急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Leukemia:AML)は発症から短期間で致命的となりえる重篤な疾患であり,疑い症例では可及的速やかな専門医による診断と治療が必要である.近年,分子標的治療薬の実用化により,高齢者を含めたAML治療の多様化とともに外来での通院治療中の患者に一般内科医が関わる機会の増加が予想される.専門医以外からは敬遠されがちな血液疾患であるが,AML患者の治療継続,予後改善のためにも専門医と一般内科医とのより密接な連携が必要となる.
急性リンパ性白血病はフィラデルフィア染色体陽性と陰性で治療が異なるので染色体分析またはBCR-ABL1遺伝子の検索で迅速に鑑別を行うことが重要である.治療の基本は入院で行う寛解導入療法と地固め療法,外来で行う維持療法である.維持療法中および後には再発と晩期合併症(骨密度低下,骨粗しょう症,認知機能障害,妊孕性の低下,心機能低下,内分泌障害,2次発がんなど)が課題であり,初期治療から合併症への対策を考えておくことが望ましい.
慢性期慢性骨髄性白血病はBCR-ABL1チロシンキナーゼ阻害薬(tyrosine kinase inhibitor:TKI)の登場により全生存率が飛躍的に向上し,一部の患者ではTKIの中止も試みられている.このような良好な治療成績を確実に得るためには,正確な初期診断だけでなく,患者自身の併発症を加味した最適なTKIの選択や各々のTKIに則した有害事象の適切なマネジメントが求められている.
骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)は,白血球増多症,多血症,血小板増加症あるいはその複数の系統の血球増加症として発見される場合が多い疾患群で,真性赤血球増加症,本態性血小板増多症,原発性骨髄線維症が代表的疾患である.原因遺伝子として,JAK2,MPL,CALR遺伝子変異のいずれかが,MPNのほぼ90%に認められる.
骨髄異形成症候群(Myelodysplastic syndromes:MDS)は,急性白血病へ移行する性質を有し,血球減少を呈する疾患である.診断には骨髄検査が必須であり,その検査結果と血球減少の程度から高リスクと低リスクMDSに分けて治療方針が決められる.治療選択肢として,低リスクMDSには無治療経過観察,レナリドミド,サイトカイン療法,免疫抑制療法,支持療法(輸血など),鉄キレート療法などがあり,高リスクMDSでは同種移植とアザシチジンがある.
リンパ腫の多くはリンパ節腫脹を契機に診断される.リンパ腫は腫瘍性疾患でありながら過半数の患者で治癒が望めるため,優先して鑑別する.週単位に増大する病変,横隔膜の両側に病変を認める場合はその時点で専門診療科へ紹介する.生検の適応判断や検査提出に迷う場合も同様である.治療中は特に発熱性好中球減少症とウイルス感染症に注意する.外来治療の増加に伴い,専門診療科とかかりつけ医との一層の連携が望まれている.
多発性骨髄腫は高齢者に多い造血器腫瘍であるが,近年の治療の進歩は目覚ましく,生命予後の改善により罹患者数は増加の傾向にある.腰痛,貧血,腎機能障害などの多彩な臨床症状を呈するものの,いずれも高齢者に高頻度に認める徴候であり,かつ症状も緩徐に進行することから,深刻な病気と認識されぬままに早期診断のタイミングを逃してしまう事例も多い.本稿では,多発性骨髄腫の初期診断のポイント,治療指針,外来通院中の疾患マネジメントについて概説する.
同種造血幹細胞移植は,骨髄非破壊的前治療や臍帯血移植,HLA半合致移植などの多様化により,高齢者にもその適応が拡がり,実施数は増加してきている.さらに移植片対宿主病や感染症などの合併症に対する治療薬の開発など医療の進歩により,移植後の予後は改善しており,移植後QOLの向上や就労・就学など社会復帰支援といった新たな課題への取り組みから移植後長期フォローアップの重要性が高まっている.
