「2021年JCS/JHFSガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療」の治療アルゴリズムにおいて,HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction)患者の治療戦略が大きく改訂された.具体的には,従来の慢性心不全の標準治療であったACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬/ARB(angiotensin II receptor blocker)+β遮断薬+MRA(mineralocorticoid receptor antagonist)の3剤併用療法からACE阻害薬/ARB/ARNI(angiotensin receptor neprilysin inhibitor)+β遮断薬+MRA+SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬の4剤併用療法への移行が示されている.
左室駆出率(left ventricular ejection fraction:LVEF)が50%以上,ナトリウム利尿ペプチド値の上昇を認め,心エコー等で拡張不全が示唆される心不全は,LVEFの保たれた心不全(heart failure with preserved ejection fraction:HFpEF)と定義される.高齢女性に多く,高血圧,心房細動,糖尿病等の併存症を高率に認める.神経体液性因子抑制薬による予後改善効果は示されておらず,うっ血に対する利尿薬と併存症に対する治療のみが推奨されてきたが,最近,SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬の有効性が報告された.
ACE(angiotensin-converting enzyme)阻害薬・ARB(angiotensin receptor blocker)は,長らく慢性心不全治療薬の中心的役割を担ってきた.近年,ナトリウム利尿ペプチド分解酵素阻害作用を併せ持つARNI(angiotensin receptor neprilysin inhibitor)が,ACE阻害薬以上の有効性を有することが示され,国内外のガイドラインにおいて,ACE阻害薬・ARBでは効果不十分な症例においてARNIへの切り替えが推奨されるようになった.どのような症例が切り替えの対象となるのか,及び切り替えの際の留意点等について解説する.
SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬は糖尿病に対する血糖降下薬として開発されたが,心血管病リスクを有する2型糖尿病患者に対する心不全入院抑制作用が明らかとなった.それに引き続き,SGLT2阻害薬は,心機能低下を伴う慢性心不全患者の予後改善効果が明らかとなり,さらに最近,収縮力の保持された慢性心不全患者の予後改善効果も示された.現在各国の心不全ガイドラインにおいて心機能低下を伴う心不全患者に対しその使用が推奨されている.
利尿薬は,予後改善のエビデンスがなくとも,心不全治療の現場では必要不可欠である.しかし,必要以上のループ利尿薬はさまざまな弊害をもたらす.一方で,ループ利尿薬抵抗性は,うっ血解除が不十分となるばかりでなく,心不全における予後不良因子と見なされる.抗バゾプレシン薬のトルバプタンは,ループ利尿薬抵抗例に水利尿によりうっ血解除を図り,血管内用量を保持する特性から腎機能悪化を回避する.
イバブラジンは心臓の洞結節に発現するhyperpolarization-activated cyclic nucleotide-gated(HCN)-4チャネルの阻害薬であり,心臓ペースメーカー電流の過分極活性化陽イオン電流を抑制して活動電位の拡張期脱分極相における立ち上がり時間を遅延させ,心拍数(heart rate:HR)を減少させる.この薬剤の登場により,「HRを低下させる」ことが心不全の新たな治療ターゲットとなり,HRを低下させることが予後の改善につながることを示した研究の結果が次々と報告された.同じくHRを低下させる薬剤としてβ遮断薬があるが,イバブラジンが適応となるのは原則β遮断薬を含む慢性心不全の標準的な治療を受けている患者であって,洞調律かつ投与開始時の安静時HRが75回/分以上の慢性心不全の患者である.しかし,β遮断薬に対する忍容性がない,禁忌である等,β遮断薬が使用できない,あるいは低用量からなかなか増量できない患者にも投与することができる.実臨床においては,一見β遮断薬に対する忍容性がない/低いと思われる患者に対して早めにイバブラジンを導入することが,結果としてβ遮断薬の忍容性を高めることにつながることもしばしばある.
心不全患者において,ジギタリスは洞調律では強心作用を,心房細動(atrial fibrillation:AF)ではレートコントロールを目的に使用されることが多い.いずれも血中濃度の有効治療域は狭く,薬物治療モニタリングが必須である.近年,心不全を合併したAFのレートコントロールに対する長期的なジギタリスの有益性は低く考えられている.一方,カテーテルアブレーション等の有効性は多数報告されており,心不全を合併したAF管理の最新の知見も紹介する.
直接的に可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase:sGC)を活性化させるsGC刺激薬であるベルイシグアトはNO-sGC-cGMP(nitric oxide-sGC-cyclic guanosine monophosphate)系を標的とする新規慢性心不全治療薬である.第III相臨床試験において主要評価項目である心血管死または心不全入院の複合エンドポイントの発現を有意に減少させた.一方,リスク軽減比が小さい等,予後改善効果について慎重な見方もある.今後,導入に適したタイミングや患者像等について使用経験の蓄積とさらなる検討が期待される.
16歳,男性.4カ月前より間欠的に激しい嘔吐を繰り返す一方で,発作間欠期には全くの無症状であった.その特徴的な臨床経過より周期性嘔吐症候群を鑑別疾患に考えた.発作時に血清ACTH(adrenocorticotropic hormone),ADH(antidiuretic hormone)値が高値を示すことから,周期性嘔吐症候群と診断し治療した.本疾患で成人診療科を受診することは比較的稀であると考えられていたが,認知度は上昇してきている.激しい嘔吐を繰り返す患者の鑑別疾患として,周期性嘔吐症候群を念頭に置くことは重要である.
