関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,関節滑膜を病変の主座とする炎症性疾患である.関節破壊は,最初の1~3年間の進行が最も顕著である.最近では早期診断が可能となり,早期から積極的にメトトレキサート(methotrexate:MTX)などの抗リウマチ薬を使用する.また,治療抵抗性の場合には,生物学的製剤の導入によって高い寛解導入率が得られる.治療は,「関節リウマチ診療ガイドライン2014」に準じて行われる.
全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)は,症状・血液尿検査・胸部X線所見が,時期を隔てた所見も含めてSLE分類基準を満たす場合に診断できる.基準に満たないのであれば保留,または否定して他疾患を検索する.現行のSLE分類基準は感度・特異度が高く,診断の肯定・否定にとって実用的である.治療法は,ステロイド用量と減量日程,併用する免疫抑制薬に選択の幅があり,国際的ガイドラインも概略ないし総論にとどまっている.
多発性筋炎は骨格筋の炎症により,四肢近位筋や体幹の筋力低下を来たす慢性炎症性疾患で,典型的な皮疹を伴うものは皮膚筋炎と呼ばれる.我が国では2015年1月の難病医療費助成制度改正に伴い,診断基準が改訂され,無筋症性皮膚筋炎が診断可能になり,自己抗体の診断項目では抗Jo-1抗体以外の抗アミノアシルtRNA合成酵素抗体が追加された.今後,筋炎特異的自己抗体測定の普及に伴う診断,病型分類および治療の進歩が期待される.
好酸球性多発血管炎性肉芽腫症(eosinophilic granulomatosis with polyangiitis:EGPA)(旧名:Churg-Strauss症候群)は気管支喘息やアレルギー性鼻炎を背景に末梢血液中好酸球数著増と血管炎徴候を呈する.病理は組織への好酸球浸潤,壊死性血管炎,肉芽腫形成が特徴で末梢神経障害の頻度が高く,MPO-ANCA陽性では診断は比較的容易である.重篤な臓器障害例は機能・生命予後が不良で,ステロイドに加え免疫抑制薬,難治性の末梢神経障害に対してはガンマグロブリン製剤により加療する.
巨細胞性動脈炎(giant cell arteritis:GCA)は,頭頸部の大血管を主に侵す原因不明の血管炎で,専ら高齢者に発症する.病理組織所見で,血管壁に多核の巨細胞を伴う炎症性細胞浸潤を認める.臨床像では側頭動脈の怒張と疼痛(頭痛)が特徴的で,眼動脈病変による視力障害が問題となる.高用量ステロイドは有効だが,骨粗鬆症や糖尿病など有害事象が問題となる.近年,トシリズマブによる治療が注目され,期待されている.
成人Still病(adult Still's disease:ASD,またはadult-onset Still's disease:AOSD)は高熱(弛張熱),関節症状,皮疹を主徴とした炎症性疾患であり40代を中心とした成人に好発する.自己抗体は通常陰性であり,血清フェリチンの上昇が特徴的である.診断は山口らの分類基準を用いて行い,重症度分類で中等症以上が指定難病の対象となる.合併症として血球貪食症候群が重要である.治療では副腎皮質ステロイドを使用し,難治例では免疫抑制薬を併用する.近年は生物学的製剤の有効性が報告されている.
Sjögren症候群(Sjögren syndrome:SS)は唾液腺炎,涙腺炎を主体とする臓器非特異的全身性自己免疫疾患である.原発性である一次性と他の膠原病に合併する二次性に分類されるが,本邦での有病率は約0.05%と推定され,圧倒的に女性に多い.腺症状のみならず,間質性肺炎,間質性腎炎,末梢神経障害などの腺外症状の出現や,原発性胆汁性肝硬変との合併など,多彩な臓器障害を合併し得る.長らく対症療法のみで対応する疾患という認識が強かったが,近年新しい分類基準,ESSDAI(EULAR Sjögren's Syndrome Disease Activity Index)といった疾患活動性評価基準が作成され,さらに免疫抑制薬や生物学的製剤などの新しい治療薬による病態にアプローチした治療が試みられている.今後の発展が期待される疾患である.
リウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)は高齢者に好発する炎症性リウマチ性疾患であるが,診断に特異的なマーカーはなく,特に関節リウマチとの鑑別が問題となる.少量の副腎皮質ステロイドが著効する場合が多く,多くの場合中止が可能であるが,中止困難例や再発例など経過は多彩である.巨細胞性動脈炎を合併する症例や大型血管炎が潜在する症例があり,注意を要する.