73歳,男性.インフルエンザワクチン接種後に黄疸を伴う肝障害にて紹介受診された.DDW-Japan 2004薬物性肝障害診断基準8点で,インフルエンザワクチンによる薬物性肝障害と診断した.薬剤リンパ球刺激試験(drug-induced lymphocyte stimulation test:DLST)では強陽性を示した.ステロイドパルス療法には反応せず,肝庇護療法にて約2カ月で軽快した.インフルエンザワクチンにより重症肝障害を来たし得ることに留意しなければならない.
74歳,女性.腹痛にて受診し,胆囊腫瘍による閉塞性黄疸疑いで入院となった.内視鏡的胆管造影で膵胆管合流異常を認め,肝門部胆管の狭窄に対して内視鏡的経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)を開始した.その後から膵液のドレナージに伴う代謝性アシドーシス,そして高カリウム血症が出現した.そのコントロールに難渋したが,ENBDを金属ステントに変更し膵液を内瘻化後,代謝性アシドーシスと高カリウム血症は速やかに改善した.
48歳,男性.胸部異常陰影精査のために受診した.診断的治療目的で左肺部分切除術を施行した.アリゾナ州への渡航歴があり手術肺検体の培養結果からCoccidioides posadasiiが検出されたため,原発性肺コクシジオイデス症と診断した.病理学的に菌体が肉芽腫を越えて肺胞腔へ進展しており播種性病変の出現が懸念されたが,術後再発なく経過した.本邦では稀な疾患であるが,近年増加傾向であり,本症を鑑別に挙げ,適切な診断,治療を行うことは重要である.
72歳男性.3年前より進行する貧血を指摘され,A診療所より紹介となった.精査にて慢性炎症に伴う鉄の利用障害と,6年前より増大傾向の脾腫瘤を認めた.腰痛・発熱・寝汗を伴うことから悪性腫瘍を疑って腹腔鏡下脾臓摘出術を施行,炎症性偽腫瘍(inflammatory pseudotumor:IPT)と診断された.術後に自覚症状は消失し,無治療経過観察にてCRP(C-reactive protein)及び貧血は正常化した.慢性炎症の貧血に対する影響の大きさと,診断的脾臓摘出術の有用性を実感した.
近年,従来からのマウス等の実験動物を用いた疾患モデルに加えて,ヒト由来細胞を用いた様々な研究が可能となり,ヒト生体内の微小環境を疾患病態と共に培養皿内に再現できるようになった.背景には,iPS細胞からの分化誘導法,オルガノイド培養,CRISPR-Cas9等によるゲノム編集,シングルセル解析といった個々の要素技術の大きな発展があり,これらを組み合わせてヒト由来細胞を用いた疾患モデルは飛躍的に発展してきた.呼吸器はガス交換のための広大な肺胞面積を必要とし,肺胞を支える多数の分岐を持つ気道と目的に特化した細胞を備えて協調し,免疫細胞だけでなく上皮細胞も生体防御に役立っている.私たちの向かう先にはヒト由来細胞を用いて従来は解明が困難だったヒト肺の成り立ちを知り,難治性呼吸器疾患の病態解明から診断と治療につなげることであり,その先には肺を臓器として再生したいという未来がある.
薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI)は実臨床における肝障害の成因として極めて重要であり,鑑別疾患として常に念頭に置く必要がある.被疑薬としては抗菌薬,解熱鎮痛抗炎症薬,精神神経領域薬が多く,漢方薬や健康食品・自然食品によるものも少なくない.近年では抗腫瘍薬や免疫チェックポイント阻害薬によるDILIが注目されている.異常高値を示す肝酵素によって肝細胞障害型,胆汁うっ滞型,混合型に分類される.診断のためには,肝障害を来たしうる他の原因を丁寧に除外すること,原因として疑われる薬物の服薬歴およびその服用時期を詳細に聴取することが重要である.薬物リンパ球刺激試験の結果は参考となるが,確実なものではない.確定診断を目的とした被疑薬の再投与は禁忌である.治療方針としては被疑薬の投与を中止することが大原則で,多くは薬物の中止だけで軽快するが,中には重症化する症例もみられる.患者には今後被疑薬の服用は避けるよう説明する.