50歳代の女性,抗GAD(glutamic acid decarboxylase)抗体陽性インスリン依存状態の1型糖尿病に対し,持続皮下インスリン注入療法を行っていた.糖尿病発症前からの肥満が問題であり,1年前よりSGLT2(sodium/glucose cotransporter 2)阻害薬の内服を開始した.数日前より感冒症状があり,食事は摂取できなかったが,少しずつ経口摂取していたためSGLT2阻害薬内服は継続していた.嘔気と倦怠感が増悪し受診,血糖269 mg/dlであったが,ケトアシドーシスを認め入院,ブドウ糖とインスリンを同時に持続静注開始.速やかに症状が改善し翌日退院した.SGLT2阻害薬内服中,インスリン依存状態では,経口摂取量減少時に正常血糖ケトアシドーシス(euglycemic diabetic ketoacidosis:euDKA)を起こす可能性があることを念頭に置く必要がある.
78歳,女性.横行結腸癌術前の注腸造影検査前処置でMg製剤を摂取後,意識障害,血圧低下を認めた.血液検査にて血清Mg高値,血清Ca高値を指摘され,大量補液及びエルカトニン投与を行い,意識障害と電解質異常の改善が得られた.背景として,慢性便秘,腸管病変,腎機能障害に伴う,薬剤の吸収率増加と排泄障害を来たしたことに加え,最大量の酸化MgやVit. D製剤の定期内服等薬剤ポリファーマシーの影響が考えられた.
溶接工肺はヒュームの吸入により発症するじん肺症の一つであり,粉じん曝露の低減や回避により改善が期待されるじん肺症である.症例は44歳男性.慢性咳嗽を主訴に来院した.職業歴,血清フェリチンの上昇ならびに胸部CT(computed tomography)所見から溶接工肺を疑い気管支鏡検査を実施した.気管支肺胞洗浄液中に鉄染色陽性のマクロファージを認め,溶接工肺と診断した.溶接マスクの徹底により改善を認め粉じん曝露の低減の重要性が示された.
抗菌薬使用においては耐性菌選択を避けることができないため,最大の治療効果を得ながら,使用量や使用期間を最適化すること,すなわち抗菌薬適正使用が求められている.抗菌薬適正使用を推進するためには,抗菌薬処方医の努力に加えて,医師,薬剤師を中心としたチームを作り,これを支援することが有用であることが明らかとなり,antimicrobial stewardship(AS,抗菌薬適正使用支援)の概念が生まれた.ASのさまざまな戦略の中で,「早期モニタリングとフィードバック」と「抗菌薬使用の事前承認」の有効性に関するデータが多い.ことに前者はその受け入れられやすさから,本邦で採用する施設が多く,infectious disease(ID)consultation等他の手法と組み合わせることでさらに効果的であると考えられる.今後は,外来におけるASや,ASのためのチームを持つ病院が,持たない病院を支援する地域連携の推進が期待される.
Duchenne型筋ジストロフィー(Duchenne muscular dystrophy:DMD)は,小児期発症の最も頻度の高い遺伝性筋疾患であり,進行性で重症の筋萎縮と筋力低下を特徴とし,致死性の心不全,呼吸不全を呈する希少性疾患である.その治療法として我々はモルフォリノ核酸(phosphorodiamidate morpholino oligomer:PMO)を用いてフレームシフト変異をmRNA(messenger ribonucleic acid)レベルで修正して,疾患を治療する核酸医薬品,ビルトラルセンを国内企業と協力して開発した.医師主導治験として早期探索相試験を行い,その後,国内企業による後期相臨床試験が行われた結果,国内開発の核酸医薬品として初めて,条件付き薬事承認され,米国でも迅速承認されている.公知申請された合成副腎皮質ホルモン剤を除き,国内初めての筋ジストロフィー治療薬である.新たな治療薬の開発により,希少性疾患に対する医薬品開発の基盤が築かれただけでなく,医療体制にも影響を及ぼす可能性がでてきた.
慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)では,その病因に関わらず腎間質領域に線維化の進行が認められる.腎線維化は筋線維芽細胞が過剰に細胞外基質を分泌することで惹起されるが,そのメカニズムには不明点も多い.近年,腎臓の筋線維芽細胞の大部分は健常な腎臓に存在する腎線維芽細胞と周皮細胞が形質転換して生じること,また,この形質転換の過程で腎性貧血や傍尿細管毛細血管の喪失等,CKDに特徴的な病態が惹起されることが明らかとなった.一方で,筋線維芽細胞の腎保護的な側面についても報告されている.さらに,腎線維化の一因として,障害近位尿細管上皮細胞やマクロファージと腎線維芽細胞のクロストークが注目されている.また,腎臓内で慢性炎症を引き起こす三次リンパ組織の形成にも,特殊に分化した腎線維芽細胞が寄与している.本稿では,腎線維芽細胞の多彩な形質獲得からみた腎線維化のメカニズムに加え,現在開発中の腎線維化の画像診断・治療薬についても概説する.