形質細胞腫瘍は単クローン性免疫グロブリン(M蛋白)の存在を特徴とする疾患で,monoclonal gammopathy of undetermined significance(MGUS)から,くすぶり型多発性骨髄腫,「症候性」多発性骨髄腫,形質細胞白血病へと進展する.高カルシウム血症,腎不全,貧血,骨病変などの症候や悪性のバイオマーカーを有する場合に多発性骨髄腫と診断され,臨床所見に基づく病型診断が重要である.
多発性骨髄腫に対する治療は,自家末梢血幹細胞移植併用大量化学療法の開発,免疫調整薬・プロテアソーム阻害薬・抗体薬といった異なる機序を持つ新規治療薬の導入により,飛躍的に向上しつつある.様々な新薬が開発される中で,初回治療,再発時の治療ともに,複数ある治療選択肢の中から患者状態や病態に応じて最適な治療を選択していくことが求められる.予後因子に関しても,治療の変遷により変化していく可能性がある.
多発性骨髄腫に対する治療についてはこれまで免疫調節薬,プロテアソーム阻害薬,抗CD38モノクローナル抗体薬が三本柱であったが,T細胞による免疫療法であるキメラ抗原受容体T細胞療法(CAR-T細胞療法)および二重特異性抗体の高い有効性が報告され,四本目の柱となりつつある.その他にもBCL2阻害剤,新規セレブロン・モジュレーターなど種々の治療法が開発されている.今後,CAR-T細胞療法と二重特異性抗体を軸とした骨髄腫治療のパラダイムシフトが起こるものと予想される.
多発性骨髄腫の症候は,古典的にはCRAB(高カルシウム血症:hypercalcemia,腎障害:renal insufficiency,貧血:anemia,骨病変:bone legion)として知られるが,CRAB以外にも多臓器にわたる障害を呈する.それらの症候はいずれも患者のQOLを阻害し,時として致命的となるため,患者を多角的に診ながら個々の患者に応じた支持療法が必要となる.
多発性骨髄腫の前段階と称されるMGUS(monoclonal gammopathy of undetermined significance)は,その腫瘍量の少なさから臓器障害を伴わないとされてきた.しかし近年MGUSにおいても,産生されたM蛋白による腎障害を呈することが明らかになり,これをMGRS(monoclonal gammopathy of renal significance)と定義した.抗腫瘍療法による腎予後の改善が期待されるが,診断,治療方針などに関する課題は多く,認知度の低さによる未診断例も多いと予想される.腎臓内科,血液内科,病理医をはじめ,腎臓を診る全ての医師がMGRSを認識する必要がある.
POEMS症候群(クロウ・深瀬症候群)は形質細胞のクローン性増殖を基盤に,多発神経障害,浮腫,胸腹水,臓器腫大,内分泌異常,皮膚症状,M蛋白血症,などを呈する全身性疾患である.初期症状は多彩であり,一般内科を受診することが多いが,診断に難渋することもしばしばである.かつては致死率が高い疾患であったが,多発性骨髄腫と同様の治療により生命予後は飛躍的に改善しており,一般内科および各内科サブスペシャリティーにおいて見逃してはならない疾患のひとつである.
ALアミロイドーシスは異常形質細胞から産生される単クローン性免疫グロブリン軽鎖がアミロイド蛋白に変性し,全身諸臓器に沈着,臓器不全を来たす疾患である.病理学的に免疫組織化学染色でアミロイド沈着を証明することで診断される.自家移植は重要な治療選択肢であり,寛解導入療法としてダラツムマブによる化学療法が標準治療と考えられる.近年奏効が期待できる治療選択肢は増えており早期診断・早期治療が重要となってくる.
原発性マクログロブリン血症(Waldenström's macroglobulinemia:WM)は,近年分子病態解明および新規分子標的治療薬の臨床導入が進められており,血液内科の中でも注目すべき疾患の一つである.一方,様々な診療科への受診が診断の契機となることも多く,一般内科医にも本疾患の基本的な知識を有してもらいたい.本稿では,WMに対する病態・診断・治療について最新の知見も含めて概説する.
