16才の女子で躁状態,とくに幻覚,粗暴行動,自我感情の亢進,拒否症などの著明な精神症状を伴つた成人型若年性悪性貧血の1例を報告した.本例はまた3才よりすべての爪の慢性皮膚candida症に罹患していた.非経口的VB
12と経口的鉄剤による治療の結果,本例は完全な血液学的寛解を得ると共に,精神症状もすべて消失した.そこで本例にみられた悪性貧血の発症と精神異常および慢性皮膚candida症の相互関係について考察を加え,併せて本邦における若年性悪性貧血,精神症状発現率などの報告を通覧した.本例には抗内因子抗体,抗壁細胞抗体以外の自己抗体は認められなかつだが,長期にわたる皮慮candida症の存在は細胞性免疫の異常を示唆し,これは悪性貧血の発症における免疫学的機序とも関係をもつと考えられた.実際candida拙出抗原やPPDに対する皮膚遅延型反応は繰返し行なつても陰性であつた.次にVB
12投与により治癒した本例の著明な精神症状の原因について,葉酸代謝に関連して考察した.本例を葉酸欠乏症の範畴に含めることはできないが,赤血球葉酸量は著明な低値を示し, VB
12欠乏によつて二次的に発現する細胞内葉酸欠乏の存在を示唆し,これは悪性貧血における精神症状の発生の一因である可能性を推定せしめた.
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