進行期肺癌の治療成績はこの10年で大きく進歩した.免疫チェックポイント分子に対する抗体によるT細胞免疫療法は,これまでに想像しなかった長期生存を生んだ.PD-1阻害薬単剤治療で始まったICI(immune checkpoint inhibitors)治療は,プラチナダブレット併用,抗CTLA-4抗体併用など複合免疫療法へと進化したが,長期フォローアップによりそれぞれの特性が明らかになりつつある.ここでは,進行期肺癌免疫療法の進歩と現状について述べる.
非小細胞肺癌のI-II期とIII期の一部では,外科切除が治療の中心を担っている.しかし,外科切除のみでの成績は十分ではなく,周術期に薬物療法を追加することによる治療成績の向上が望まれる.これまでのプラチナ製剤併用療法に加え,分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の導入が行われており,周術期薬物療法は複雑化している.最新の臨床試験結果を踏まえ,今後の周術期治療について解説する.
ドライバー遺伝子に対する分子標的治療薬は,治療標的を有する進行期非小細胞肺癌患者の予後を大きく改善した.現在本邦では,8種のドライバー遺伝子に対して20の分子標的治療薬が承認されており,さらに新たなドライバー遺伝子に対する薬剤や,異なる作用機序を持つ分子標的治療薬が承認される見込みである.分子標的治療薬に対する耐性機序の解明も進んでおり,今後もドライバー遺伝子陽性非小細胞肺癌治療の進歩が期待される.
非小細胞肺癌において,がん化の原因遺伝子であるドライバー遺伝子が多数同定されており,LC-SCRUM-Asiaの遺伝子スクリーニングでは約6割の患者に何らかのドライバー遺伝子が同定されている.このうち8つの遺伝子変化に対応した分子標的薬が既に承認され,臨床応用されている.進行非小細胞肺癌では,マルチ遺伝子検査を用いて,診断時に効率よくドライバー遺伝子を判定して,初回治療から個別化医療を実施することが求められている.
肺癌患者のCOVID-19感染/重症化/死亡リスクについては様々な報告があるが,必ずしも一定せず,肺癌の重症度,治療内容などが影響する可能性がある.ワクチン接種を含む感染予防策は有効であり,感染蔓延下でも標準治療を提供することが重要である.検診受診の抑制は新規治療数の減少をもたらしており,今後の進行肺癌患者増加が懸念される.医療逼迫により終末期医療の一部は大きく損なわれ,今後の課題として残された.
第3次人工知能(Artificial Intelligence:AI)ブームの中核技術である深層学習を利用することにより,肺癌の画像診断に対する高精度なコンピュータ支援診断(Computer-aided diagnosis:CAD)システムの開発が可能になった.これまでに医療機器として承認されたAI-CADは肺結節の検出を目的としたものがほとんどであるが,今後は質的診断や予後予測が可能なAI-CADや診断過程を明瞭化するAI-CADなどが期待されている.またAI-CAD普及のためには,技術面だけでなく利用形態についての検討も必要である.
最近の気管支鏡手技の進歩として,上皮病変の拾い上げに自家蛍光気管支鏡,血管の変化を観察するnarrow band imaging,末梢病変を超音波プローブで描出し生検を繰り返せるガイドシース(guide sheath:GS)を併用した気管支腔内超音波断層法,極細径気管支鏡,縦隔・肺門リンパ節などの良悪性診断に用いるEBUS(Endobronchial Ultrasonography)-guided transbronchial needle aspirationなどが挙げられる.
肺癌は分子標的治療・免疫チェックポイント阻害薬などの薬剤治療が最も広く行われている腫瘍であり,それに伴って組織学的診断にもさまざまな要求事項が多い.また,腫瘍の一部を採取したのみの生検組織では,形態学的に分化傾向がはっきりしなくとも免疫染色による生物学的判定が求められている.本稿では,肺癌における生検での診断用語および2021年4月,ほぼ5年ぶりに改定されたWHO第5版の概要を紹介する.
70代,女性.突然の背部痛で発症し,腹痛,顔面蒼白のため救急搬入された.初診時出血性ショックの状態であり,造影CTでは肝右葉内に巨大な仮性動脈瘤を認めた.また肝被膜下血腫と血性腹水も伴っていた.緊急腹部血管造影を施行した結果,肝内肝動脈瘤破綻による仮性動脈瘤形成の状況と診断し,コイル塞栓術を行った.本症例は肝胆膵の手術歴や肝内結石の既往は無く,肝内肝動脈瘤が自然破裂した極めて稀な症例であった.
80歳台,男性.筋肉痛,発熱を認め前医に受診した際,血小板減少,急性腎障害,肝障害を認め播種性血管内凝固症候群(DIC)疑いとして紹介受診となった.診断に先行して抗菌薬投与を開始したところ,Jarisch-Herxheimer反応を示唆する徴候を認め,Weil病(黄疸出血性レプトスピラ症)を疑い検体提出に至った.黄疸は遷延したものの,抗菌薬早期開始により比較的良好な経過をたどった.血小板減少に急性腎障害,黄疸を伴う症例ではレプトスピラ症も鑑別に挙げる必要がある.
61歳,男性.38歳までブラジル在住.心電図は心室内伝導障害を認め,心エコーは局所壁運動低下を認めた.心臓MRIは遅延造影を認め,心サルコイドーシスを疑ったが確定診断に至らなかった.南米出身のためシャーガス病を疑ったところ,抗Trypanosoma cruzi抗体陽性であり,シャーガス病と診断した.シャーガス病は日本人には稀な疾患だが,中南米等の流行地域在住歴がある場合は念頭に置くことが大切である.
Structural Heart Interventionは心不全治療を目的とする弁修復治療として知られているが,これとは全く性質を異にする新しいカテゴリーが存在し進歩を遂げている.それは心疾患に起因する脳塞栓に対して脳塞栓の再発予防を目的とするものである.なかでも卵円孔開存(patent foramen ovale:PFO)はこれまで治療対象として考慮されなかった心内構造であるが,若年成人の脳梗塞発症に大きく関与している可能性がある.PFOの診断には十分なバルサルバ負荷を用いた経胸壁心エコーの実施が重要であり,さらに経食道心エコーで形態評価を行い,リスク評価を行う必要がある.PFOカテーテル治療では対象となる患者の診断や選択に脳卒中医の関与が重要な位置を占める.脳卒中医と循環器内科医の共同チーム(Brain Heart Team)による脳梗塞再発予防の取り組みは,今後の新しい診療体制として形成していくべきモデルとなる.
齲蝕や歯周病などを引き起こす口腔細菌の脳卒中発症への関与が示唆されている.歯周粘膜組織では生体防御が脆弱であり,歯科処置や歯磨き等の刺激で,口腔細菌が血液中に移行し菌血症を引き起こす.なかでもコラーゲン結合蛋白Cnmを発現する齲蝕原性細菌の口腔内保有は,脳内出血に関連する.さらに,口腔細菌は毒性・代謝因子を産生し液性機序で脳卒中の発症に関与しうる.最近になり,口腔細菌の腸管移行による腸内細菌叢のディスバイオシス(細菌構成の異常)を介した免疫機序により脳卒中リスクが高まる可能性も明らかになった.これら3つの機序は互いに影響し合いながら,脳卒中の発症に寄与すると推測されている.このような口腔細菌の脳卒中病態への関与を鑑みれば,口腔ケアによる脳卒中低減効果が期待される.未だエビデンスレベルの高い介入研究は存在しないが,今後,脳卒中低減を目指した双方向性の医科―歯科連携が望まれる.