症例は70歳台男性.10年前に免疫性血小板減少症(ITP)を発症し維持療法を受けている.SARS-CoV-2 mRNAワクチン接種3日後に血小板数は1,000/μlに減少し,出血症状を呈した.治療開始後もさらに好中球減少も出現するなど難治性であった.維持療法中あるいは過去に治療歴がある場合,ワクチン接種後のITP再発頻度が高いとされている.接種の際には事前の患者指導や接種後の血球数確認が重要である.
症例は76歳,女性.新型コロナウイルスワクチン接種後7日目に呼吸困難が出現し,当科を受診した.胸部CTで新規に広範なすりガラス影を認め,新型コロナウイルスワクチンによる薬剤性肺障害の疑い例と診断した.ステロイドパルス・シクロホスファミドパルス療法後に呼吸状態は改善したが,在宅酸素療法を要した.退院後,シェーグレン症候群合併が判明した.難治性の臨床経過の原因を探るべく,文献的考察を加えて報告する.
32歳女性.尿潜血,蛋白尿を主訴に来院.難聴や眼症状なし.腎不全の家族歴がある.小児期に他院で腎生検行い家族性良性血尿と診断された.電子顕微鏡で腎組織を再評価したところ,腎糸球体基底膜の広範な不規則な肥厚と層状変化を認めた.遺伝子解析の結果,X染色体連鎖型Alport症候群と最終診断した.難聴や眼症状がなくても腎不全の家族歴がある患者で血尿や蛋白尿を認めた場合,原疾患としてAlport症候群を念頭に置く必要がある.
91歳の女性.呼吸困難で発症し,高度徐脈を認めたため循環器科紹介となったが,喘息様頻呼吸,腹痛など多彩な臨床症状を呈し,入院後に意識障害,高度縮瞳を認め,ジスチグミン臭化物内服に伴うコリン作動性クリーゼが判明した.高齢者では排尿障害のためコリン作動薬を長期服用していることも多く,原因不明の呼吸困難やその他多彩な症状を認める場合は,常にコリン作動性クリーゼを念頭に置いておく必要がある.
高血圧や糖尿病を含めた非感染性疾患(Non-Communicable Diseases:NCDs)を有する患者に対する適切な診療を行うためには,医師のみではなく,多くの医療関係者による各分野の専門性を活かしたチーム医療が重要である.各疾患において専門家としての診療の質を担保する仕組みがある一方で,NCDsは慢性疾患であるため,1人の患者が複合した疾患を抱えることが多いのが実情である.そこで本稿では,NCDsの中でも特に生活習慣が関わる“日本糖尿病療養指導士制度”“循環器病予防療養指導士制度”“腎臓病療養指導士制度”“肥満症生活習慣改善指導士制度”の4つの療養指導士等制度について,その現状と今後の発展について概説する.療養指導士等が複合した疾患を抱える患者に対するチーム医療の中で重要な存在として活躍することで,国民の更なる健康増進につながることが期待される.
脳小血管は,脳の実質への穿通枝や,軟膜動脈以降の細い血管の総称で,部位ごとに特有の構造と機能を持つ.この小血管を侵す疾患群を脳小血管病という.脳小血管病は,MRIでは,脳白質の信号異常領域などで認識され,高齢者で高頻度に認める.急性のラクナ梗塞や,慢性の認知機能障害,運動機能障害を引き起こす.近年,単一遺伝子異常でおこる脳小血管病や,脳小血管病に特有のリスク遺伝子が明らかになり,大血管由来の脳卒中と異なる分子病態の存在が示唆されている.単一遺伝子異常で起こる脳小血管病の原因遺伝子であるHTRA1は潜性で発症するが,近年,ヘテロ接合体でも脳小血管病を起こし,また,非遺伝性の脳小血管病のリスク遺伝子としても単離された.HTRA1はタンパク質分解酵素であるが,この活性の低下が広く脳小血管病の発症と関連する.HTRA1欠損症の分子病態解析から,本疾患に有効な治療薬の開発が期待されている.