心疾患の二次予防において,血圧のコントロールは他の心血管リスクのコントロールと同様に極めて重要である.心疾患を合併する高血圧患者における降圧目標は,診察室血圧にて140/90 mmHgであり,ハイリスクの場合には130/80 mmHg未満を目指す.Jカーブ現象は,現状,心疾患における降圧療法に伴うものは認められていない.心疾患の種類によって,積極的適応となる降圧薬はそれぞれ異なる.
虚血性心疾患二次予防としての脂質管理における最大のトピックスは,PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)阻害薬の登場である.今までに経験したことがない厳格な脂質管理が可能となるが,どのような症例にどのように用いるかが今後の課題である.あわせて,家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)ヘテロへの関心が高まっている.頻度は200~300人に1人と決して稀な遺伝性疾患ではなく,見過ごされてきた虚血イベントのハイリスク例ととらえるべきである.
糖尿病治療においては,糖尿病合併症を抑制することが重要であることはいうまでもない.その中で,細小血管障害においてはHbA1cを7%未満に保つことにより,その発症・進展を抑制できることは証明されているものの,大血管障害においては,単にHbA1cを下げるだけの治療では抑制できないことが示されており,大きな課題となっている.そのような背景の中,近年,SGLT(sodium glucose cotransporter)2阻害薬およびGLP(glucagon-like peptide)-1受容体作動薬が,二次予防において大血管障害を抑制することが示され,糖尿病治療に大きなインパクトを与えている.本稿では,糖尿病治療における心血管イベント抑制に関するエビデンスについて紹介したい.
スタチンは虚血性心血管疾患二次予防に重要であるが,スタチンでも防げない心血管イベント再発リスクが「残余リスク」である.これまでの研究結果から,残余リスク低減に魚油の主要な成分であるω3系不飽和脂肪酸が有効であることが明らかとなっている.本稿では,ω3系不飽和脂肪酸製剤(高純度EPA(eicosapentaenoic acid),EPA/DHA(docosahexaenoic acid)製剤)の虚血性心疾患二次予防に関するエビデンスについて概説する.
虚血性心疾患へのステントを用いた経皮的冠動脈インターベンション(percutaneous coronary intervention:PCI)術後には,アスピリンとP2Y12阻害薬による抗血小板薬併用投与であるDAPT(dual antiplatelet therapy)が標準治療となっている.このP2Y12阻害薬には新規薬剤が導入され,実臨床においても使用されている.DAPTを継続する期間については議論が継続している.一年未満の短期DAPTで十分であるとの意見もある一方で,より長期間のDAPT期間を推奨するデータもあり,意見は定まっていない.本稿では,このPCI術後の抗血小板薬をめぐる最新のトピックスについて概説する.
現在,冠動脈イベント二次予防を目的とする抗血小板療法に,心原性脳塞栓発症予防のための抗凝固療法を併用することで出血性リスクが上昇する問題が生じている.そのような中で,現在,DOAC(direct oral anticoagulant)の有効性は,心房細動(atrial fibrillation:AF)のみでなく,虚血性心疾患においても有効性が期待されており,様々な臨床研究が行われている. 本稿では心筋梗塞の二次予防におけるワルファリンとDOAC,AF合併虚血性心疾患における抗血小板療法とワルファリン,DOACについて概説したい.
運動療法は,心筋梗塞においては,再発予防効果,心筋梗塞に伴う心不全や不整脈の発症・増悪予防効果,予後改善効果を有する.また,狭心症においては,新たな動脈硬化病変の発症を予防し,胸痛を改善させる効果を発揮する.運動療法には,有酸素運動や抵抗運動のほか,最近では高強度インターバルトレーニングも実施され始めている.運動療法の基本は高強度すぎない安全なレベルで行うことであり,運動強度の設定は患者の目標と状態により異なる.
植込み型除細動器(implantable cardioverter-defibrillator:ICD)は,致死性不整脈を治療し,心臓突然死を予防するデバイスである.また,慢性心不全では,心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy:CRT)が重要な治療の選択肢であるが,心不全自体が突然死のリスクとなるため,両者の機能を併せもつ両室ペーシング機能付き心臓再同期療法(cardiac resynchronization therapy defibrillator:CRT-D)の適応を判断することが重要である.
