1990年代後半からの分子遺伝学的研究の進歩により, 一部の致死性遺伝性不整脈疾患が心筋イオンチャネル機能や細胞膜蛋白の調節に関係する遺伝子の変異によって発症することが判明し, 「イオンチャネル病」という概念が生まれた. その代表的疾患である先天性QT延長症候群ではすでに10の遺伝子型が同定されており, 遺伝子診断率も50~70%と高い. このため, 特に頻度の多いLQT1, LQT2, LQT3型患者では, 遺伝子型と表現型 (臨床病態) の関連が詳細に検討され, 遺伝子情報が患者の治療や生活指導に還元されている. 一方, 先天性QT延長症候群以外の遺伝性不整脈疾患では, 遺伝子診断率も低く, 遺伝子診断は未だ研究的側面を脱しているとはいいがたい. しかし, Brugada症候群では, Na
+チャネル遺伝子の
SCN5A の変異が報告されており, これによるNa
+チャネル異常が, 表現型である特徴的な心電図異常や心室細動にどのように関連するかが, 動物実験で明らかとなっている. また最近,
SCN5A 上の転写領域に日本人 (アジア人) に特異的に認める遺伝子多型 (ハプロタイプ) が同定され, Brugada症候群の人種差に関連することも報告されている.
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