小児用7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)の公費助成開始により,我が国のワクチン血清型による小児の侵襲性肺炎球菌感染症(invasive pneumococcal disease:IPD)は激減した.一方,非PCV7含有血清型による小児IPDが増加し,血清型置換が明確となった.結果的に,小児IPD罹患率は,PCV7導入前に比較して,2013年度までに57%減少した.さらに,65歳以上の高齢者におけるIPDの原因菌にも血清型置換が認められた.
肺炎球菌は厚い莢膜を持つ細胞外増殖細菌であり,好中球が主要な貪食殺菌細胞である.補体の活性化を阻害するため,莢膜多糖に対する抗体がオプソニンとして重要である.莢膜多糖は胸腺非依存性抗原であり,メモリーB細胞を形成しないが,IgMからIgG2へのクラススイッチは起こり,インターフェロンγが関与するとされている.本稿では,肺炎球菌肺炎の病態の理解のために,本菌に対する免疫応答機構について概説する.
高齢者の肺炎予防には,インフルエンザワクチンと肺炎球菌ワクチンを両方接種することが重要である.近年,日本人を対象とした安全性と有効性のデータから良好な経済効果が試算され,2014年から65歳以上の高齢者に対する23価莢膜多糖体型肺炎球菌ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine:PPSV23)の定期接種制度が開始された.定期接種の開始により急速に接種率は上昇しており,今後さらなる向上が期待されている.
肺炎球菌結合型ワクチンは莢膜多糖体抗原にキャリア蛋白を結合させたワクチンで,T細胞依存性抗原であり,乳幼児にも免疫原性があり,免疫学的記憶が認められ,追加接種によるブースター効果がある.13価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV13)は,23価肺炎球菌莢膜多糖体ワクチン(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine:PPSV23)と同等かそれ以上の免疫原性を示し,オランダの大規模臨床試験では菌血症を伴わない肺炎球菌性肺炎にも有効性を示し,その効果は期待される.
小児への13価肺炎球菌結合型ワクチン(13-valent pneumococcal conjugate vaccine:PCV13)の接種は,通常2カ月齢でHib(Haemophilus influenza type b)ワクチンなどと同時に,3カ月齢,4カ月齢でHibワクチン,DPT-IPV(diphtheria,pertussis,tetanus,inactivated polio vaccine)ワクチンなどと同時接種されることが多くなってきている.本稿では,PCV13の小児及び成人での利用に加え,PPSV23(23-valent pneumococcal polysaccharide vaccine)の接種スケジュールについて概説する.
予防接種の安全性は高いが,副反応はゼロではない.成人に安全に肺炎球菌ワクチンを接種するにあたり,定期接種・任意接種の接種要件を理解し,不適当者・要注意者を見極めることが重要である.歴史的経緯から接種経路についても注意が必要である.副反応・有害事象の考え方と対処法,および予防接種後副反応報告の義務化とその概要,健康被害救済制度についても理解しておく必要がある.
肺炎球菌ワクチンの接種率向上は,高齢者の医療費を抑制するためにも重要な政策目標である.そのため,65歳以上の高齢者を対象にした定期接種化が実現された.これは,臨床的,医療経済的検討からワクチンによる肺炎球菌感染症の費用削減効果が明らかとなった影響が大きい.一方,新しいワクチンの登場で,その使い分けが新たな問題となっている.費用対効果の実証研究に基づき,肺炎球菌ワクチンの効果をどう考えるべきか概説する.
2011年に日本の死因別死亡数で肺炎が第3位となり,高齢者社会における肺炎の重要性が再認識されている.肺炎起因菌で常に上位に位置する肺炎球菌の感染予防策は肺炎による死亡者数を減少させるためにも重要であり,肺炎球菌ワクチン接種が本邦においても導入されているが,現行肺炎球菌ワクチンの限界も示唆されており,次世代肺炎球菌ワクチンの創成が期待されている.
症例は21歳,女性で,長時間の立ち仕事の後に横紋筋融解症を発症した.学童期より間欠的に運動後の筋痛と筋力低下を繰り返した病歴があるが,非発作時には筋力低下や血清クレアチンキナーゼ(creatine kinase:CK)値上昇は認めなかった.血清アシルカルニチン分析の結果から極長鎖アシルCoA脱水素酵素(very long-chain acyl-coenzyme A dehydrogenase:VLCAD)欠損症が疑われ,β酸化能の測定により診断が確定した.反復する運動後の筋痛を主訴とする場合,成人においても先天性脂肪酸代謝異常症を念頭に置き,アシルカルニチン分析を検討すべきである.
