心房細動(atrial fibrillation:AF)は高齢者に多くみられる不整脈疾患であり,日常診療でも遭遇することの多いcommon diseaseであるが,重症脳卒中の原因疾患としても重要である.脳卒中予防には抗凝固療法が有効であるが,その主役は,従来のワルファリンから,その欠点の多くを克服した非ビタミンK拮抗経口抗凝固薬(non-vitamin K antagonist oral anticoagulant:NOAC)に交代し,着実に日常診療において普及してきている.しかし,NOACについても,適正用量の使用やアドヒアランスの維持等の克服すべき課題がある.
心房細動(atrial fibrillation:AF)は,遺伝的素因に加え,加齢や生活習慣病による後天的素因が複合して発症し,徐々に慢性化していく疾患である.近年のゲノムワイド関連解析(genome-wide association study:GWAS)により,心房細動関連遺伝子が多数発見され,また,発症及び慢性化に重要な心房リモデリングに関するメカニズム解明も進んでおり,今後,これらをもとにしたプレシジョン・メディシンが期待される.心房細動の最大の合併症は心原性脳塞栓であり,塞栓症リスク・出血リスクの評価に基づく抗凝固療法が重要である.
心房細動は,超高齢社会を背景に有病率が増加しており,もはやcommon diseaseと言える疾患である.しかしながら,その治療は近年大きく変化していることから,対応に苦慮されている一般医家の先生も多いと聞く.心房細動の治療は,脳梗塞に代表される血栓塞栓症の予防,症状緩和ならびに根治療法としてのカテーテルアブレーションと多岐に亘る.本稿では,近年大きく変遷してきた,心房細動に対する抗凝固療法の適応,薬物を用いた不整脈自体への対応ならびにカテーテルアブレーションの適応について述べる.
リズムコントロールの選択肢として抗不整脈薬しかなかった時代,心房細動に対する積極的なリズムコントロールは推奨されなかった.しかし,この20年間で心房細動に対するカテーテルアブレーションが飛躍的に進歩・普及し,現在では治療戦略の有力なオプションの1つとなっている.有効性・安全性共に大きく改善されたが,侵襲的手技であるため,一定の合併症リスクもあり,適切な治療適応・治療タイミングを知る必要がある.
心房細動(atrial fibrillation:AF)患者の心原性脳塞栓症予防は変革の時を迎えている.Direct oral anticoagulant(DOAC)の登場により,抗凝固療法開始の敷居は低くなり,また,その安全性から,高齢AF患者への使用も増加している.それに伴い,抗凝固薬投与中の患者が予期せぬ手術を受ける機会も増えている.そこで,本稿では,AF患者における抗凝固療法の適応と実際の使用法,周術期管理から高齢者の抗凝固薬投与の適応等,自施設データやエビデンスを踏まえ,解説することとする.
心房細動治療の中心は,言うまでもなく,抗血栓凝固療法である.その次のステップとして,レートコントロール(心拍数調節)療法とリズムコントロール(洞調律維持)療法があるが,自覚症状やQOL(quality of life)が損われていない患者であれば,レートコントロール療法を優先する.主にβ遮断薬が使用されており,心臓選択性の高い薬剤が選択されることが多い.β遮断薬は経口薬のみならず,急性期には静注薬も使用され,近々,貼付薬も使用可能になる予定である.
急激に高齢化が進む本邦において,冠動脈疾患合併心房細動症例は心房細動症例全体の10~15%と報告されている.冠動脈疾患に対しては抗血小板療法が,心房細動に対しては抗凝固療法が各々必要とされるが,それらの適切な投与法の検証が進められてきた.このような合併症例においては,病態と出血リスクに応じて,両者の組み合わせとその併用期間を適宜評価・選択していくことが重要となる.本稿では,最新の知見を踏まえ,リスク・ベネフィットを勘案した治療戦略について概説する.
