わが国の肝硬変はB,C型のウイルス性が減少する一方で,脂肪性肝疾患による症例が増加している.肝炎ウイルスの制御が可能になり,ウイルス性では肝機能を改善させることが可能になった.しかし,脂肪性の多くは肝不全が徐々に進行するchronic decompensationを呈する.また,脂肪性のうちアルコール性では,大量飲酒を契機に肝不全が急速に進展する場合がある.そこで厚生労働省研究班はacute-on-chronic liver failure(ACLF)の診断基準(案)を2018年に発表し,これに基づいて全国調査を実施している.
肝線維化は,慢性的に持続する肝細胞傷害に呼応して肝組織内に過剰な細胞外マトリックス物質が蓄積することに由来する.肝線維化に対する有効な治療法はまだなく,その開発は急務である.一方,肝線維化の病態生理に関する研究は,その中心的役割を果たす肝星細胞の活性化機序やコラーゲンの産生・分解の制御機構の解明が進んだことで飛躍的な進歩を遂げており,肝線維化治療薬開発の進展へと結びつくことが期待される.
肝硬変の画像診断はさまざまな方法がある.超音波による形態診断は古くから行われ,腹水診断等進行した肝硬変での診断能は高い.近年エラストグラフィにより肝硬度を測定することで肝線維化を診断する方法により肝線維化のステージ毎の客観的評価がされるようになった.一定の炎症や胆汁うっ滞,うっ血等の要素を除くとその診断能は極めて高く,原因検索以外の線維化ステージ診断においては肝生検に替わる非侵襲的な方法となりつつある.さらに発癌リスクや非アルコール性脂肪肝炎の線維化診断にも使用される.
非代償性肝硬変の治療は,腹水,肝性脳症等の合併症予防やその対策が重要である.一方,C型肝炎では,非代償性肝硬変に対しても抗ウイルス薬の投与によりウイルスが排除できるようになり,原因に対する治療が可能になった.ウイルスの排除により,アルブミン合成等の肝予備能は大幅に改善する.今後,このような原因治療が患者の予後をどこまで改善するか,明らかにすることが必要である.
肝炎ウイルスの減少に伴い,アルコール性肝硬変は肝硬変の中心的な原因となりつつある.診断において,飲酒量を客観的に評価する糖鎖欠損トランスフェリン(carbohydrate-deficient transferrin:CDT)が測定可能となり,総トランスフェリンとの比によって算出される%CDT値が用いられている.治療では禁酒が第一の目標とされてきたが,達成が困難であり,最近ではハームリダクションの概念の下,飲酒量の低減を目的とするナルメフェンを用いた治療が進められている.
非アルコール性脂肪肝炎(non-alcoholic steatohepatitis:NASH)は,適切な治療介入をしなければ,肝硬変へと進行するリスクがある.さらにNASH肝硬変は,肝不全や肝細胞癌,心血管疾患発症の原因となることから,適切なスクリーニングと囲い込み,そして治療介入が必要である.本稿では,NASH肝硬変の診断,治療法について概説する.
栄養療法は肝硬変の基本的治療であり,分岐鎖アミノ酸製剤は肝硬変栄養療法におけるkey drugである.肝硬変患者においては速やかに栄養アセスメントを行い,分割食や就寝前エネルギー投与を含む適切な食事・栄養療法を開始することで,サルコペニア等の合併症の予防やQOL(quality of life)の改善を目指すことが重要である.肝硬変患者に対する運動療法の有用性も期待されているが,その実践においては安全性を十分に担保する必要がある.
肝硬変の合併症として日常診療で遭遇することが多い病態である肝性浮腫・腹水及び肝性脳症はいずれも患者のQOL(quality of life)を著しく低下させ生命予後にも密接に関係する.近年,肝性腹水に対し本邦で開発されたトルバプタンが使用可能となり,肝性脳症に対してリファキシミンが導入される等肝硬変合併症の診療は進化している.このほか5年ぶりに改訂された「肝硬変診療ガイドライン」では不顕性肝性脳症の項目が記載された.
門脈圧亢進症が原因の消化管静脈瘤出血は,最も重篤な合併症の一つであり,その治療法には内視鏡治療,手術療法,血管内治療及び薬物療法が存在する.balloon occluded retrograde transvenous obliteration(BRTO)は,孤立性胃静脈瘤に対して極めて有効であり,また肝性脳症に対する有効性も数多く報告されている.門脈血栓の形成には,肝硬変症における凝固・抗凝固のインバランスが深くかかわっている.一方,血栓溶解療法には消化管出血等の危険性も伴うため,リスクベネフィットの検証が必要である.