Fitz-Hugh-Curtis症候群(Fitz-Hugh-Curtis syndrome:FHCS)は,骨盤内炎症性疾患の波及により肝周囲炎をきたした病態で,腹腔鏡によるviolin string-like adhesionの確認などにより診断されてきたが,近年,造影CT早期相での肝被膜から被膜下の濃染像がFHCSの診断に有用との報告が散見される.今回,右上腹部痛を主訴に入院し,造影CTなどの画像診断が診断の一助となったFHCSの2例を経験した.
症例は71歳,女性.35歳時に多発性内分泌腫瘍症I型(multiple endocrine neoplasia type I:MEN I型)に合併したZollinger-Ellison症候群にて外科手術.36年後,下肢などの壊死性遊走性紅斑,膵・肝に再発性多発腫瘍を認め,化学療法を行ったが肺膿瘍にて死亡した.ガストリン,グルカゴンは高値で,再発膵腫瘍の免疫染色でガストリノーマにグルカゴノーマの合併を認めた.膵内分泌腫瘍では長期経過後に第2ホルモンの上昇とそれに伴う臨床症状が出現することがある.
近年,βサラセミア患者は凝固傾向を伴い,血栓塞栓症合併のリスクが高いことが認識されている.今回,肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症の原因検索で,MCVとHbA1c低値を契機に軽症型βサラセミアと診断された症例を経験した.これまで我が国ではあまり認識されていなかった血栓塞栓症のリスク因子としてのβサラセミアについて概説する.
患者は33歳,女性.妊娠末期より強い口渇,多飲,多尿を認めていた.妊娠第36週に胎児機能不全のため,緊急帝王切開術を施行された後も症状は続き,当科へ紹介され,尿崩症(diabetes insipidus:DI)と診断した.また,肝胆道系酵素の上昇を認め,急性妊娠性脂肪肝(acute fatty liver of pregnancy:AFLP)と診断した.AFLPによる肝機能障害に伴い,一過性に尿崩症を来たしたと推察した.速やかな胎児娩出により,肝機能障害と尿崩症はともに速やかに軽快した.
2型糖尿病(diabetes mellitus:DM)や慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)といった生活習慣病が骨代謝に影響を及ぼすことが明らかとなり,生活習慣病関連骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症の代表例と位置づけられている.そして「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」では生活習慣病関連骨粗鬆症を来たす原因疾患として,コントロール不良な2型DMやステージG3のCKDが挙げられている.また,慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)においても骨折リスクが高まるとのエビデンスが集積しつつある.生活習慣病関連骨粗鬆症の治療法は確立されておらず,現時点では原発性骨粗鬆症の薬物治療開始基準に準じる.しかし,生活習慣病関連骨粗鬆症は骨質劣化型が多いとされ,骨密度では表されない骨の脆弱化が存在することから,代表的な骨折危険因子である脆弱性骨折の既往の問診とX線による椎体骨折判定が極めて重要である.骨折のない例では骨密度が若年成人平均の80%未満から治療介入を考慮する必要性が提言されている.
近年,臨床応用された冠動脈内画像診断法は,冠動脈プラークの組織性状や微細構造をリアルタイムに描出することを可能とし,冠動脈疾患の診断・治療の精度に革命的進歩をもたらした.急性冠症候群の原因となるプラーク破綻を来たす前駆病変は,陽性リモデリング,脂質コア,薄い線維性被膜,マクロファージの浸潤の病理学的特徴を有する不安定プラークと考えられている.冠動脈内画像診断法は,これらの要素を特異的に描出可能であり,不安定プラークの生体内での同定,治療効果の判定,および将来の心血管イベントの予測をするうえで,現時点で最も有用と考えられる診断法である.不安定プラークに関する知識と冠動脈画像診断技術が進歩することにより,冠動脈疾患患者の長期予後が改善されることが期待される.
機能性消化管障害の1つである機能性ディスペプシア(functional dyspepsia:FD)とHelicobacter pylori(H. pylori)感染胃炎が保険診療病名となったことでFD診療は大きく変化した.これまで慢性胃炎として扱われてきた胃炎の概念は,このFDとH. pylori感染胃炎の2つに集約されつつある.FDの病態として胃適応性弛緩障害,胃排出障害,知覚過敏などの関与が明らかとなり,最近では十二指腸の炎症や小腸内細菌増殖までが病態に関与している可能性が指摘されている.FDにおけるH. pyloriの関与は大きくないものの,H. pylori陽性者では除菌治療が保険診療で認められるため,まず除菌治療を先行させることが可能となり,酸分泌抑制薬,消化管運動機能改善薬,漢方薬,抗不安薬などを患者個々の状態に合わせて使い分ける時代となったといえる.まだまだ不明な点が多いFD診療ではあるが,概念の再構築などを通して,病態整理を行うとともに,ディスペプシア症状発現の予防と制御を目指したさらなる診断法と治療法の開発が期待される.