心房細動患者の左房内血栓の約9割は左心耳に発生する.標準的予防医療は抗凝固療法であるが,欧米では左心耳を閉塞・切除し,抗凝固を回避する複数のストラテジーが急速に広まっている.大規模RCT(randomized controlled trial)において,経カテーテル閉鎖術がワルファリン治療に比べ,総死亡,出血事故ならびに大きな後遺症の残る脳梗塞の発生を優位に低下させることが証明された.他方,外科的切除術の低侵襲化も進み,共に出血高リスク患者への応用が期待されている.
セフトリアキソンナトリウムは,第3世代セフェム系抗菌薬であり,半減期が長く,1日1回投与での治療が可能である.一方で,特有の副作用として,偽胆石症の合併が報告されている.偽胆石症の多くは小児への大量投与例であったが,近年,成人での報告が散見されている.今回,我々はセフトリアキソンナトリウム投与に伴う偽胆石症を2例経験し,問診の重要性を認識したため報告する.
40歳,男性.7年前より,肺炎や中耳炎を繰り返していた.血液検査で慢性の免疫グロブリン低下を認め,分類不能型免疫不全症(common variable immunodeficiency:CVID)が考えられた.また,胸部CT(computed tomography)で両肺広汎に粒状影が認められたため,診断目的に外科的肺生検を施行した.広義間質に非壊死性類上皮細胞肉芽腫を認め,臨床症候と併せ,CVIDに合併したgranulomatous lymphocytic interstitial lung disease(GLILD)と診断した.
75歳,女性.貧血と血小板減少を契機にEvans症候群と診断した.PSL(prednisolone)0.5 mg/kgで8週間治療を行ったが,治療効果は得られなかった.リツキシマブ導入後,速やかに貧血と血小板減少が改善し,最終投与から13カ月後も効果を維持している.ステロイド抵抗性を呈するEvans症候群に対し,リツキシマブの奏効率は80%以上と摘脾術に優る効果があるとの報告もあり,今後,有用な治療選択肢になる.
脳やシナプスは可塑性を有することが明らかになり,そのメカニズムの解明を背景として,脳卒中リハビリテーションには,訓練の量,頻度ならびに課題特異性という3つの要素が重要であるとの知見が蓄積され,推奨されるようになった.脳卒中急性期では,早期離床により廃用症候群を予防するとともに,早期にADL(activities of daily living)を向上させることが重要である.さらに,回復期ではCI療法(constraint-induced movement therapy)や促通反復療法といった療法士の指導や徒手による運動療法を軸として,電気刺激や振動刺激等のさまざまな物理療法や非侵襲的脳刺激法(non-invasive brain stimulation:NIBS),リハビリテーションロボットを併用し,患者の運動意図を正しく実現し,反復することが,患者アウトカムを向上させると考えられる.超高齢社会の我が国における回復期リハビリテーションでは,アウトカム実績とその効率性が求められており,さらに,近い将来における再生医療の実用化に向け,効果的かつ効率的なリハビリテーション治療の発展がますます必要とされるであろう.
主に海外渡航者を対象として接種されるワクチンは,トラベラーズワクチンとも呼ばれる.渡航時の感染症予防は,接種者の健康を守ると同時に,病原体を遠隔地へ伝播しないという観点からも大切である.渡航の形態や渡航者の背景が多様化した昨今は,渡航先でのライフスタイルや宿主要件を考慮し,ワクチンの接種計画を検討することが必要である.本稿では,各種トラベラーズワクチンについて解説すると共に,解決すべき課題を考察した.基本的な考え方として,「海外渡航をするからワクチン接種が必要」というよりは,日頃から感染症予防を心掛けることを重視したい.麻疹・風疹や破傷風をはじめ,成人世代に接種が必要なワクチンについて具体的な推奨が明示されていないこと,海外標準製剤であっても,国内未承認のワクチンが多いこと等については,早急な解決が望まれる.