関節リウマチは,複数の遺伝・環境因子が発症に関わる自己免疫疾患である.最大の遺伝因子はHLA-DRB1遺伝子多型であり,シトルリン化ペプチドに対する自己免疫応答に関与する.ゲノムワイド関連解析によって,100を超える疾患関連遺伝子領域が同定されたが,その積み重なりを評価するpolygenic risk scoreを,診断,発症予測,重症化予測などに利用することで,ゲノム精密医療の実現が期待されている.
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は有病率が高い,関節病変を首座とする自己免疫疾患である.本稿ではRAの病因を,pre-clinicalステージである全身的自己抗体産生から,病態発症・慢性化の素地となる関節での局所応答を各過程に分けて詳述し,昨今のシングルセル解析から見えてきた最新のトピックを含めてまとめる.
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,膠原病の中でも最も頻度の高いリウマチ性疾患である.近年のRA治療の進歩に伴い,短期的QOLの改善を目標とする治療から,長期的QOL改善を目標とする治療にRAの治療戦略は大きく変化した.すなわち,治療目標はこれまでの炎症コントロールから,関節破壊防止へと変化しており,臨床的寛解が現実的な治療目標となった.しかし,一方で,高騰するRA医療費,RA患者の高齢化や合併症,生命予後などの課題も残されている.
関節リウマチ治療(RA)の治療は飛躍的に進歩したが,未だ治癒を望むことができない疾患である.他の疾患同様,発症早期より介入することで身体機能や生命予後が改善することが示されている.海外では,関節炎を有するが関節リウマチと診断されない状態(Pre-RA)から治療介入する試験が行われ,良好な結果が最近得られている.しかし,実臨床ではRAの診断に至らない場合には医療機関,専門医と疎遠になることが少なくない.そのため,Pre-RAから早期RA(ERA)への移行を如何に捉えるかが重要であり,Pre-RAの定期的経過観察が可能なシステムの構築が望まれる.本稿では,Pre-RAを含むERAの診断と治療について最新知見を共有する.
関節リウマチの診療ガイドライン・リコメンデーションは欧州リウマチ学会(EULAR),米国リウマチ学会(ACR)および日本リウマチ学会(JCR)からそれぞれ発表されている.いずれもTreat-to-target治療戦略を基本とし,関節リウマチと診断されたら直ちにメトトレキサートを開始し,3~6カ月の間に治療目標(寛解)に到達しなければ,生物学的または分子標的抗リウマチ薬による治療強化が推奨される.
関節リウマチの治療は格段に進歩したが,生物学的製剤やJAK阻害薬に抵抗性の症例は少なからず存在する.なかでも,作用機序の異なる分子標的薬を複数試みても充分な治療効果を得られない,また合併症などで必要な治療ができない,アドヒアランスが不良であるなどの要因で治療困難となる症例が,“difficult-to-treat rheumatoid arthritis(D2T RA)”と呼ばれてアンメットニーズとなっている.このようなD2T RAに対してどのようにアプローチすべきか,考えてみたい.
関節リウマチ(Rheumatoid arthritis:RA)は,慢性炎症性多発関節炎を来たす自己免疫疾患である.本疾患は関節外症状として間質性肺疾患(Interstitial lung disease:ILD)を合併し,生命予後に影響する.しかし,ILDを合併したRA(RA-ILD)に特化した治療戦略はいまだ確立されていない.RA-ILDに対するリスク評価,モニタリング,関節炎のコントロール,抗線維化薬の使用を含めた最適な治療戦略の確立は今後の課題である.
関節リウマチ(rheumatoid arthritis:RA)は,妊娠可能な年齢の女性が罹患することもある疾患であり,治療に際しては妊娠・出産についても配慮が必要である.RA治療のアンカードラッグであるメトトレキサートは妊娠計画中・妊娠中は使用できないが,生物学的製剤など,妊娠計画中・妊娠中の治療の選択肢も増えており,そのような薬剤を使用し,妊娠計画中・妊娠中も疾患活動性を抑えることが重要である.
