.認知症の根本的治療法は未だ確立されていないが,一方で,早期から予防的介入を行うことの重要性を示す医学的エビデンスが蓄積している.重要なのは早期診断であるが,問診形式の認知機能検査や脳画像検査等従来の評価法では,効率的な認知症スクリーニングは難しい.近年,生体液バイオマーカー測定技術の進歩や生体情報と人工知能を利用した診断法の登場により,全く新しい形の認知症診断が可能になりつつある.本稿では,認知症早期診断をより簡便且つ正確にする次世代型診断システムについて,著者らの研究開発も踏まえて概説する.