重篤な低血糖発作を契機に診断された糖尿病,腎不全合併の膵尾部微小インスリノーマの1例を経験した.Fajans指数,Turner指数,Grunt指数,選択的動脈刺激静脈サンプリングでは診断基準を十分満たさず,腫瘍サイズ,ネフローゼ症候群,腎不全の影響が示唆された.インスリノーマ診断前数年間は検診にて高血糖指摘されず,組織学的に明らかな糖尿病腎症,増殖網膜症を認めたことより,インスリノーマにより高血糖がマスクされた状態で細小血管症が進展したと推察された極めて稀な症例と考えられた.
症例は19歳,男性.聴力障害,左下肢失調および両下肢痙縮による歩行障害で発症した.頭部造影MRIでは脳幹を中心に増強効果を伴う点状の異常信号域が散在性にみられた.ステロイドパルス療法の効果は乏しく,CLIPPERS(chronic lymphocytic inflammation with pontine perivascular enhancement responsive to steroids)症候群を疑い,経口ステロイド内服を開始したところ,下肢痙縮・画像所見ともに改善を認めた.特徴的な画像所見から本疾患を疑い,他疾患を除外したうえで早期に治療を行うことが重要と考えられた.
患者は46歳,女性.主訴は腹痛.20歳時にもやもや病と診断.43歳時より食後の腹痛を認め,CTにて腹腔動脈,上腸間膜動脈起始部に閉塞を認め,高安動脈炎疑いで当科紹介となった.画像所見およびステロイド治療が無効であることなどから高安動脈炎は否定的であると考えられ,血管外科にてバイパス手術施行.病理では高安動脈炎や動脈硬化とは異なる所見を認め,もやもや病に腹部血管病変が合併した病態であると診断した.
陰圧性肺水腫(negative pressure pulmonary edema:NPPE)は,上気道閉塞に伴う胸腔内圧の急激な低下により発症する非心原性肺水腫である.診断や治療の遅れは致命的になる可能性があるが,速やかな診断と治療を行えば,短時間で大きな合併症もなく回復することができる.日常診療において内科医が本疾患に遭遇する機会はあり,忘れてはならない疾患の1つである.痙攣発作後に持続する低酸素血症の際には,NPPEを鑑別の1つとして挙げるべきである.
抗リン脂質抗体症候群(antiphospholipid antibody syndrome:APS)の肺病変として肺血栓塞栓症,肺高血圧症,肺胞出血が知られているが,明らかな結合組織病の合併のない原発性APSと間質性肺炎との合併は稀である.一般的にAPSへのステロイド治療は無効とされているが,本症例の経過から,少なくとも増悪早期の間質性肺炎に対しては効果がある可能性がある.
今日,気管支喘息や慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)では,吸入療法を主体とする薬物療法が行われているが,治療の継続性や吸入手技など課題も多い.慢性疾患である喘息とCOPDにおいては,これらの課題を克服するために患者のセルフマネージメント能力を向上させることが肝要となる.患者教育は,喘息・COPDの管理目標達成のためには欠くことができない重要なステップであり,患者教育の実施によって,医師と患者間での適切な情報共有,円滑なコミュニケーション,セルフマネージメントの支援が可能となり,その重要性は計り知れない.本稿では,吸入療法における患者管理の重要性と,近年,IT技術を背景に発展する患者教育・セルフマネージメント法の最近の動向について述べる.
肺炎は死亡率,発症率ともに高い重要な疾患である.つまり,肺炎の診療には専門医だけでなく非専門医も携わる機会が多く,日本の肺炎診療の質を向上させるためには優れた肺炎診療ガイドラインが不可欠である.エビデンスがまだ十分ではなかった時代に初版の市中肺炎診療ガイドライン,院内肺炎診療ガイドラインが作成され,その後,よりエビデンスに裏づけられ,かつシンプルで実用性の高いガイドラインとしてそれぞれが改訂された.また,超高齢社会の日本では市中肺炎と院内肺炎のいずれにも分類しがたい中間的な肺炎症例も多く,医療・介護関連肺炎として新たに定義され,診療ガイドラインが作成された.今後は,便宜性も考慮し,これらのガイドラインを1つにまとめた肺炎統一診療ガイドラインの作成が進められている.EBM(evidence-based medicine)の重要な要素はエビデンスだけではない.医療者の経験・技量,患者の背景・意向・価値観も考え合わされたガイドラインが今後も作成されることが望まれる.