症例は53歳,男性.抗myelin oligodendrocyte glycoprotein(MOG)抗体陽性視神経炎に対するステロイド療法中に咳嗽,発熱が出現.胸部CTにて両側上葉にコンソリデーションを認めた.臨床経過,気管支鏡検査から間質性肺炎を疑いステロイド,免疫抑制剤を併用して治療したところ改善を認めた.抗MOG抗体関連疾患では呼吸器症状にも注意しながら観察していく必要があると思われた.
57歳,女性.クローン病にて小腸切除の既往があり,長期間PPI(Proton Pump Inhibitor)を内服していた.また,看護師として夜勤業務に従事していた.冬季に入り手指のしびれとCK上昇を認め,血液検査で低Mg血症,低Ca血症を認めた.ビタミンD欠乏もあり,電解質やビタミンDの補充とPPIを中止することで電解質異常は改善した.短腸症候群,PPI,日光曝露の減少により電解質異常を来したと考えた.
60代,男性.口内炎と全身のびらんが出現し,皮膚生検にて当初尋常性天疱瘡と診断された.精査目的で施行した体幹部CTで左腸骨領域をはじめ全身のリンパ節腫脹を認め,リンパ節生検の結果,濾胞性リンパ腫(follicular lymphoma:FL)の合併が確認されたため最終的に腫瘍随伴天疱瘡(paraneoplastic pemphigus:PNP)と診断した.PNPは感染症の合併が致命的となることから,厳重な感染管理により生命予後の改善が期待される.
79歳,女性.発熱,下痢を主訴に救急搬送された.明らかな刺し口は認めなかったが,全身に淡い紅斑の散在を認めた.千葉県南部での農作業歴からリケッチア感染症を疑い抗菌薬治療を開始し,後日抗体検査結果から日本紅斑熱と診断した.治療中に全身の紫斑と水疱が出現し,日本紅斑熱に伴う急性感染性電撃性紫斑病(AIPF)も疑われたが,臨床所見から中毒性表皮壊死症(TEN)と判断し,被疑薬中止とステロイド治療により治癒した.
HIV感染症は,抗ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)療法により,不治の病から慢性感染症に変化した.抗HIV療法はその改良により,現在1日1回1錠のSTR(single tablet regimen)が主流であるだけでなく,長時間作動性の注射剤も臨床現場に用いられるようになっている.抗HIV療法は,全てのHIV感染者に治療開始が推奨され,それにより新たな感染予防効果も認められる.
AIやICTの技術は指数関数的に進化するとされ,AIが人間に置き換わるとの議論もある.AIが有する①無制限の集中力と持続力,②超高速の論理的思考力,③膨大な記憶力と検索力は医療に革新的な変化をもたらす可能性がある.海外ではAIやICTの活用や社会実装が進んでいる.わが国でも課題も多いものの,腎臓病診療においてもAIやICTは活用され始めている.ICTを利用した遠隔医療や医療支援は日常診療にも応用されつつある.今後は適正な使用のための指針も必要となる.AIによる腎生検の画像診断も病理医の診断に近づいてきた.今後の臨床研究においてビッグデータ解析は重要である.AIはビッグデータや画像診断などから学習することにより診断・予測を行うだけではなく,人間が従来発見できなかった関係性を発見する可能性もある.AIの膨大な検索能力は論文のシステマティックレビューにも有用である.今後AIやICTの活用が腎臓病分野において期待される.
“Diagnostic Error”は古くから知られており,21世紀に入ってから多くの研究報告がなされるようになった.並行して社会的認知理論の発展により,診断という行為は,人間の頭の中で考えるモデルから,チーム・組織・社会までを含めた広いモデルが提案されている.2015年に全米医学アカデミーは「医療における診断を改善する」報告書を公にして,「a)患者の健康問題について,正確かつ適時な説明ができなかった,またはb)その説明が患者に伝わらなかったこと」と再定義し,将来にわたる各種の政策提言を行った.2020年に医療の質研究庁はメタアナリシス報告書「医療をより安全に」第3版で,エビデンスのある医療安全方策として,臨床判断支援システム,結果通知システム,教育と訓練,ピアレビューを特定した.2022年には非営利団体のリープフロッグが,研修教材などとも連携した,医療現場で利用しやすい29の推奨策を作成した.“Diagnostic Error”は,医師の認知やヒューリスティックな問題にとどまることなく,非常に広範な概念を持ち,個人やチームのみならず,最終的には国家戦略として対応しなければならない重要課題である.