Antidiuretic hormone (ADH)過剰症候群(SIADH)は, Schwartzらの報告以来各種疾患によつて起こることが知られている.なかでも悪性腫瘍,とくに肺癌によるものが多い.症例は76才の男で,肺癌の経過中に,食欲不振,悪心,嘔吐,吃逆,意識障害など低Na血症による症状を認め,さらに尿中には持続的にNa排泄がみられた.それらの症状はMMC投与より, X線像上腫瘍の縮小に伴い改善され, BartterおよびSchwartzらの診断基準によりSIADHと診断した.悪性腫瘍によるSIADHの発症機序として,大きく分けて, 1)腫瘍またはその浸潤あるいは転移による,直接的,間接的な生理的ADH分泌機構の障害, 2)腫瘍組織によるADH異所産生の二つが考えられる.本例では腫瘍組織より高濃度のADH活性が認められ,さらに他の剖検所見および腫瘍細胞の電顕的検索により,腫瘍組織によるADHの異所産生を強く示唆する所見が得られた.現在まで本症とその組織の電顕的観察を含めて報告された例は極めて少ない.さらに本例は,大細胞型未分化癌で異所性ADH産生を伴つた始めての報告と思われる.
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