49歳,女性.受診1カ月前より頭頸部の浮腫が生じた.徐々に増悪し,開眼が困難となり入院となった.その後より,当初はなかったCK値上昇を認め,嚥下・構音障害が出現した.血液検査や筋MRI,皮膚病理などから皮膚筋炎と診断し治療を行ったところ,筋症状,浮腫ともに改善した.皮膚筋炎に浮腫を伴うことがあり,浮腫の原因疾患として皮膚筋炎も考慮すべきである.
48歳,男性.発熱,全身性浮腫とリンパ節腫脹で発症し,炎症反応高値,副腎出血,血小板減少,骨髄線維化を認めた.副腎出血による副腎不全を合併した悪性リンパ腫を疑ったが,リンパ節生検にてCastleman病の病理所見と一致し,多彩な臨床症状と検査所見を総合的に判断し,TAFRO症候群と診断した.Prednisolone(PSL)により症状の改善がみられた.頻度は稀だが,本症例のような多彩な臨床症状と特徴的な検査所見を示す場合,TAFRO症候群を念頭に置く必要がある.
既往歴のない45歳,男性.貧血・白血球減少の精査目的に骨髄検査を施行.明瞭な骨髄芽球,赤芽球異形成により骨髄異形成症候群も考慮されたが,骨髄球の細胞質空胞化を認め,血清銅・セルロプラスミンが低値であったため,銅欠乏性造血障害と診断した.銅の含有が豊富なココアの摂取を励行した結果,貧血・白血球減少とも回復し,骨髄の異形成も消失した.なお,偏食や亜鉛サプリメント摂取歴はなく,銅欠乏の原因は不明である.
55歳,男性.耳介および鼻背の軟骨炎と多発関節炎を来し入院となった.再発性多発軟骨炎(relapsing polychondritis:RP)と診断し,ステロイド内服により加療した.また,47歳より湿性咳嗽を認め,入院3カ月前より喀痰の増加と多量の鼻汁を認めた.検査所見より副鼻腔炎と気管支炎を認め,びまん性汎細気管支炎(diffuse panbronchiolitis:DPB)と診断し,エリスロマイシン内服により加療した.2つの疾患の合併例は国内外問わず報告例がなく,貴重な症例であり,文献的考察を加え,報告する.
神経変性疾患において睡眠障害の併存は多く,疾患自体の神経病理学的変化により睡眠覚醒リズムや睡眠構築の障害が生じるほか,疾患に関連する症状,薬物,併存する睡眠関連疾患の影響などが睡眠障害の発症に関与している.Parkinson病(Parkinson’s disease:PD)では睡眠障害は高率かつ多様な原因から生じ,神経変性疾患でみられる多くの睡眠障害を併発する.多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)では睡眠関連呼吸障害,特に吸気性喘鳴に注意が必要である.夢の行動化を生じるレム睡眠行動異常(rapid eye movement sleep behavior disorder:RBD)は神経変性疾患発症の前駆病態として注目され,特にシヌクレイノパチー(PD,MSA,Lewy小体型認知症(dementia with Lewy bodies:DLB))と深い関連がある.Alzheimer病(Alzheimer’s disease:AD)や前頭側頭型認知症(frontotemporal dementia:FTD)では概日リズムの異常がみられる.本稿ではPD関連疾患や認知症性疾患における睡眠障害について解説する.
原発性アルドステロン症(primary aldosteronism:PA)に関する米国内分泌学会による診療ガイドラインが改訂され,日本内分泌学会によりコンセンサスステートメントが発表された.スクリーニング,確定診断,サブタイプ診断の3つのステップで診断を行い,治療を選択する手順の変更はない.スクリーニングの対象が収縮期血圧>150 mmHg,拡張期血圧>100 mmHg,睡眠時無呼吸症候群やPA患者の第一度近親者の高血圧患者まで拡大された.低カリウム血症,低レニン血症,血漿アルドステロン>200 pg/mlを示す明らかなPA症例では確定診断検査を省略可能とされた.また,顕性若年のPAでCTにて片側腫瘍を示す症例では副腎静脈サンプリングの省略が可能とされた.また,PAの精査希望がない症例では,PA未確定でも公衆衛生的な観点からミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の投与が推奨された.