肝硬変は慢性肝疾患における終末病態である.近年,肝硬変の成因はウイルス性から脂肪性肝疾患へと急速に変化し,特にNASH(non-alcoholic steatohepatitis)肝線維症,肝硬変を対象とした新規治療が開発されている.肝線維化には肝星細胞(hepatic stellate cells:HSC)が関与しており,HSCの活性化,制御機構を標的として開発され,第II相や第III相まで進捗している有望な薬剤も認めている.肝再生医療も本邦を中心に着実に研究が進んでおり,今後の新規薬剤,再生医療の開発に期待される.
25歳,女性.生下時より四肢のいずれか一肢の疼痛発作を繰り返している.父,父の弟とその長男,父方祖父とその妹にも同様の発作があり,特徴的な症状と常染色体優性遺伝形式から小児四肢疼痛発作症と診断した.本人と父の責任遺伝子SCN11Aにp.R222Hの変異が認められた.患児は育てにくい子どもとして虐待されやすいことが予想されるが,思春期以降は発作の頻度が減少し,この疾患の認知度が低いこともあって多くの成人患者が未診断のままになっている可能性がある.
61歳,女性.肺腺癌術後の定期フォローの造影CT(computed tomography)検査で門脈血栓と診断された.その後のCTで陰影の増大を認め,門脈腫瘍塞栓が鑑別に挙げられた.FDG-PET(fluorodeoxyglucose positron emission tomography)/CT検査が施行され,同部位に集積を認めた.経皮経肝門脈生検によりびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)と診断し,化学療法導入の方針となった.門脈腫瘍に対する手術生検や切除術は高リスク手技であることや,DLBCLの標準治療は化学療法であることから,経皮経肝門脈生検は本症例における最適な手技であったと考える.
81歳,男性.X-6年(当時75歳)に胸腺癌epidermoid non-keratinizing carcinomaの診断を受けた.手術不能であり,薬物・放射線療法を提示されたが,いずれも患者は望まず,以降best supportive careを継続していた.腫瘍は増大傾向を示し,X-2年には上大静脈症候群を発症していた.しかし,X-1年に撮影した胸部X線撮影にて縦隔腫瘤影が縮小していた.この間薬物療法も放射線療法も受けていなかった.予後不良な胸腺癌において自然退縮を確認した希有な例として報告する.
55歳,男性.健診異常を契機に胸部CT(computed tomography)を施行され,両肺に斑状のすりガラス影を指摘された.1年前に開始した加熱式たばこPloom TECHⓇ(プルーム・テックⓇ,以下PT)による肺障害が示唆され,PT使用中止のみで4カ月後に陰影はほぼ正常化した.本例は偶然発見された可逆性の喫煙関連間質性肺疾患(smoking-related interstitial lung diseases:SRILD)の可能性があると考えられた.加熱式たばこの使用量増加に伴い,今後同様の肺障害は増加する可能性があり,症例の蓄積が求められる.
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)は腎不全の原因であるだけでなく,脳卒中や心血管病発症とも関係している.その診療実態の解析を目的として,日本腎臓学会は日本医療情報学会と共同し,全国規模の包括的CKD臨床効果情報データベース(Japan Chronic Kidney Disease Database:J-CKD-DB)を構築した.リアルワールドデータ(real world data:RWD)を活用してCKDの実態調査,予後規定因子の解析,標準治療の均霑化率の評価,有効な予防・重症化抑制策の立案,腎臓病診療の質向上に寄与することが目的である.SS-MIX(Standardized Structured Medical Information eXchange)2を用い,電子カルテ情報(electronic health record:EHR)からCKD該当例のデータを自動抽出しデータベース化するものである.全国15大学病院の参画を得て,14万8,000人のCKD症例を登録した.診療ガイドラインはエビデンスに基づくことが求められている.最も質の高いエビデンスはランダム化2重盲検試験(randomized controlled trial:RCT)及びそのメタ解析とされる.RCT実施は容易ではなく,臨床現場から提出される多くのclinical questionに答えることは困難である.RWDを活用することでエビデンス度の高い知見を創出することが可能である.
間質性肺炎は「肺胞の壁である間質」で炎症や損傷が起こり持続することにより細胞外器質が間質に蓄積して線維化を来たす疾患であり,原因が明らかである二次性と原因が不明である特発性に分けられる.特発性の多くを占める特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)は,病態解明が不十分で予後不良の疾患である.IPFにおいては,治療の主体は抗線維化薬となり,病態をめぐる理解に関しても異常な創傷治癒過程としての持続的な線芽細胞巣の増生・進行性の線維化が起こるものとして理解されるに至り,線維化それ自体のメカニズムが研究・創薬の標的として中心的な存在となっている.我々は線維症の病態形成過程を精緻に分析することにより発症の起点となる単球サブセット(Nature 2017),及び線維症関連遺伝子であるRBM7(Immunity 2020)を先行研究において見出し,治療へとつながる新たな知見を得たため,近年の病態理解の進歩とともに紹介する.